第57話 交差する思惑
王と謁見したその夜、王宮に泊まっていく事を提案されるが、一刻も早く出たかったナナセは丁重に断り、街の宿で今後の話をするナナセ達。
グリフィスは問題の報告も兼ねて、王都にある冒険者ギルド本部に行き、数日協議の為滞在してからコルセアに戻るとの事。
宿代 各銀貨8枚 (2日分)
「本当に断って良かったんですか?」
「だって城とか、模擬戦の一件で視線が気になるし、そもそも城って雰囲気が重たいし。それにオレは元々書状さえ貰えれば急いで出るつもりだったし」
「模擬戦終わった後の王女様とか、結構お兄に気があったと思うけど」
「最後の方は様付けで呼んでましたもんね」
「あれは憧れみたいなものだろ、師匠的な意味合いのさ」
今まで騎士団の戦い方しか見た事がないから、それ以外の戦い方が珍しいんだろう。
特にオレの武器も構えも城の中じゃ見る機会はなかっただろうし、自分の剣にも取り入れられればってのが大きいだろう、オレだって別流派で参考になる動きは積極的に取り入れる、技術の停滞は緩やかな衰退の始まりだ。
ただなぁ、王女が使う剣じゃオレの真似は出来ないんだよなぁ。
「まあ王宮の話はいいとして、今後の話をしましょう。少なくとも私達には今2つの選択肢があります。コルセアに戻ってダンジョンを探索するか、国境を越えてガルバドールに向かうか」
「元々コルセアはレベル上げと金策の為に来ただけで、ダンジョン攻略はオマケだったし、目的が達成された今、予定通りガルバドールに向かおうってのがオレの考えだけど、皆はどう?」
「私はダンジョン探索が楽しいってのはあったけど、姉さんやお兄の武器の事を考えると、ガルバドールに向かった方がいいんじゃないかと思う」
「同じです。2人の武器は普通の武器屋で扱ってる物では無いですから、予備を用意していた方が間違いないと思います。といってもナナセさんは素手でも大抵の魔物は倒しそうですけど」
無ければ素手で倒すよ、汚れたくないけどね。
「じゃあガルバドールに向かうで決定ね、出発はいつにしますか?」
明日直ぐに乗合馬車に乗って移動でもいいけど、出来るだけ早く着く為に強行軍だったしな、どうするか。
「直ぐに旅立てればいいけど………皆は馬車での移動疲れはないの?」
「それは……やっぱりありますね」
「ほぼ同じ体勢で10日間も詰めてたからお尻が痛い」
「私は脚が浮腫んでしまって……」
やっぱそれぞれ体に不調が出るよなぁ、動かないって事はそれだけ血流が悪くなるから色んな症状が出る、オレだって10日もまともに動けなかったから逆に体中疲労感だらけだしな。
「そしたら王都で疲れを取ってから移動しようか」
「「「賛成!」」」
一方、ナナセ達が去った直後の王宮では――――――
「お父様! 何故ナナセ様に王宮に泊まる様、強く言って下さらなかったのですか!」
「それは仕方ないだろう。ナナセにはナナセの訳がある、はっきりと断られた以上は強くは言えん」
「やっと……やっと私の想い人に出会えたと思ったのに!」
「お…想い人だと!?」
流石にこの言葉には王も黙ってはいなかった。
何せ一国の王女が冒険者に恋をする等あってはならない、年齢も17となっている王女の為、既に伴侶となる者を国内外から何人か選出している中での出来事だ。
「幾らお前の頼みでも、それは認める事は出来んぞ! お前の相手には!」
「他国の王族、もしくは由緒ある家柄の者ですか?」
「その通りだ!」
「とても短慮で下らない考えですね。ナナセ様はまだまだ強くなります、それこそ今よりももっと」
「確かに模擬戦でお前を圧倒した実力は認めよう。だが、だからといってお前の伴侶として迎えるには立場が余りにも違い過ぎる!」
王の言い分はもっともだ。
国における王女の役割とは民の為、国の為、何が出来るかということ、即ち王様が伴侶を外からも探している理由としては、不可侵条約締結、相手国の王位継承権、自国を豊かにする為の経済支援など様々ある。
それらを得る為に、王女に政略結婚を進めたいと言うのが王の狙いである、当然娘である以上幸せを願っての事でもあるが。
「立場ですか……お父様は目先の利益に目が眩んで大局を見ていませんね。近衛騎士団長!貴方から見てナナセ様はどう見えましたか?」
「どう、と言いますと?」
「近衛騎士団長としてあの方の戦いを見た時、何か感じる物は無かったですか?」
「そうですね。王女様と同じ位の年齢でありながら、既にあれ程の域に到達している事実、率直に申し上げまして、嫉妬致しました。しかも彼が剣士として成熟するのは10年以上は先でしょう、それを考えると、その強さは数百年出なかったSランクにすら届くのではないかと」
「流石の判断ですね」
まさか近衛騎士団長からSランク発言が出るとは思わず耳を疑う王。
そんな王とは対照的に満足気に笑みを浮かべる王女。
「更に付け加えるのでしたら、戦闘中に相手の能力を分析する考察力の高さ、正直に申し上げまして、ステータスよりもそちらの方が恐ろしく感じました。一瞬で変わる状況の中、冷静に素早く答えを出せるのであれば、他の事にも応用が利くでしょう」
「ええ、その通りです。私の【
近衛騎士団長からの嫉妬と恐怖宣言を聞いた王は言葉を失う。
戦闘経験がある者にはあの模擬戦がそんな風に見えていたのかと。
「それにお父様。私が嫁げるのは1人だけ、ですがその子供であれば……どうですか?」
「何が言いたい?」
「私とナナセ様が結ばれ、英雄の血を持つ子供であれば、一体どれだけの国と友好関係を結べるでしょうか」
「まさか! 先程大局を見ていないと言ったのはその為か!」
「それ以外何があると言うのですか。もしナナセ様がSランクになってから婚約の話を持って行っても遅いのですよ? その頃には様々な国からも同様の話が来るでしょうから、その中の一つという程度の話でしかありません。ですが今なら違います」
(確かにその子共であれば我が国と強い繋がりを持ちつつ、英雄の血も自国に入れる事が出来る、娘をただ嫁がせるよりも多くの国と関わりを持つことが出来る………そこまで長い目で見ていたとは)
「…………その件に付いては王妃ともよく話し合い結論を出そう。だが先に言っておくぞ、くれぐれも先走るなよ」
「もちろんです。ですがお急ぎ下さい、ナナセ様は冒険者ですから何時王都を離れて他国へ行かれるかは分かりませんよ」
ナナセの与り知らぬ所で勝手に婚約の話が進んで行く。
王都のとある室内にて――――
「あの話は届いてるかい?」
『何の事だ、具体的に言わねばどの事か分からん』
「セファートであたし達に盾突いた奴等が今ここに居るのさ」
『セファート?………ああ、あの馬鹿共が捕まる原因になった連中か』
「あたし達のメンツを潰しておいて、堂々とお膝元に居るのを許してやるのかい?」
『あんな末端連中の事など放って置け……と言いたいが、お前の言い分はもっともだ』
「なら」
『ああ、連中に我々【蜘蛛】の顔に泥を塗った事への責任は取って貰う』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます