第58話 迫り来る影
別の日、宿の朝食を食べたナナセは一人で王都にある図書館に向かった、調べるのは異界や別空間といった、こっちでも
この世界には魔法の存在がある分、何かしら情報を掴めるかと思ったが、そう簡単な話でもなかった。
こっちでも異界や時空なんかの異なる空間に関しては謎が多いな。
並べられてる本の数を見る限り研究自体はされているが数が少ない、それに、どれも現象をだろう止まりの説明で濁している物ばかりで、決定的に証明した物は無い。
もっと古い、それこそ魔法の最盛期だった頃の書物や論文があればいいけど、そんなものがその辺にポンと置かれてる訳無いしな。
んー……そういった人の研究所なんかを探して調べるしか無いか、といっても、それも手掛かりを探す所からになりそうだけど………異界や時空の研究者で一番有名所の名前を司書さんに聞いてみるか。
ナナセはカウンターで何やら作業をしている司書の下へと向かう。
「すみません」
「はい。なんでしょう?」
「過去から今までに異界や異空間、もしくは次元や時空の研究をしていた人で最も有名な人となると、何ていう人になりますか?」
「異界や異空間ですか? そうですね………私が知ってる限りではクラース・ミッドですかね。今から500年程前の研究者です」
クラース・ミッド、その人が異界や異空間関係で有名な人なのか。
「その人の著書は置いてありますか?」
「残念ですがここには、というよりも、恐らくどこにも置いてないと思います。研究者の中でも輪を掛けて人と会わないと同時代の研究者の著書にもありますし。何より弟子すら居なかったと言われてますから」
元々研究している者が少なかった為に関係がありそうな本は数冊しか無く、しかも今日だけで読み終わる程内容が薄い物ばかりで、最後にあの一言。
ああ言われてしまった以上ここに手掛かりになる物は無い、ナナセはそっと図書館を出る。
速攻で詰んだ。
著著無し、弟子無し、関わり無しってスリーアウトでチェンジ所かゲームセットじゃねぇか、どーするよ。
まさか最初の一歩を踏み出す地面がねえとか思っても無かったわ、手掛かりがあるとすれば名前と500年前の人物ってだけ………きついなぁ。
その時風上から悪臭が漂ってきてナナセは顔をしかめる。
なんか変な臭いがしてくるけど、どこかの家で料理でも失敗したのか?
卵が腐った様な臭いなんて料理で出せ……いや、ここと日本とじゃ色々と違うし、もしかしたらそう言う料理があるのかも知れないから決め付けられないな、でも別の道を通ろう、オレにはちょっとな。
ナナセがルートを変えて立ち去るのを黙って見過ごす2つの影、自分が狙われている等と思っていないナナセはその気配に気付く様子もない。
(行っちまったぞ。モノは間違ってないんだろうな?)
⦅当然だ、事前に確認もしてある即効性の強力な眠香だぞ⦆
(だが奴は、欠伸一つしてる様子はなかった。風を読み間違ったか?)
⦅お前も居るのにそんな初歩的は事はせん、間違いなく風上から撒いてる、その証拠に奴は少し顔をしかめてた⦆
(だったら何故)
⦅わからん、言える事はこの作戦が失敗という事だ。報告と別の手段を用意するのに一度戻るぞ⦆
(くそ、俺達に失敗なんてさせやがって、あのガキ)
影の1つは失敗させられた怒りをナナセに向けつつ、次の手を考える為消えていく。
一方アヤカ達は―――
ナナセが図書館へ出かけた頃、アヤカもランクが上がった自分達の事を考えていた。
これから求められる可能性が高い冒険者ギルドからの高ランク依頼、それもナナセの個人ランククラスの物を言われた時、果たして今のままで無事完遂出来るのか、ナナセに負担を強いて自分達は足を引っ張っているだけではないか。
そんな考えが頭に浮かび、自分の実力に自信を無くしつつあった。
「お兄は図書館に調べ物しに行っちゃったし、どうしよっか?」
「どうしよっかじゃないわよ。私達も今のままでいいと思ってるの?」
「今のままって?」
「討伐の時に私達は殆どカズシさんの援護が出来なかった」
そんな事ないと思うんだけどなぁ、あの時私達はお兄の方に魔物が流れない様に戦う事で援護になってたと思うし。
それにお兄も言ってたけど、あの岩の弾に当たったら私やティナじゃ良くて大怪我、悪ければ死んでたと思う、って言っても真面目な姉さんは聞かないんだろうなぁ、そう言う所は頭固かったし。
「それを言うと私なんて、あの場では戦闘にすら参加してませんでしたよ。3人が必死に戦ってるのに見てる事しか出来なかった」
「でもティナの役割は耳や鼻を使ってパーティーの眼になるって言う、一番重要な部分を担ってるんだから、そんなに自分を悪く言う事ないよ」
「ティナさんの警戒網は広範囲で戦う・逃げるどちらにも十分な機能を持つけど、私達はカズシさんの横で戦うには力不足」
そんなこと言っても直ぐに力が付くわけでもないし、地道にレベル上げるか、武器を強くするしか無いと思うんだけど。
「2人とも魔法を使うんだし、魔導士ギルドに行ってみるのはどう?」
「「魔導士ギルド?」」
「1人で活動してる時に、魔導士ギルドの本部には魔法書の写本があって、お金さえ出せば見る事が出来るって聞いたからどうかと思って」
(魔法書……確かに上の魔法が使える様になれば火力も戦略の幅も広がる、カズシさんの負担を軽減する事が出来る)
(あの討伐の時に私が全力で放った魔法で仕留め切れなかったもんなぁ、寧ろ当たっても直ぐにこっちに向かって来た。もっと上の魔法があっても損は無いか)
「行きましょう」
「行ってみよう」
決めてからの行動は早かった。
宿の女将さんから魔導士ギルドの場所を聞き向かう3人、だがそんな3人にも不穏な影が迫っていた。
〔連中全員で宿を出たな〕
〘纏めてか、仕掛ける場所が限られるな〙
〈出たのが一緒ってだけで、行動を共にすると決まった訳じゃないだろう。行くぞ〉
目標が移動したことを確認して影達は散る、一般市民の雑踏に紛れ、互いに知り合いと悟られぬよう他人の振りをして3人の後を付ける。
アヤカ達もまた、狙われてるとすら思っていない、なにせ自分達が狙われる理由が無い……と思っているのだから。
アヤカ達が宿から大通りにでてみると路地と違い、四角く切り出された岩で舗装され非常に歩き易く整えられていた。
その道を目標に向かって進みながら横の店を見ると、女性向けのカジュアルな服から、美しく気品あるドレスまで取り揃えており、対面の店にはリングやネックレス、ブレスレット等のアクセサリーが。
どうやらこの通りは、女性向けのショッピングストリートとも言える場所だったらしい。
「ティナはあんなドレスやアクセサリーって興味ないの?」
「私は無いかな、ほら、狐人族って尻尾があるからどうしても着れる服って限られちゃって。手先が器用な人なら上手く仕立て直したりするんだけど、私はね……」
「なら、もし着ることが出来たら?」
アヤカがすかさず返す。
「それは……まぁ一度くらいは……着てみたい…かな」
おぉ!ティナがそんな反応を示すなんて!!
これはもうちょっと突いて見ないと。
「なになに、それって結婚とかそういう意味でとか?」
「けっこ!? そそそそんな!私なんかじゃ!」
おおぉ!この返しってもしかして誰か良い人が!?
是非とも詳しくせねば!!
「焦っちゃって怪しいなぁ~、それに否定しないって事は、そうなったらいいな~って考えてる人が居るって事だよね~、その辺を詳し痛ッ!」
「そう言うのは面白半分で聞いていい事じゃないでしょうが」
ユウカがねっとりとだる絡みしているのを、アヤカが頭の叩いて止める、それを見たティナがほっと胸を撫で下ろす。
「恋バナは乙女の嗜みじゃん」
「あなたはただ絡んでただけ、恋バナじゃない。ほら行くわよ」
ユウカは少々面白くないといった顔を浮かべつつ後ろを付いて行く。
途中で甘いお菓子を買い食いしながら王都の街並みや、互いの好きなファッションの話をしていると目的地に辿り着く。
それはギルドと呼ぶには余りにも大きく、目の前にある壁の長さは200メートルはあるだろう、その全てが石造りで重厚があり、馬踏み目地で規則的に揃えられている。
更に建物の高さは4階から5階はあるだろうか、王都内の建物の中では一際高くなっており、ある意味で城と言っても差し支えないだろう。
これが新たな魔法やマジックアイテムの開発研究、そして次世代を担う魔導士の育成・教育を担い、王国に所属する魔導士や、冒険者として活動している多くの魔導士達の始まりの地―――アルテニア王国魔導士ギルドであった。
その様相に3人は驚きつつも入口へと進むと、アヤカが何かに気付く。
「これだけ大きい建物なのに、警備の人が居ない?」
「確かに、言われてみればそれらしい人はいませんね」
「代わりに、騎士の彫刻みたいなのがあちこちにあるけど」
ユウカの指摘が実は的を得ていた。
アルテニア王国魔導士ギルドとして、警備に人を割くというのが魔導士ギルドとしてのプライドが許さず、有事の際は騎士の彫刻がゴーレムとして稼働するようになっているのだ。
アヤカ達はそれに気付かずに入口までやってくる、既に扉は開かれているが、その状態でも見る者に荘厳さと重圧を与えるには十分な代物だった。
同時にアヤカ達を追っていた影は、3人が魔導士ギルドに向かうとは思っていなかった。
潜り込むには人の目が多過ぎるうえ、万が一ゴーレムが動く事態になれば、逃げ切った所で組織に失敗とみなされ、自分達の命が危ない。
その事についてどう動くかを相談する為に魔導士ギルドの近くで集まっていた。
〔あいつ等中に入って行っちまったけど、どうするんだ?〕
〘どうするもないだろ、俺達に出された命令はあいつ等を連れて行く事だ。出て来るまで待つ、それだけだ〙
〈同感だな、子供の使いじゃないんだ。人目が多いからといって止める理由にはならん、そもそもそんな理由で戻れば不要と判断されるだけだ〉
〔誰も止めるとは言ってない、ただ連中が入ったから俺達も入るのかって意味で聞いただけだ〕
〈中に入っても何も出来ん、あそこは魔法による警備網がしかれ、魔導士ギルド内での攻撃は即警報が鳴る仕組みだ〉
〘だったら待つしかないな。こんなお使いみたいな任務で組織に消されたくないからな〙
〈そろそろ散るぞ、余り一緒に居る所を見られる訳にはいかん〉
その一言を最後に無言で別々の位置に着く。
そして未だ自分達に迫る危機を知らない3人は、扉を潜り中に入るとそこには、大小様々なマジックアイテムで室内を照らされ、カウンター横で魔法素材を納める冒険者や、ソファーでは商談中なのか、貴族風の男性と職員が商品リストと思われる物を見て話している。
流石のアヤカ達もその様子に少し飲まれたがカウンターへと向かう。
カウンターに近付いて来る3人に気付いた職員が、落ち着いた声で話しかけてくる。
「ようこそいらっしゃいました。本日は当、魔導士ギルドにどのような御用でしたでしょうか?」
「魔法書の写本を見せて頂きたいのですが」
「写本の閲覧をご希望でございますね。当ギルドに保管されております魔法書は上級までとなっております。また、魔力が不足している、属性適正が無いと言った場合は習得出来ませんのでご注意下さい。閲覧されるのは3名様でよろしかったでしょうか?」
「私は魔力も魔法力もほぼ無いからソファーで待ってるね」
そう言ってティナはソファーの方に向かって行く。
「では、閲覧されるお二人には金貨10枚の閲覧金を頂きます。こちらの閲覧金は如何なる理由を以てしてもご返金出来ないものとご理解下さい」
たっか!ってまぁ開発費やギルドの運営や魔法書の維持とかもあるから、仕方ないっちゃ仕方ないのかな、にしても金貨10枚って。
「これで」
「はい」
「確かにお預かり致しました。どうぞこちらへ」
一度ティナの方を向き軽く手を上げて合図をする、ティナもそれに気付いたのか軽く手を振る、そうしてギルド職員の案内の下、写本のある奥へと2人は進んで行く。
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