第78話 準備は入念に
王女がパーティーに参加する事が決まってから2週間の間に、闇組織である蜘蛛の金融・強盗部門を追っていた騎士団が戻って来たが、やはり組織の諜報部が手引きしていたのであろう、両部門のアジトは既にもぬけの殻となっており、取り逃がした事が王にも伝わる、恐らく近くの国境を越えて他国へと姿を眩ませたのではないかという見解が有力だ。
既に捕まえた幹部の取り調べ協力は少し前から一段落し、バタバタと忙しく動きながら出発の準備が徐々に整って来た今日は、冒険者ギルドに王女と共に来ていた。
用件は当然クラレットの冒険者登録についてだ。
「―――って事で、王女様の登録を別の名前でお願いしたかったんですよ」
「お願いしますギルドマスター」
到着するなりギルドマスターの部屋へ通され、驚きの顔をするシュトルツに対して更に追い撃ちを掛ける様に別名での登録、齢60前後の男が何と言う事を、または何て無茶苦茶な、と言わんばかりの表情をしながら頭を抱える。
(完全にとばっちりで申し訳ないけど、これはオレ達じゃどうしようもないからな)
「王女様、あとナナセ、冒険者が信頼と信用の両方で成り立ってるのは知っていますね?」
「もちろん知っています」
「そして名前と言うのは、その人物を示す重要な要素の一つです。それを偽名でとなるとギルドとしても、そして冒険者としても、依頼者に対しての関係性が崩れかねません」
あぁ、言われてみれば当たり前の話だわな、ギルドカードを運転免許証なんかと考えれば分かりやすい。
そうじゃなくても名前を偽るって事は、何も知らない側からすればやましい事があるからと捉え兼ねない、そこに後からこういう訳なんですって言った所で、相手からすれば知りませんよの一言でバッサリ切られて、色々と終わる事になる。
しかもそれを冒険者ギルドが把握してましたとなると、下手をすれば大問題にまで発展する可能性もあるか。
そこまで考えが回らないとか、オレは相当勝手な事をしようとしてたな。
「そう…ですか、ではやはり自分の名前で登録するしかありませんね」
「はい、我々としましても一度それを許してしまうと、悪意を持ってそれを利用する者が居ないとは言い切れませんので、申し訳ありませんが」
ただフルネームでの登録となると、それはそれで良からぬ事を考える連中が出るって問題にもなるからなぁ、さて、一体どうしたもんか。
実名でありながら正体をバレない様に済む方法となると………ん、フルネーム?
王女のフルネームが確か、クラレット……、クラレット・リミーナ・エル………っと、結構長い名前だったよな、ならフルネームでの登録じゃなく、名前の一部分での登録は出来ないのか?
「シュトルツさん」
「なんだ?」
「冒険者登録って全名での登録じゃなく、名前の一部分での登録は出来ないんですか?」
「一部……そうか! 王家の名前や王女様個人の名前ではなく、中間名や洗礼名単体での登録ってことか! それなら偽ってる訳じゃないから問題無い、後は王女様がそれを了承して頂けるかどうか」
2人の視線が王女に向かう。
「ではギルドマスター、私をリミーナの名前で登録しますわ」
「かしこまりました、直ぐにご用意いたします。後は万が一の為カードの特記事項として保護をかけて、王女様の全名を記載しても大丈夫でしょうか? 勿論これは王女様の意志でのみ開示出来るように致します」
「何かあった場合の身分を証明する、という事ですわね。是非お願いします」
「それではその様にいたします」
この事で登録時の名前の問題は解決し、更には身分証明としての機能も加わり緊急時、特に他国で何かあった場合の証明性が飛躍的に上昇する。
しかし言い換えれば他国で何かあった際、アルテニアそのものに迷惑を掛ける諸刃の剣でもある為、使い所は慎重を期す必要がある、出来れば使う事が無いに越したことはない。
「あとランクに関してですが」
そうだった、ランクが初期からとなるとGランク、パーティーランクはメンバーのランクの平均になるから、この場合はCランクになる。
これについてはいつも通り強い魔物を狩って納品すれば、金については気にしなくてもいいのだが。
「王女様の実力自体は知っているつもりです、ですがなんの試験もなく上のランクへとする訳にはまいりません、なので今冒険者ギルドに居る者と戦って頂き、それで決めようと思います」
そういいギルドマスターの執務室から訓練場へと移動をする、その時にナナセが考えていたのが相手冒険者についてだ。
この国の冒険者であれば十中八九受験者が王女と気付くはず、そうなれば試験官役の冒険者の方が委縮してしまい、正常な試験にならないのではないかと。
しかしそれも杞憂に終わる。
「やあ待っていたよ」
いつも通り飄々とした話方をするグリフィスであった。
ナナセが驚きつつ説明を求めてシュトルツを見ると。
「ああ見えてアイツは「あ゙ん゙?」…あの人は元AAランクの冒険者だ」
どさくさに紛れてアイツ呼ばわりした結果、がっつり睨まれるとか……統括がそれでいいのか?
「そういう事だ。今はコルセアのギルドマスターではなく、AAランクの冒険者で君の実力を測る試験官としてここに居る。全力で掛かって来るといい」
「そういう事ですか、ならばお言葉に甘えてッ!!」
まさかのギルドマスターと王女の一騎打ちが始まる。
初手からガンガン攻め上がる王女に対してグリフィスは非常に静かだ、上・中・下段と、様々な方向から繰り出される攻撃もしっかり見て避け、場合によっては剣で弾いている。
「どうしましたグリフィス殿! 守ってばかりではありませんか!」
「いやぁまるで火山の噴火の様な荒々しい攻撃と手数だね、机仕事ばっかりで一線を退いてた俺じゃ簡単に手は出せないよ」
その攻撃を全て捌いてる癖によく言う、多分グリフィスさんは王女に限界まで攻撃をさせ続けるつもりだろう。
体捌き、剣筋、スタミナ、機転や読みの速度等の最高と最低で、どれだけ違いが出るかを視る為に。
「そんな事を言って、何かを狙っているのでしょう!」
「そりゃぁねー試験だもの」
お互い足を止めて鍔迫り合い状態になる。
さてどうする、力も技もグリフィスさんが上なのは恐らく王女も気付いている、この状態は圧倒的に王女が不利。
オレの時に見せた一瞬で直線を移動するスキルを使うか?
後ろに引けば仕切り直しになるだろうけど、もし前にでようものなら、重心を逸らされて体勢を崩されるだろう、というかオレならそうする。
「まったく、掴み所がありませんわ…ねッ!!」
「っ!」
王女が剣に力を込めて一瞬間を置いてから、グリフィスの立っていた地面が弾けた様な衝撃が起こる。
しかしグリフィスも何を感知したのか、それを既の所で避けている。
「そんな!?」
「あっぶな、その剣の力かい? おっかない事するなぁ、でも手段としては悪くない。多分試験って事で加減をしたんだろうけど、本来は風の刃か何かを撃ち出すんだろ?」
「その通りですわ、私の魔法力を剣に流して風魔法を放ちます」
マジか……力を込める溜めを不審に思わないと避けようが無い、初見殺し過ぎる、アヤカであれば【魔力干渉】からの無効化は出来るだろうけど、オレは避けきれないな。
でもこれは純粋にこの世界の知識を持った者同士の戦い、見てるオレに取っても何が出来、何が起こるのかいい勉強になる。
「ほらほら、まだ試験中なんだから気を抜かない。それとももう終わるかい?」
「ご冗談を!」
その後数十分間戦い続けるもグリフィスに剣が届く事は無く、王女のスタミナ切れを持って試験は終了となり、試験結果はBランク判定を受ける事に。
Aランクでも通用自体はするだろうが、圧倒的に実戦経験が無い為、スタミナの配分に不安が残るというのが理由でBランクとなる。
「お疲れ様。いやー久々にこれだけ戦ったねぇ」
「全部……防いで…おいて………よくいいますわね」
完全に肩で息をしている王女に対して余裕のグリフィス、一線から退いたとはいえ未だにAAランクの実力は健在とでも言うべきか。
「でも最後のあの加速、あれは同じ相手に2度使用したらダメだ」
先程までの捉えどころのない雰囲気とは一変して真面目に話すグリフィス。
「な! どうしてですか!?」
「格下相手になら良いだろうけど、高ランク冒険者や、自分より実力の上の者に2度使えば…死ぬよ?」
「死……」
試験とは言え、実際に戦ったグリフィスから告げられた内容は、自分の切り札が自分を殺すと言う事実。
予想だにしていなかった事に王女は衝撃を受ける。
「考えてもご覧、途中で進行方向を変えられない移動方法で踏み込んだとして、そこに剣を置かれたらどうなる? 自ら自殺しに飛び込む様な物だよ。もしスキルに成長する余地があるのなら、途中で方向を変えられる様になるまで控えた方が良い」
王女はハッとした後、表情が曇る、恐らく説明された状況を頭で考えたのだろう。
あくまでグリフィスが言ったのは最悪の結果の説明、途中で剣を挟み防いだり、逸らす位は出来るだろうが大きな隙を生む事になるのは事実であり、強者がその隙を逃す筈は無く、自身に大小のダメージは免れないと悟ったのだろう。
「……その通りですわね、ご指摘感謝します」
シュトルツがギルドカードを持って来るまでの間、訓練場で息を整えつつ直すべき癖の指摘を受ける王女、自分の命に関わると言う事もありその表情は真剣そのものである。
その後は買出しをしていたアヤカ達と合流し、王宮で夕食を取りながらパーティーとしての情報共有をすることに、お互いにどんな能力があり、どんな事が出来るかが分からないと戦闘時に連携が取れないからだ、だがこれで王女が色々と驚く事に。
【名前】 カズシ ナナセ
【レベル】 26
【生命力】2268 【魔法力】656 【力】1371 【魔力】501
【俊敏性】1268 【体力】1007 【魔法抵抗力】730
【物理攻撃力】1371+350 【魔法攻撃力】501
【防御】504+50 【魔法防御】365
【スキル・魔法】
剣術【達人】 徒手空拳【達人】 状態異常完全無効化【ユニーク】
闘気Ⅱ【ユニーク】 風刃Ⅰ 威圧 真実強制
【闘気Ⅱ】任意発動
効果:肉体の闘気を解放させ生命力・魔法力・魔力・魔法抵抗力以外の全てのステータスの上昇・肉体能力が大きく上昇
Ⅰ:《解放》 ステータス上昇限界値 1.3倍 発動時生命力5%消費
Ⅱ:《放出》 闘気を体外へ放出する 使用状況により消費生命力変化
【名前】 アヤカ ユキシロ
【レベル】 20
【生命力】918 【魔法力】682 【力】750 【魔力】624
【俊敏性】642 【体力】433 【魔法抵抗力】551
【物理攻撃力】750+180 【魔法攻撃力】624
【防御】217+270 【魔法防御】276
【スキル・魔法】
・護身術 ・初級/下級/中級魔法(水)(風)
・ストレージ・スペース【ユニーク】
効果:アイテムを無限に広がる別空間に保管できるが生物や魔法の保管は不可能、この中で保管しているアイテムは入れた時のままで一切時間経過しない、必要な物の名前や形を念じれば取り出すことが可能、又、アイテムの一覧表示も可能、保管アイテムやスキルの中では最高峰の効果を持つ
・魔力干渉Ⅰ【ユニーク】
効果:魔力で起こる事情に自分の魔力を当てる事で強制的に干渉出来る
Ⅰ:単一事象破壊
【名前】 ユウカ ユキシロ
【レベル】 18
【生命力】607 【魔法力】1024 【力】250 【魔力】890
【俊敏性】335 【体力】351 【魔法抵抗力】769
【物理攻撃力】250 【魔法攻撃力】890+100
【防御】176+120 【魔法防御】385+100
【スキル・魔法】
・護身術 ・初級/下級/中級/上級魔法(火)(雷) ・初級/下級/中級魔法(治癒)
・マジックキャンセラー【ユニーク】
効果:魔法全ての硬直を破棄することが可能
・鑑識眼Ⅱ【ユニーク】
効果:対象の情報が分かる
Ⅰ:対象の名前とランク表示・罠の有無・アイテム効果とレアリティの表示
Ⅱ:アイテムの価値を表示
【名前】 ティネア・ラトリエ
【レベル】 32
【生命力】313 【魔法力】57 【力】259+100 【魔力】68
【俊敏性】311 【体力】223 【魔法抵抗力】64
【物理攻撃力】右259+100+70 左259+100+100【魔法攻撃力】68
【防御】112+25 【魔法防御】32
【スキル・魔法】
無し
【名前】 クラレット・リミーナ・エルマ・フェイル・バレスタイン
【レベル】 61
【生命力】852 【魔法力】249 【力】501 【魔力】282
【俊敏性】368 【体力】437 【魔法抵抗力】114+250
【物理攻撃力】501+400 【魔法攻撃力】309
【防御】219+680 【魔法防御】57+475
【スキル・魔法】
迅疾Ⅰ
効果:一定距離を一瞬で移動、但し移動途中での方向転換は不可
「これが…皆さんのステータス」
「そうですね、私達の全ての能力になります」
「レベルに対してのステータスの伸びが異常過ぎませんか? もっと言えばスキルの数が異常に多い上ユニークを複数って……」
(王女様の言いたい事は痛い程分かるなぁ、3人共レベルとステータスが滅茶苦茶過ぎるからなぁ)
「まぁ言われても持っちゃってるし」
「そんな簡単に………」
ステータスを見せる度に驚かれるから流石に慣れて来たな、有難いことにその異常性を追求される事もないから非常に助かる。
まぁ実際言われたら自分達ですら説明が出来ないので、意味はないんだが。
「とりあえずステータスは個人の最重要な情報なので、例えどんなに親しい人間であっても話さないと言うのが冒険者間の決まりです。絶対に守ってください」
「わかりました」
そこからは王女の持っていく物や冒険者の一般常識等、旅に備え万全の状態とするべく話し合いを続け、夜も更けっていった。
5人分の食料2週間分 大銀貨5枚
ポーション6本 大銀貨6枚
ハイポーション6本 金貨3枚
マナポーション6本 金貨2枚 大銀貨4枚
食器等の雑貨 大銀貨1枚
合計 金貨6枚 大銀貨6枚
ハイポーション:深い切り傷や骨折等を瞬時に回復し、多少の疲労感も回復出来る。
マナポーション:魔法力を150程回復出来る。
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