第53話 AAランクの初仕事
突然今まで何の接点も無かった冒険者が、ナナセを押しのけてユウカの肩に手を置き抱き寄せる。
突然の事に呆気に取られていたが直ぐに状況を理解し反論してみせる。
「おいお前、何言って」
「黙ってろやDランクのゴミ! こっちはお前なんかが話しかけていい様な冒険者じゃねんだよ。俺達はBランク冒険者パーティー【剣聖】、
その3人の仲間達もリーダーと思われる男に同調し、ナナセ達を馬鹿にした様に笑ってくる、周りの冒険者達は流石にBランクパーティーに逆らえないのか、やり取りを注目するだけで誰も声は上げない。
こいつ今収納スキルって言ったか!?
なんでその事をこいつが知ってる!?
オレ達は普段の買物時にも、一度麻袋に入れて持ち帰ってから、アヤカが小分けして仕舞う程徹底してた。
極力人前でスキルを使わない様にして、ポーチを使ったフェイクまで入れてたのに何故!?
「お前ら何勝手な事ばかり言ってるんだ!」
「手を離して下さい」
「っるっせぇぞ! ギルドは冒険者間の騒動には関与しない決まりだろうが、とっととやれや! それにな、お前みたいな雑魚といるより、俺の様な高ランクと居た方が、冒険も、そうじゃねぇ時も、楽しいに決まってんだろ」
「手を離して……」
(あっ、やば……)
「……本当にギルドが関与しなくていいんだな?」
「あぁ? 当たり前だろうが、お前ら職員は俺の言われた事だけやってりゃいいんだよ」
「離せ…」
(あれが姉さんからの最後通告だろうな……)
「っつー訳でギルドは関与しないから、お前達が一悶着起こしてもギルドは止めねぇ」
成程ね、AAランクになったんだから、他の冒険者に舐められない様に、自分達で何とかして見せろって言いたい訳ね。
まぁ、アヤカもそろそろ怒りそうだし、オレも動くとするか。
「何ごちゃごちゃ言って」
「その手を離せって言ってんのよ!!」
アヤカが怒った瞬間、右肩に置かれていた相手の右手を掴むと同時に身を屈めて後ろに回り込み、捻り上げた手の平と相手の背中を合わせる様にして捉える。
この間、瞬き程の時間も掛かっていない。
「ぐあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あぁぁ! 何しやがああぁ゙ぁ゙! 腕!付け根ぇぇぇああぁ゙ぁ゙ぁ゙!」
そうだった、アヤカは護身術を持ってたんだから、組み伏せるのは訳なく出来るか、しかもあの捉え方、革鎧の厚みも合わさって、相当腕の付け根に激痛が走ってるだろうな。
「超久々に姉さんが本気で怒った所みたなぁ」
「超久々?」
「うん、しかもああ言う手合いは姉さんの大っ嫌いな奴だから、その分沸点も低かったんだろうなって」
「にしても何時ものアヤカと違い過ぎる様な……」
「姉さんは基本お淑やかだけど、本気で怒ると結構口悪いよ? 普段はそこに到達する前にお兄が止めるから聞かないだけで」
マジか……アヤカの知られざる一面を今初めて見た。
もし怒らせると即座に関節決められて拘束されるのか………怒らせないようにしよ。
「この、お前らしてやがる! この女を!」
仲間達に指示を出そうとする男を突き飛ばし距離を取るアヤカと、仲間に支えられながら腕の付け根を押さえる男。
完全に敵意を剝き出しでナナセ達を見ながら吠える。
「てめぇ…優しくしてりゃ付け上がりやがって! 大人しく上のランクである俺の言う事を聞いてりゃいいんだよ! 痛い目に合いてぇのか!」
「ウチのメンバーに手を出さないでくれ、あと何でお前が」
「野郎はお呼びじゃねーんだよ!」
逆上した男は近くのテーブルから酒瓶を掴み、それを全力でナナセの頭に叩きつける、その衝撃で瓶は粉々になる。
当然そこまで行くと周りの冒険者はギルドの外に避難しようとする、その中には一言二言連中に対して意見していく者も。
「Bランクとは言え、幾ら何でも横暴が過ぎるぞ!」
「そうだ! ランクが上だからって何でもしていい訳じゃねぇ!」
本当だよ、咄嗟に
「ナナセさん大丈夫ですか!?」
ナナセは何も喋らず、ティナをそっと後ろに下げて殴って来た男に近付いていく。
「あぁ!? まだ殴られ足り「五月蠅い」
次の瞬間男の体が勢いよく天地逆になり頭から硬い床に叩きつけられる。
叩きつけられた本人は陸に打ち上げられた魚の様に、体をビクンビクンとさせて倒れている。
(足払いで体勢が崩した瞬間に、払いとは別方向から頭に力を加えたのね)
(あれ払いって言うか、見た目払いに見える蹴りじゃん、しかも受け身を取らせる気が無いから凄い勢いだったし)
(あれって死なないですよね? ナナセさん捕まらないですよね?)
「て…てめぇ! 俺等が誰か分かってやってんのか!」
「さっき自己紹介貰ってるから知ってるよ。それよりも何でウチのメンバーの情報を知ってるのか、教えて貰いたいんだが? そっち風に言うと低ランクに拒否権は無いんだろ?」
ナナセはポケットから貰ったばかりのギルドカードを見せると、【剣聖】のメンバーは驚きの顔をする。
まさか低ランクと連呼していた相手が自分達よりランクが上で、しかも既に殴り掛かってしまっている状態、何もかも手遅れの詰みである。
「AA……」
「は? アイツから聞いた話じゃDランクって……」
「こっちはお前達の言い分に乗ってやってるんだ、答えろ、何で知ってる」
「き…昨日、ギルドの解体職員から良い情報があるって言われて買ったんだ!!」
「おい、ちょっと待て! そいつは本当の事か!? 本当にウチの職員がやった事なのか!?」
この言葉にフィリップが反応を示す。
何せギルド職員が冒険者の情報を金で売るなんて事は、冒険者ギルド全体の信頼を失墜させるもの、到底看過する事など出来ない不祥事である。
この事は直ぐ様ギルドマスターであるグリフィスの耳にも入り、問題を起こした冒険者と件の職員に対して、ギルドマスター直々に取り調べを行う事に。
―――――――――
「さて、ここに居る【剣聖】からの話で解体職員の君が業務上で知り得た情報を、金で彼等に売ったと在ったんだが本当かい? 因みに発言には注意してくれよ、虚偽の申告であった場合、罪は重くなるし、場合によっては私は
効果:掛ける事に成功した相手から偽りの無い真実を引き出す魔法、その証言は裁判の証拠としても有効、但し裁判で利用する際は魔法を掛けるという行為であり、裁判長及び対象者の許可が必要となる。 魔法抵抗力で防ぐ事が可能。
目の前に居る職員も、まさか昨日の今日でオレ達がAAランクや、Aランクに上がるとは思ってなかっただろうし、何より、ギルドマスターが出て来る事態になるとは考えてすらなかっただろうな。
ギルド規定どころか、冒険者ギルドの職員として一番触れてはならない部分に抵触してるあたり、一切同情は無い。
「…………」
「時間が惜しい、
「す…すんませんでした! Dランクだったんでバレても丸め込めると思って」
人を雇ってる以上一枚岩では無いって事はわかるけど、これはここだけの問題じゃ無くなるな。
冒険者ギルドの根幹に関わる部分に触れたんだ、多分この世界に存在する全冒険者ギルドを対象に、職員の見直しがされてもおかしくないレベルだろう。
「すんません! 勘弁してもらえませんか、もう2度とやらねーんで!!」
「だそうだが、ナナセ、君はどうする?」
オレじゃなくアヤカに聞いて欲しいんだけども。
まぁ普通に在り得ない無いでしょう、そもそも2度とやらないから許してくれって言ってるけど、今が問題になってるのに2度ととか言う事自体まず話が違うし、罪が重くなる言われた瞬間に出た謝罪とか、謝罪じゃねぇよ。
というか謝らないとダメな事って分かってんなら、最初からやるなって話だ。
「今回の件は1度であっても許されない案件だけど、アヤカはどうする?」
「冒険者とギルドの信頼関係を根幹から崩す出来事です。謝罪された所で許される事じゃないわ」
「全く隙の無い正論だね、では全員本部に連行されるまで牢に入れて」
「ああ、それはちょっと待って貰えますか?」
「他にも何かあるのかい?」
「そこの【剣聖】メンバーから、オレを酒瓶で殴った慰謝料を貰わないとなんで。とりあえず武器防具含めた、文字通りの身包み全部を出して貰おうか」
「なっ!?」
「横暴だ!」
「ランクが上だからって許される事じゃねーぞ!」
こいつ等は少し前に俺達に言った言葉を忘れてんのか?
低ランクは黙って従ってろだの、拒否権は無いだの言ってたのに、自分達がするのは良くて、されるのはお断りとか、いい歳した小学生かよ。
「全てあなた達がやった事、言った言葉でしょう? それが今自分に帰って来てるだけです」
「ぐうぅ!ギルドマスターよぉ!」
「俺も何も言えないね。何せ、ギルドは冒険者間の騒動には関与しない決まりだって言われてしまったらねぇ」
「あんた等を死なない程度に痛めつけてから持ってってもいいんだが?」
そこまで言われて渋々全アイテムを差し出す【剣聖】メンバー。
非常に不服そうな顔でナナセ達を見ているが、彼等もまた冒険者ギルド本部で開かれる査問会で重い罪に問われる、自由の身となるには10年以上の月日が掛かるだろう。
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