第56話 剣姫との模擬戦

 この王女様は何を言ってんだ?実際の実力を見たいから是非一度剣を交えろだって?………出来る訳ないだろぉぉぉ!

 無理に決まってんだろ!!どんな冒険者もってか、誰もそんな申し出受けねぇよぉ!つか受けらんねぇよぉ!!おっかねぇから!

 万が一怪我なんてさせたら確実に死刑になる模擬戦とか、やってられっか!!!

 これは無理!絶対に断らないとゲームオーバー……残機もコンテニューもそんな便利システムは無ぇ!ああもう、だから貴族や偉い人って関わりたくないんだよ、発想が普通の人の斜め上を行く奴とか居るからさぁ!!


「如何かしらナナセ」


 如何かしらじゃねーよ、父親譲りの長い銀髪と母親譲りの綺麗な顔立ちなのに、頭の中身戦闘狂バーサーカーかよ。


「私の身が心配という事であれば気遣いは無用です。こう見えて近衛騎士団長と互角に戦えるくらいの実力はありますので」


 マジかよ……近衛騎士って言えば騎士団の中でも精鋭中の精鋭、その団長ってなれば国最強って言っても過言じゃ無いだろう、ホンっトに見た目じゃ判断付かないのなこの世界。

 と言ってもきっと王様が王女を止めてくれる、最初突飛な事を言われて焦ったけど、回復魔法があるとは言え、嫁入り前の王女に傷が付く様な事を許す王様なんていないだろう。


「私からは何も、それに陛下が許されませんよ」


「なに構わん。修練場は空いているからな、我等も移動して見させてもらうとしよう」


 通すなよッ!

 王様に丸投げしたオレも悪いけどさ、父親って娘が危険に晒されるのを守ったり、防いだりするものじゃ無いの!?

 それが王様と王女ってことならもっと顕著にそれがあるべきじゃないの!?

 それとも、そう思ってるのはオレの妄想ってことか!?もうホントに訳が分からんよ……。


「だから注意してくれと言ったのに……」


 グリフィスが頭を押さえながら溜息を吐くが、ナナセにして見れば十分注意を払い、失礼のないように対応していたのに、何故こうなったのか自分でも分かってはいなかった


「王宮に着く前に、王女様は剣姫けんきと呼ばれる程の剣の使い手で、高ランクの魔物を倒したカズシさんに、勝負を挑むかもしれないって言われてたじゃないですか」


 馬車の中でそんな話が出てたの?


「んで、もし挑まれたらはっきり断る様にとも言ってた」


 オレの耳に入ってない……。


「それでナナセさんが「わかった」って言っていた結果がコレだったので……」


 いや、そんな呆れた目で見られても、あの時はオレも完全にテンパってて、どう乗り切るかばっかりで生返事になってましたです……ハイ。


「すみませんでした……」


「まあ、なってしまったものは仕方ない。こうなった以上はランク上負ける事は出来ないし、かと言って王女様にも怪我をさせる訳にはいかない、その上で勝ってもらうしか」


 あの近衛騎士団長と互角って言われてる王女様と戦って、怪我をさせずに勝てと?

 ハードル高過ぎで草すら生えないんだが。


 兵士の案内で修練場に着いたナナセには、自分の武器そっくりに作られた木刀とその鞘が渡され、中央には動きやすい服に着替えた王女が。


 こんなもんまで用意してるって事は、どんな事があっても戦う気だったんじゃねぇかコレ、どう答えたって王女の一言が出た時点でオレの詰みじゃん。


「模擬戦とはいえわざと負ける事は許しませんよ。そして私の怪我に関しても、一切貴方達に罪を負わせるような事はしません。それはアルテニアの王女、クラレット・リミーナ・エルマ・フェイル・バレスタインの名に置いて誓いましょう。お父様もその様にお願い致します」


「わかった。アルテニアの王としても、其方の父としても誓おう」


 外堀からガンガン埋められてく。

 王様もオレと王女を戦わせて何がしたいの……実力を見るなら適当な騎士をオレにぶつけるだけでいいじゃんよ、自分から言い出したとは言え、何で態々娘を戦わせるかね。


 頭の中でぐちぐちと文句を言いながら、修練所中央で待つ王女の前へと行くナナセ。

 無論、その様子を見ているパーティーメンバーの3人も、本人が乗り気じゃないのが見て取れる。


(すっごい嫌そうだね)


(まあアレは完全に自業自得だから何とも言えないわね、ちゃんと聞いていたら避けられたかもしれないのに)


(でもそっくりの木剣を作ってたって事は、何とか丸め込む気だったんじゃ……)


((確かに))


「スキル・魔法両方使用の実戦形式でいいですね?」


「……わかりました」


「では………行きます!」


 その瞬間ナナセは目を見張る事になる。

 数メートル離れて少し気を抜いていたとはいえ、自分の懐に潜り込まれたからだ。


 速いッ!この距離を一瞬で詰めれるのか!

 これだけの速さを持ってるなら剣速も!


「てえぇぇぇい!」


 踏み込みの速さはあるのに剣速は普通?

 いや、普通と言ってもそこそこに速いがアヤカ程じゃない、なんだこれは、力の方もどうか気になるし木刀で受けるか。


 カーン!と乾いた音を響かせながら初撃を止める。


「なっ!?」


(この男! 私の踏み込み速度に驚いてはいたものの、初撃を軽々と止めた!)


 受けてわかった、力の方もアヤカより弱い、なのに踏み込みの速度アヤカを上回る、このちぐはぐ差は凄く気になる、ステータスじゃないとすればマジックアイテム……いや使わないな、身に付けてる様子も無いし、となるとスキルだな。

 一度離して次は条件を追加して試してみるか。


「ハッ!」


 力のステータスはナナセが圧倒している為、軽々と払い飛ばすことが出来た。


「くっ! 流石ですね、まさかあの一撃を簡単に止めるなんて」


「お褒め頂きありがとうございます」


「ですが距離を取るとは、迂闊過ぎますね!」


 来た!次は王女の後ろに回り込むように避ける!

 そしてで様子を見る!


「そんな!」

(今度は完全に初動を読まれた!しかも回避と同時に攻撃を合わせるなんて、再度アレで!)


 一瞬の攻防でお互いの位置は変わったものの、距離は動く前とほぼ変わっていない。

 周りで見守る王と王妃、そして騎士達もその一挙手一投足に息を呑む。


「王女様の踏み込み速度に比べて、力や剣速が見合わない所を見ると、ステータスではなくスキルで間違いないようですね。しかも私が見えていながら、回り込みに対応出来ない所をみると直線距離限定、特に思考速度の恩恵が有るわけでもないようですしね」


 今日だけで何度この男は周りを驚かすのだろう、ナナセ達を除いた者全員が思っていた、何せ今言った事が全て当たっているのだから。

 しかもたった2回、2回しかスキルを見ていないのにもかかわらず、正確に能力を当てるとは誰が予想出来ただろうか。

 そしてそれを一番噛みしめているのが、対峙している王女だろうという事も。


「……何故………何故分かったのですか……」


「1度目で不審に思い、初撃を止めた時に剣速と力については分かりました。そして2度目を回避しながら見た時に確信をしました」


(嘘……たったそれだけで?………たったそれだけの事で、私の能力を見切られたの?……強いと言うのはわかっていましたけどこれは………格が違い過ぎますね…)


わたくしの負けです」


 模擬戦というには余りにも静かな決着に多くの者が只々驚くしかなかった。


「ふぅぅぅぅ。王女様にご納得頂けた様で何よりです」


「ですが最後に、最後に私の我儘を聞いて頂けますか?」


「内容にもよりますが、何でしょうか」


「私が全身全霊の一撃を放ちますので、それを全力を持って防いで頂けませんか?」


 ええ~もういいじゃん……とは言えなさそうな眼だな、真っ直ぐに真剣な眼を向けられたら流石に断れないな。


「わかりました。最後に全力を持ってお相手致します」


 そう言うとナナセは【闘気】を使い、抜刀術の構えを取る。

 恐らくこの世界からみれば完全に異質な構えだろう、腰を落としやや前傾姿勢を取り、剣を鞘に入れたまま構えているのだから。


「いつでもどうぞ」


「ありがとうございます。では………でぃやぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」


 掛け声と共に剣を振り被り、数歩踏み出した瞬間に決着がついた。

 既に王女の首擦れ擦れには、ナナセの木刀が止まっていたが、誰一人としてその動きが見えなかった、アヤカ達も含めて。


「これでよろしいですか?」


「完敗です。わたくしの我儘に付き合って頂きありがとうございます。ナナセ様」


 この模擬戦を見た者は、後に見ていない者に対して全員例外なくこう語った。

討ち滅ぼす者アナイアレイター】のナナセは間違いなく本物だと。

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