第52話 想像以上

「それじゃ、ギルドカードを変えて来るから待っててくれ」


 全員からギルドカードを預かったフィリップが、部屋を出ていくのを目で追う4人にグリフィスが声を掛ける。


「カードが出来上がるまで少し時間が掛かるし、何か気になる事があればこの際に聞いてくれていいよ。何せギルマスに会うなんて早々出来ないんだから、これを逃すと次はいつになるやら」


 聞きたい事か、単純な話だけど気になるし直で投げてみるか。


「だったら聞きたいんですけど。どうして王様はこんなに早く動いてくれたんですか? たかが一冒険者に対して寛大過ぎる対応だと思うんですが」


「なるほど。確かに普通に考えれば平民の冒険者にしてやる対応ではないね、だけど君等、普通じゃないでしょ? レベル自体はまだまだ低いのにステータスやスキルがとんでもない。あっ、後出しだけどあのランクはナナセ以外、今付けた物だから」


 は?後出し?オレ以外のランクは今付けた?

 どう言う事?


「あの、ギルドマスター、それは一体どう言う意味ですか? その言い方だとカズシさん以外のランクは、決まってなかったみたいに聞こえますけど」


 そうだ、と言うよりも、そうとしか聞こえない。

 どんな頭の悪い奴が聞いてもそうにしかならない。


「一応ナナセの事は、王都本部と相談してAかAAランクって話になっててね、その最後の決め手が、君が隠していたスキルだ、それの善し悪しで決める事になってた。そもそも何か持ってる事は予想してたからね」


 とどの詰まり強力なスキルがあればAAランク、そうでなければAランクにするように言われてたのね。

 しかも何かしらスキルがある事を見透かされてたとは。


「それなら私達のランクはどう決めたのかが謎です。私達はギルドマスターにステータスを見せていませんよ?」


「あぁ~それはね、コレ。このマジックアイテムで君達を見たから、実はステータス自体は直ぐに分かったんだよね。ナナセのステータスでは君達が協力した程度じゃ、ブラッドオーガに勝てないって分かったから、スキルの事が確信に変わった」


 そう言ってグリフィスは左目に掛けていた片眼鏡を指差す。

 即座にユウカが鑑識眼でそれを視ると驚きの顔をする。


 鑑定鏡スペクタクルズEエピック):鑑定したい人物を見ることで対象のステータス及びスキルを表示、任意で隠したスキルに付いては表示不可


「マジックアイテムの鑑定鏡スペクタクルズ! 効果は相手のステータスとスキルの表示、但し任意で隠したスキルに付いては表示は出来ないって!」


「おや、良いスキルを持ってるね、正解だよ。出来れば3人のスキルを見せてくれると嬉しいんだけど、どうかな? 勿論君達のスキルに関してもナナセ同様に話さないし、書面にも既に書いてたりするんだけど」


 言い終わると同時にグリフィスは書いていた書面を見せる。

 確かにそこには、どんな事があろうと誰にも、どこにもオレ達の情報を伝えないと書かれ、判子の様な物がグリフィスの名前の横に押されていた。


「ギルマスの印も押してあるから効果抜群だよ、だから安心しておくれ~」


 屈託のない笑顔をナナセ達に向けて話すグリフィス。

 それが単純に、目を掛けた冒険者の情報を正確に知っておく為の行為なのか、はたまた自分の知識欲からなのか、それともただの好奇心からなのかは本人以外には分からない。


 この人は本当に自分の首を絞める重要な事でも楽しそうに言うんだな、しかも貰った書面には、、不可抗力であったとしても書面の効果は適用される可能性が高いぞ。


 姉妹がナナセを見る。


「見せても大丈夫、何かあったらちゃんと責任を取って貰おう」


「わかりました」

「おけ」

「私はスキルも魔法もありませんから」


【名前】 アヤカ ユキシロ

【レベル】 20

【生命力】918 【魔法力】682 【力】750 【魔力】624 

【俊敏性】642 【体力】433 【魔法抵抗力】551 

【物理攻撃力】750+180 【魔法攻撃力】624 

【防御】217+270 【魔法防御】276 

【スキル・魔法】

 ・護身術 ・初級魔法(水)(風) ・ストレージ・スペース【ユニーク】

 ・魔力干渉Ⅰ【ユニーク】


 ・ストレージ・スペース【ユニーク】

 効果:アイテムを無限に広がる別空間に保管できるが生物や魔法の保管は不可能、この中で保管しているアイテムは入れた時のままで一切時間経過しない、必要な物の名前や形を念じれば取り出すことが可能、又、アイテムの一覧表示も可能、保管アイテムやスキルの中では最高峰の効果を持つ


 ・魔力干渉Ⅰ【ユニーク】

 効果:魔力で起こる事情に自分の魔力を当てる事で強制的に干渉出来る

 Ⅰ:単一事象破壊


【名前】 ユウカ ユキシロ

【レベル】 18

【生命力】607 【魔法力】1024 【力】250 【魔力】890 

【俊敏性】335 【体力】351 【魔法抵抗力】769 

【物理攻撃力】250 【魔法攻撃力】890+100 

【防御】176+120 【魔法防御】385+100 

【スキル・魔法】

 ・護身術 ・初級/下級/中級魔法(治癒)(火)(雷)

 ・マジックキャンセラー【ユニーク】

 効果:魔法全ての硬直を破棄することが可能


 ・鑑識眼Ⅱ【ユニーク】

 効果:対象の情報が分かる

 Ⅰ:対象の名前とランク表示・罠の有無・アイテム効果とレアリティの表示

 Ⅱ:アイテムの価値を表示


 先程まで笑いを浮かべていたグリフィスだったが、2人のスキルを目にした途端表情が変わる、真剣な顔でスキルの効果を目で追っていく。

 そして全てを見終わったのか、椅子に背を預けて話し出す。


「正直想像以上だ、かれこれ250年と少し生きて来たけど、一番驚いたよ。2人に言っておくけど、そのスキルは絶対に人に見せない様にね。君達なら実力で排除出来るだろうけど、それでも欲しいと思う人間は大勢居る」


「でもそれってグリフィスさんが言ってた、王様からの書状で手出し出来なくなるんじゃないの?」


 グリフィスはそっと首を横に振った。


 書状だけで抑えられるなら本当にいいんだけどね。

 自分は大丈夫、俺はヘマをしない、バレなきゃ問題無いって人間が居るから、犯罪は無くならないんだよ。


「残念だけど人間はそれほど全体の事を考えて動ける種では無いよ、大なり小なり、己さえ良ければ他はどうなってもいい、そう思ってる者の方が多いとすら言える。そして我欲が強い者程力を持っていたりね」


「そしたら書状があっても……」


 ティナの言いたい事はよく分かる、抑止にならない書状に何の意味があるのか、答えは。


「有ると無いとで段違いに意味が変わってくるよ。そもそも王様も書状1枚でその手の馬鹿を止められると思ってないから、オレ達にも送って来てるんだ」


「一体どういう事ですか?」


「貴族が私達の事を、王様の言ってた存在だと知りつつ手を出して来た際に、こちら側からも証明する手段として書状を送ってくるって事ですね?」


「そう言う事、それでも引かない連中に対しては骨の2~3本は折っても構わないよ、ただ、腕1本とか脚1本斬り落とすのは控えて欲しい、後々大変だからね」


 ギルドマスター直々に物騒な事を言っていると、フィリップが出来上がったカードを持って戻って来た。

 手には金色のプレートが3枚と、銀色のプレートが1枚が握られている。


「待たせたな、ほら、これがお前達の新しいギルドカードだ」


 金貨数枚分の大きさがあるから、本物の金って訳ではなさそうだけど、それに、見た目に反して軽いし、こっちの世界特有の金属かもしれないな。

 ランクもAAになってるし、これで冒険者から何か言われても一発で黙らせられるな。


「これは元先輩冒険者としての忠告だ。ランクが上がるとそれはそれで勝手に名前を使う様な冒険者が出たり、君等に何とかして取り入ろうとする冒険者も出るだろうから、気を付けるんだよ」


 あぁ、やっぱりそう言うのはどこの世界にも出て来るのか。

 しかもオレ達の与り知らない所で名前を使われたら、その張本人を捕まえない限り関係性を否定出来ない、場合によっては捕まえた所で意味が無いかもしれない。

 そう考えると下のランクの冒険者に、甘く見られる訳には行かないよな。


「先輩からの忠告ありがとうございます。それじゃ報酬もカードも受け取ったので、オレ達はこれで失礼します。」


「書状が届いたらまた呼ばせてもらうよ」


 ナナセ達は一礼してフィリップと共に部屋を出た。

 この話し合いの中でまさか自分がAAランクになる事を、了承するとは思ってなかったナナセ、しかも王様直々の書状付きと言う嬉しい誤算だった。

 これで万が一貴族や商会から手を出されても、ある程度の武力行使が可能となった。

 いつもの受付に戻りフィリップにも挨拶をして外に出ようとした瞬間。


「どけよ雑魚。フィリップさんパーティー申請で、アヤカこの娘をウチのパーティーに加えるから手続きしてよ」

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