安心させたらすぐに次の爆弾を!

 パン屋のおソノさんが部屋を貸してくれるといいます。魔女という存在に好意を抱いていたのと、おソノさんが届けたかったおしゃぶりを、キキが快く届けてくれた姿を見て、協力してくれると申し出たのです。おソノさんはこの街で初めて味方になってくれる人です。窮地に陥っていたこともあり、このおソノさんの好意が温かみが増し、感動的に思えます。そう思えるのも、ここまで徹底的にキキをいじめ抜いたおかげなのです。


【弱点は人を動かす】

 おソノさんを妊婦としたのも非常に良い設定となって生きてきます。


<ひっぺがし>

おソノ「あら、このおしゃぶり忘れていったわ。これないとあの子泣き止まないんだよね」

キキ「わたしが……」

おソノダッシュで届けにいき、渡す。


——魔女の宅急便、登場前に終了。


 これではいけません。簡単には走れない「妊婦」と設定することで、キキの存在感が増したわけです。これは足を怪我している、店が混んでいて、手が離せない、など、なんでもいいです。キキが助けるということがとてもありがたい、と思ってもらえるように、おそのさんの立場の人ができない、という情報を入れているのです。


※コーヒーがインスタントだ……。旦那、しゃべれないのに店番できるのかな……。


【すかさず次の爆弾を】

 これで住むところは確保できました、よかったよかった、ではいけないのです。この街に来て初めてかもしれない、好転。嬉しいことなんですが、創作の基本を忘れてはいけません。


「起きてほしくない事を起こせ!」


 キキが街に受け入れられて、問題解決、それを望みつつも、それが達成されたら、みんなその先を見てくれません。この好転の余韻が冷めやらぬうちに、次のトラブルを起こしていくのです。


 例えば次のような展開が挙げられるでしょう。


・おソノさんは受け入れてくれているのだけど、家族の1人からは嫌われる。その理由は、

→キキが可愛がられていると自分への愛情が薄まるから。

→前々の苦い経験から、魔女が嫌いだ。

→魔女駆除委員がいる

など。


 ちょっとした不協和音を残すことが視聴者をつなぐ秘訣となります。


「お店を開くために電話をひきたい。お届け屋さんを開きたい」


 キキのそんな気持ちを知り、おソノさんは電話を使わせてあげる、部屋も使っていいといいます。店番を手伝ってくれるなら。


 ここでも「妊婦」という設定が活きてきます。何がハンディや弱点があると、人は動きます。頼ったり、隠すために行動したり、それがない人物を妬んだり。ここでは、おソノさん妊婦、手伝って欲しい、キキが手伝ってくれると助かる、という流れによって、キキという知らない人を受け入れる、という行為をスムーズにしてくれています。


※余談ですが、このお話はキキがまさに「宅急便をする」というアイデアを思いつくところが一番大事と言っても過言ではないのでしょうか。飛ぶ事しか取り柄のなかったキキがこの街で役立つためにかなり悩んだはずです。この「飛ぶ」→「宅急便」という絶妙なアイデアがこの物語の醍醐味であるような気もするのですが、意外にも映画ではこの発想は、さらっと流れました。


 順調に宅急便業務が始まったと思いきや、一つ目の依頼で早速とんでもない試練が訪れます。

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