第54話 高ランク冒険者としての面目

 アイテムを全部取り上げたはいいけどレアアイテムは一切無しか、というか武器防具はオレ達が使わない様な種類だし、西洋剣の類は使えねっつの、ぶっちゃけ嫌がらせで奪っただけだからいらない物だ。

 サイフの中身も全部合わせて金貨11枚有るか無いかか、お金は有って困る物でもないけども、連中が持ってたってだけで縁起が悪そうなんだよな。


「とりあえず、壊れた備品の修繕費を差っ引いて、残った分を迷惑を掛けた冒険者達や、依頼を終えた冒険者達に、好きに飲み食いさせてやって貰えますか?」


 オレは連中のサイフから金貨5枚分をフィリップさんに渡す。


「そりゃ構わんが、いいのか?」


「AAランクの冒険者として、迷惑さえ掛けてこなければ、話の分かるって所を見せたいんで。残りはアヤカの慰謝料分に」


「私も要らないです。と言うよりも、あの人達の持ち物に触れたくないので、私の分も当ててもらえると助かります。あと武器防具も、装備出来る駆け出しの冒険者に渡して下さい」


 あぁーこれは当分アヤカに要注意かもだなぁ。

 口調や表情は元に戻ってるけど、纏ってる雰囲気がピリピリしてるし、その証拠にユウカは近づこうともしない。


「お……おう、分かった。俺の方から諸々お前達の奢りだって事を伝えておくよ」


 さてと、これで全部終わ……ってないな。

 目の前にグリフィスさんが居る、雰囲気的に完全にギルドマスターモードだ、この事はグリフィスさんのせいじゃないから、気にしなくていいんだが。

 きっとこの人はそれで納得しないんだろうな。


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】の諸君、今回ギルド職員が諸君の情報を金銭で不正に他者へと渡した事、大変申し訳ない」


 これで一番迷惑が掛かったのはアヤカだからな、オレは出しゃばらずに全てアヤカの判断に任せてみるか。


 ナナセはそっと目配せをしてアヤカに伝える。


「ギルドマスターの謝罪を受け取る前にお聞きします。今回の件、再発防止策としてどの様な対策を考えていますか?」


「はい。現在私が考えている対策としては、全ギルドに対して、魔法による職員への縛りを検討しています。無論職員の命等を対価にした物では無く、違反行為や縛りの解除といった行動を取った際、即座にそれが判明・申告されるといった物です」


 確かにそれが出来るのであれば現状よりも遥かに信頼性は上がるが、今働いている職員が納得するのか?

 される側としては、信用して無いのかって話が出てくると思うが。


「出来るんですか?」


「出来る出来ないではなく、やるんです。今回の件はそれほど冒険者ギルドに与えたダメージが大きいのですから。それに、規定に則って仕事をしていれば縛り等関係の無い話です」


 それを言ってしまうと職員側が何も言えなくなるな。

 ギルドや他の仕事内容を知らないから何とも言えないが、それでも離職する人が出るんじゃないだろうか。

 アヤカの反応は如何に


「……わかりました。その対策の実現をお願いしますね」


 やっぱギルドマスターにここまで言われたら納得せざるを得ないよな。

 とりあえずこれで問題は一段落だし、でかい臨時収入も入ってオレもランゼンさんの所とか色々行かないとだし。



 問題が解決した後、正面入り口からではなく、職員が使う裏口からギルドを出ていくナナセ達、訳は単純に、他の冒険者達の出来上がった声が奥まで聞こえており、注目を浴びるのを避けた為だ。


「この後はどうするの? どっか買物に行く?」


「買物か……そういえば食料はどれくらい残ってたっけ?」


「確か4人で2週間分くらいは有ったと思いますよ」


 2週間分か、1ヶ所を拠点にする冒険者なら十分な量だけど、ウチはあちこち動き回るからな、でも当分は動く予定も無いしまだ補給しなくても問題無いか。

 それよりも遺体を包むのに使った毛布を忘れる前に買っとかんとな、あとはどうせ証明書類が届くまで動けないんだし、風呂作りでも初めて見るか。


「2週間分有るなら、食料は一先ず置いといていいな。んじゃ前に言ってた風呂作りを始めたいから、2手に別れて買物をしたいんだけど、どうだろ?」


「何を買いに行けばいいですか!」

「必要な物を言ってくれればソッコーで買って来るよ!」

「私もお手伝いしますから!」


 女性陣の圧がとても強い。


「ならユウカとティナはこの前使った毛布とバケツを頼む、オレとアヤカは接着素材を練る為の容器とかを買ってくるから、昼までには宿に戻るよ」


「オッケー!それじゃ行ってくる!」

「ちょっとユウカ! 置いてかないでよ!」


 日本だったらああして友達と遊びに行くのが当たり前だっただろうにな、この世界じゃそんな事が出来るのは金のある人間か、貴族くらいか。


「それじゃ私達はどこから向かいますか?」


「まずは頼んでいた物を受け取りに行こうと思う」


 確かランゼンさんの店は職人街にある大きな通りに面してたハズ………。

 そこで鉄柱や配管と蓋を受け取った後に木材店で、底面を平にする為に板を、雑貨屋か左官屋に行って、接着素材を練る容器と撹拌器代わりになる物とコテ板をって所か。


「街の西奥に職人が集まってたんですね。」


「最初に探した時ずっと繁華街方面ばっかり探して辿り着けなかったよ………っと、ここだ。ランゼンさん居ますか?」


 声を掛けながら店の中に入ると奥の作業場から声がしてくる。


「おお!その声はあの時の坊主だな、奥に来てくれ!」


 オレ達は言われた通りカウンターの後ろにある入口から、奥の作業場に進むと直ぐにランゼンさんが視界に入った。


「ほれこの通り、注文の品は出来上がっとるぞ」


 作業場の台の上には確かに注文した通りの物が置かれていた。


 4本の鉄柱は注文通りフックが接合されてるし、柱の先端も鋭く地面に刺し易い、配管の方も蓋とピッタリのサイズ、正直これ程とは思っていなかった。

 機械やシステムで管理された物では無いから、多少は歪みが生じると思ったオレが間違ってた、逆にそう言った物が無いからこそ職人の技術力が半端じゃなく高いんだ。


「思っていた以上の物ですね。特に配管と蓋を合わせた時に隙間が一切無いのに、取り外しが滑らかだなんて、凄く大変だったんじゃないですか?」


「なに、そこはワシの腕の見せ所よ!」


 これだけの腕前があるならもしかしたら。


「ランゼンさんにお聞きしたいんですが。これと同じ物って作れたりしますか? オレは今、これを作れる人を探して隣国のガルバドールを目指してたんです」


 腰に掛けていた刀を手渡すとランゼンは鞘から抜き、様々な角度から見たり、時折刀の腹を指で弾いたり等して観察している。


「ふむ……こいつはただ鋼を叩いて形にしたもんじゃねーな、それだけだと強度が足りずに簡単に折れちまうはずだ、多分だが幾つもの工程を踏んでこの形になった。違うか?」


「そうです」


「勿体振らずに言うが、ワシはコレの作り方がさっぱりわからんが、ワシの師が同じ物を作っていたのを見た事がある、しかも、お前さんが向かってるガルバドールに居る。腕の方もワシが保証する、それで良ければ紹介してやるがどうする?」


「是非お願いします!」


「良かったですね。これで向こうに着いてから色々情報収集しなくて済みますね」


「よし、今手紙を書いてやるからちょっと待っとれ」


 いや助かった、まさかの師匠が刀を作った経験があったなんて、しかも紹介までして貰えるとは至れり尽くせり、本当に聞いて良かった、これで本格的に旅やダンジョン内の探索に臨める。


「こいつを持っていけ。師匠の名前はブロボッツと言ってな、無類の酒好きで特に強い酒が好みだから、何本か見繕って持ってってやってくれ」


「ありがとうございます。あとこれが金貨1枚代金になります。お釣りは美味い酒を飲んでください」


「いいのか?」


「オレの武器を作れる方を紹介して貰ったので」


「そうか、なら有難く受け取ろうかの。またなんかあったら言うといい」


 ランゼンにお礼を言ってからナナセ達は、他にも必要な材料を集めに職人街を右往左往し急いで宿へと戻る。

 理由はナナセの武器を作れる職人がガルバドールに居ると分かり、直ぐ向かうかどうかをパーティー内で話し合う為だ、が、翌日事態は急変する。


※購入代金

木材(木板複数枚)   大銀貨2枚

接着素材容器     銀貨5枚

撹拌器(かき混ぜ棒)  銀貨1枚

コテ板        銀貨1枚

バケツ        大銅貨5枚

毛布3枚        銀貨6枚

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