第54話 ヒロインを拉致したなら縛れ

正直に言おう、けっこう変態である。

私の性癖はゆがんでいることを認めざるを得ない事実がいくつかあるのだ。


その一つとして、子供の頃からそうだったのだが、主にドラマなどでヒロインとか女の登場人物とかが悪者などに拉致されて監禁された時、後ろ手に縛られてないと機嫌が悪くなることだ。

もうその時点でこの回は面白くないし、観る価値はないという烙印を押してもいい。


亀甲縛りとか、そういうのまでは望まないからせめて手首くらい後ろ手に縛っとけよ、と切実に思う。


あるドラマでものすごく私がファンの女優が誘拐される場面になって、私はいよいよその女優の緊縛シーンが見られると思って期待した結果、ただ単に閉じ込めているだけだった時の落胆と失望ったらなかった。

バカか!逃げられたらどうすんだ!

と、劇中の犯人たちの不用心さと甘ちゃんぶりに対して怒りすら湧いた。

案の定縛られていなかったおかげで、その女優は脱出に成功するんだから、それ見たことか、と舌打ちしたものだ。

演出上必要なことだったかもしれないが、私は許さない。

私の期待を返してくれ、と本気で思った。


それと、縛るのはいいが中途半端なマネはやめろ。


時代劇で無実の罪で捕らえられた町娘があった。

彼女は江戸時代の女囚だから日本髪を解かれて髪の毛を下ろされ、空色の服を着せられて亀甲縛りされていたんだが、そこまでしといて後ろ手ではなく前手だった。


カメラは町娘のだらんと下げた髪の毛で嘆き悲しむ表情を映して下へ移動し、胸のあたりで交差した縄を見せたかと思って期待に十分応えてくれたと思っていたら、後ろで組んでいるはずの手が前で結ばれていた時はずっこけた。

こちらはいたぶられた気が大いにし、悪意すら感じる。

制作スタッフの気の利かなさへの怒りのあまり、テレビ局に抗議の電話をしようとすら思ったものだ。


私はこだわりが異常すぎるんだろうか?

いや、私だけではないはずだ。

この件に関して確固たるこだわりを持ち、妥協を許さない人間は他にもいるはずと信ずる。






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