第39話 我が中二病時代 ~人類防衛の大義に燃えた思春期~
中二病なる言葉がある。
なんでも、「思春期に特徴的な空想や価値観、過剰な自意識やそれに基づく言動を揶揄する俗語」であるらしい。
大体中学校の二年生くらいで発症することが多いから、こう呼ばれているようだ。
かく言う私も中二病に近い症状を患った記憶がある。
それも中学校を卒業して高校に入ってからの長期にわたって。
では、私が長期にわたって発症した中二病とはどのようなものか?
それは、異星人の地球侵略を本気で心配していたことだ。
思春期にありがちな異性への関心や将来への不安そっちのけで、私の中学校生活後半からは、異星人の侵略におびえる毎日だった。
きっかけは、金曜ロードショーで放映されたアメリカの異星人侵略モノのテレビドラマ『V』を見たこと、そして愛読していた漫画『ドラゴンボール』に戦闘民族サイヤ人が登場してきたことだったと思う。
元々心霊やUFOなど超常現象に興味があり、薄々異星人への脅威は感じていた。
だがその脅威は、それらの作品との出会いが思春期に達した当時の私の精神状態と不適切に相互作用して、多感な頭の中で爆発的に増大したのだ。
とどめは、日本テレビで放送された『矢追純一UFO現地取材シリーズ』。
まだ1980年代後半で、当時騒がれていたノストラダムスの大予言「1999年の7の月、人類は滅ぶ」とは、異星人の侵略だろうと確信した。
私はその圧倒的な脅威におびえるあまり、熱心に家庭や学校でその危険性を説き、身近な人々をまず啓蒙しようと努めた。
だが、無理解な両親は「もうすぐ受験だろ」と突き放し、学校ではいつもつるんでいた友達に距離を置かれ、「面白い奴がいる」と私を迫害する同級生が増加しただけだった。
誰も理解を示してくれなかったが、私は三年生になると心機一転して、自分ひとりだけでも異星人に立ち向かおうと決意、独自に戦闘訓練を開始した。
まず、攻めてくる異星人は『矢追純一UFO現地取材シリーズ』で主に取り上げられているリトル・グレイという種族だと断定。
そのリトル・グレイと戦うためにまずは格闘術の訓練として、二歳年下で中学校一年生の弟を異星人に見立て、組手の相手とした。
なぜ中学一年生の弟だったかというと、そのリトル・グレイという種族は身長140センチくらいで、当時の弟の身長とほぼ同じであり、まさに練習相手としてうってつけと考えたからだ。
私は「異星人の侵略に対する抵抗のため」という大義を弟に説き、練習相手となるよう命じたが、当時から兄である私を小バカにしていた弟は断固拒否。
それを自分さえよければいいという勝手な考えとみなした私が、組手訓練を強行すると弟は激しく抵抗し、二階の子供部屋で大乱闘に発展した。
弟も本気になってくれたので有意義な訓練になったが、一階で仕事をしていた父親が上がってきて「うるさい」と怒鳴られ、「お前が悪い」と私だけがシメられた。
こうして格闘術の訓練はできなくなったが、やはり異星人との戦いのキモとなるのは対空戦闘であろう。
異星人といえば円盤、きっと主に円盤に乗って攻撃してくるはずだ。
そこで私は、対空戦闘の訓練に専心することにした。
本物の銃は将来的に狩猟免許を取得してから購入するとして、私はまず、保有していたエアーガンでの射撃訓練を開始する。
標的は、家の畑に飛んでくる蝶。
円盤のように不規則な動きをするため、ふさわしい標的だろう。
私は来るべき地球防衛の戦闘に備え、自宅の前の畑にやって来た蝶を片っ端から銃撃した。
しかし、蝶を狙ったBB弾は時々近所の家に飛び込んで、そこの住民に命中。
「お宅の長男に狙撃されてる」と、その住民から苦情を受けた両親にまたしてもシメられ、エアーガンを取り上げられてしまった。
だが、これらの弾圧でも私の思想的信念は揺るがず、それは中学三年の進路にも影響を及ぼすことになる。
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