敢えて一筋縄でいかなくする

 何度もでてきます、ストーリの基本は


【起きてほしくないことを起こせ!】


 私は学校の帰り道、職場への片道だけでもストーリーは簡単に作れると思っています。それは


「こんなことが起きたら嫌だな」


 と思う事を起こせばいいんです。そして、それをしっかりと最後は意味を持って解決さえできれば、それで立派なストーリーが出来上がるのです。


 今回も起きてほしくないことが起きるのですが、単発ではありません。一つの問題点を解決するために、さらなる問題がおき、それを解決するためにさらなる問題を起こす。その多段階なる方法を私は「わらしべ長者方式」と名付けました。


 1人目のお客さんの依頼を受け、キキは森に向かいますが、途中で落としてしまいます。


<ひっぺがし1段階>

「ああ、びっくりした、無くしたら大変だった」


 でなくさずに終わる。


 これではインパクトがありません。


<正解>

 荷物の鳥籠を確認したら、中身の黒猫ぬいぐるみが無かった。


<2段階>

 探しにいって、必死に探した末、見つかる。


 これでも悪くない気がしますが、まだ欲しがります。


<正解>

 探しに戻ろうとしたら、からすが自分の卵を取りに来たと思って集団で攻撃してくるため、戻れない。カラスが怒るだけならいいのだけど、カラスがほうきをついばみ始める。ほうきをやられたら飛べない、だから戻れない。


 この「ほうき」という弱点をついてくるところが絶妙です。ここではキキが探すのを諦めてくれないといけないのです。そのために


キキ「カラス、なんかいやだから探すのやーめた」


 となったら、感情移入できないのです。キキとしては大事な贈り物だから必死に探したい、でも戻れない、という心理的葛藤を見事に作り上げています。本当にこういう点が素晴らしいです。


<3段階>

 ここでちょっと待って森を探していたら、絵描きさんの家を見つける。そこの黒猫のぬいぐるみを見つける。


 これはショートカットになりますが、これでもいいと思います。尺が厳しい場合はこうしたでしょう。しかし、胸踊る展開が待っていました。


<正解>

 時間稼ぎにジジをぬいぐるみのふりをさせて、まずは届ける。その間に探す。


 この発想がたまらんですよね! まさに走れメロス。大事な仲間を人質として送り込むという心のサスペンジョンを作っておきながら、その間に必死で探す。キキの探すという動機も自然と非常に強いものとなっていきます。


※この作品は100分程度と120分映画に比べたら短いのですが、おそらくシーンを入れる入れないは制作時に大変な議論があったことでしょう。というのも実はこの映画の制作費がどんどんかさんで、結果的に一番興行収入が多かったトトロの12億円より多い金額を出さないとペイできないことになってしまったようです。ひょっとしたら、この「ジジ人質作戦」のシーンをカットするかという議論もあったかもしれません。でもここは私は一番好きなシーンなので、ぜひ入れてくれてよかったと思いました。


 キキは森に戻ると絵描きさんの家にぬいぐるみがあるのに気づきました。

 

<4段階>

 絵描きさんに話をして、返してもらう。


 これでも良い気がするのですが、まだ返してもらえません。


<正解>

 返してもらったはいいが、ちぎれている。縫ってもらっている間、家の手伝いをする。 


 先を言ってしまうと、この絵描きさんもクライマックスで重要な意味を持ってきます。その人の存在感を出すために、キキがどうしても達成したいこの「荷物をしっかり届ける」という命題に絡めていくことで、この絵描きさんの存在をアピールすることになっているのです。

 こうしてなんとかぬいぐるみを戻すということでやっと一つ目のミッションが終わります。はじめてのおつかいというかなんというか、見ている人はハラハラしながらも、最後終わって「よかった〜」というカタルシスを得ることになるのです。

 それも全部一つのテーマである「物を届ける」という過程に多くの困難を散りばめ、それをきれいに回収されているからこそ成せる技なのです。


 この後トンボとの関係に変化が訪れます。

 先ほども書いたように、「最初印象が悪い」から「気に入る」と変化させるのは非常に難易度が高いです。それをこの作品ではどのように描写したのでしょうか。

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