第80話 私に生まれたからこうなった~淘汰されるべくして淘汰された~
私は攻撃力がなく、競争力がない男である。
ADHDという社会生活を快適に送るのを阻害する疾患があるからか、頭が悪く、筋力もなく、金もなくロクな職歴もない。
世間一般の水準のまともな暮らしができているとは言えないし、女性と付き合ったこともないから性愛からもはじかれた独り者の49歳の男だ。
こんな自分の心の叫びを綴るのは恥ずかしいが、やっぱり誰かに聞いてほしい。
まだ若かりし大学を卒業した頃、私は未来に希望を持っていた。
新卒で印刷会社に就職したから一応正社員として順調に社会人にはなれたのだが、現実は私にあまりにも厳しかった。
入社して一年余りで私は会社を解雇されたのだ。
理由は、業績不振によるリストラだったが、真の理由は私の能力不足。
仕事ができず、上司や同僚からも冷たい目で見られ、毎日が苦痛だった。私は会社に我慢できたが会社は私に我慢ができず、切り捨てたのである。
それから私は漫画家のアシスタントになったが、ここでも私は不器用で技術の向上が遅い、相手の指示が理解できない、空気が読めない、すぐ立ち上がったり座ったり落ち着きがないないなどの理由で白眼視され、辞めさせられてしまった。
社会に出てまだ三年くらいしかたっていないうちの二回立て続けの解雇は私に自分が社会不適格者だということを問答無用で思い知らせた。
それから建設作業員、出会い系のサクラ、図書館資料整備、ヤマト運輸など非正規か低賃金の単純労働を転々としたが、そんなところで未来への希望など持てるわけがない。
そんな生活が続くうちに、私は自分をどんどん卑下するようになった。
頭が悪く、体力もなく、金もない。ロクな職歴もない。まともな暮らしができていない。
そんな自分を誰が愛してくれるだろうか。
女性と付き合うなんて夢のまた夢だった。
デートするお金もないし、自信もない。
結果、49歳になっても一度も女性と付き合ったことがないままだ。
世間は成功した人々を称賛し、競争に勝ち抜いた者を評価する。
しかし、私はそのどちらにも属さない。
競争から外れ、敗北者の烙印を押された存在だ。
社会の片隅でひっそりと生きているだけで、誰にも認められない。
そんな自分が嫌でたまらない。
否応なしにこんな自分に生きる価値があるのだろうかと考える。
何の役にも立たず、誰にも必要とされない自分。
それでも、まだ生きている。
何度も挫折し、心が折れそうになったが、何とかこの年齢まで生き延びている。
これは誇るべきことなのか?
私は今でも夢を見ることがある。
普通の生活、普通の幸せを手に入れること。
愛する人と手を取り合い、笑い合い、支え合って生きること。
そんなささやかな、多くの人がかなえられた夢はもう、今の私にはもうかなえることができない過去のものとなってしまった。
厳しい現実の痛みを和らげる酒だけが私の心の支え、鎮痛剤になっている。
この歳になって、自分を変えるのは無理だ。
攻撃力がなく、競争力がない男。
欲しいものが一切手に入れられず、淘汰された敗者。
それが私だ。
あれをすればよかった、あれをやらなかったから今はこうなったんだと思っても仕方がない。
私に生まれたからこうなったのだ。
これが私の自分を受け入れ方、前を向いた生き方である。
私はまだ生きている。
そのことに感謝すべきかどうかはわからないが、今晩もみじめな自分という痛みを和らげる麻酔たるチューハイを三本ほど飲もうか。
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