#3.生意気な後輩は入部する

 俺が通う冬ヶ丘高等学校には、様々な部活が日々活動している。

 サッカー部や野球部、バスケ部を始めとする運動部。そして、美術部や報道部などの文化部。珍しいところで言えば映像研究部とかコンピューター部なんてものもあったりする。


 そんな我が校で俺が所属している部活は天文学部。主な活動は星を見たり、それを記録して変化を見比べたりそれを提出したりと結構活発だ。

 とは言え、頻繁に観測会を開けるわけではない。週に一度、学校から許可を得て開いている。ただ、観測会を開かなくとも毎日部室には集まる。まぁ、殆ど星の話かテレビの話しかしてないけど。


「じゃあな舜」

「おう! 今日は観測会するのか?」

「いや、それは明日。今日は明日の準備とか打ち合わせ」

「なるほど。まぁ、頑張れよ!」


 ちなみに、観測会は部員だけと言うわけではない。たまに校内で希望者を募って、その人も加えて会を開いたりする。まぁ、朝比奈は忙しそうだしこう言う活動は中々出来なさそうだけどな。


 天文学部の部室は、第二校舎の四階。人気が少ないような奥の部屋を使っている。ただ、部室までの道のりが遠い。

 二年の教室は三階なのだが、そこから一度二階に降りて第二校舎に移りそこから四階までと中々にハード。

 そのおかげで文化部にしては体力がついていたりする。


「ただ、階段の上り下り以外で運動しないから足腰が毎回キツいのが難点だよな……」


 風邪で一日休んだ日の後は筋肉痛が確定するほどハードな道のりである。


「ういっす〜」


 部室の扉を開けると、開いた窓から春の暖かな風が吹き込み、一人の少女が文庫本を眺めており、風によって長い髪が靡いていた。その姿はさながら文学少女。少女はコチラに気づくとパタリと文庫本を閉じ、フッと微笑む。


「やっときたね春野くん」

「少し知り合いと話してしまいやして……」


 この少女──いや、先輩の名は星見夜ほしみよる。誰がどう聞いても第一印象が「星好きそうだな」と思ってしまう人ナンバーワンの人物である。そして、校内でも名の知れた美人であると同時に天文学部の部長である。

 しかし、顔が良いと侮るなかれ。星見先輩の実家は空手の道場を開いているらしく、変な下心を持って近づくと逆に返り討ちに合う。実際、ちょっかいを掛けて背負い投げされた男子生徒が新しい。いや、もう少し手心咥えてあげなさいよ……。


「明日の観測会の話なんですけど、先生に許可取ってきましたよ」

「ありがとう、やはり優秀な後輩を持つと楽が出来ていいね」

「先輩はもっと働いて下さい、一応部長ですよね?」

「ハッハッハ、校内一の美少女たるもの偶にはこうして怠けるのも必要だとは思わないかい?」

「息抜きは大切ですけど、校内一の美少女を誇るなら俺の前でもそうして貰えるとありがたいんですけど」

「いやいや、春野くんとは長い付き合いじゃないか。今更気にしたってねぇ?」


 そう、俺と星見先輩は中学からの付き合いなのだ。星見先輩は中学では運動部だったが帰りにバッタリ会うことが多く、帰り道も同じ方向だと言うこともあり他の人よりも長い時間関わっている。そのせいで星見先輩の本当の姿を知ってしまったわけだが。


「まぁいい。私も、ただ本を読んでいたわけではない。準備はすでに済ませているからね」


 チラリと星見先輩が視線を外し、その方向に視線を向けるとすでに道具が準備されていた。


「せ、先輩が準備している……だと!?」

「君は私をなんだと思っているんだい?」


 だって、いつもは殆ど準備を俺に投げて寛いでいるあの先輩が自主的に準備をしているんだぞ!? 明日は雨が降るのか?

いや、明日雨が降ってもらっては困る。


「先輩、今すぐ元に戻して下さい。もっかい俺が用意します」

「私に対する信用が少なくないかい!?」


 今までの自分の行動を振り返ってもなおその言葉が言えたのなら俺も謝ろう。だが、振り返ってもしっかりしていた記憶がないから扱いが酷くなっても文句は言えまい。


「全く、乙女の扱いは丁寧にしなければモテないぞ? ──あぁ、そうだ。言い忘れていたけど、我が天文学部に新入部員が来る事になった」

「随分と唐突ですね。転部ですか?」

「いいや、それなんだが──「入部届け出してきました!」おお、噂をすれば」


 バン! と勢いよく扉が開かれると同時になぜか朝比奈が現れた。いや、ほんとに何故?


「……まさかっ!」

「ふっふっふ……そう! そのまさかさ!」

「先輩──入部しちゃった☆」


 入部しちゃった☆じゃねぇよ。


 ****


 唐突に部室に現れ、入部宣言をした朝比奈は現在俺の前でなぜか星見先輩とキャッキャと話に鼻を咲かせていた。


「咲良ちゃん手すべすべだねぇ」

「えへへ、星見先輩だって髪ツヤツヤですねッ!」

「いやぁ、アイドルに褒められると嬉しくなるものだね。なぁ、春野くん」

「俺に振らないで下さいよ……で? 何で天文学部に居るんだ?」


 サラッと仲良くしてるし、入部しましたって言っているが話の流れが全然理解できていない。そもそも、アイドル活動で忙しいはずなのになぜ部活に入ろうと思ったのか。そして、なぜ天文学部なのか。疑問はなくならない。


「え? 昨日先輩に聞いたじゃないですか。何部なのかって」

「いや、言ったが……まさか、元から入るつもりだったのか?」

「あり前ですよ! 先輩あるところに私ありですからね!」


 毎回現れてもらっちゃ困るんですけどね。


「まぁ、天文学部に入部するのは良いとして……アイドル活動もあるんだし、忙しくならないのか?」

「そこはマネージャーさんに相談して、オッケー貰いました!」

「行動力すげぇ……」


 まさか、同じ部活に入るためだけにそこまで行動するとは思っていなかった……いや、同じ学校来てる時点で察せたか。

 とは言え、アイドルという立場でありながら部活動に参加できると知られれば多くの部活が勧誘してきそうなものだがそんなことはないのだろうか。


「他の部活から勧誘とかされたのか?」

「されましたけど、決めてると言ったらすぐに引いてくれました!」


 流石に、芸能人を無理やり誘うことはできなかったようだ。


 まぁ、部活とは言え天文学部はそこまで頻繁に活動していないし、内容的にも朝比奈にはピッタリなのかもしれないな。


「まぁ、そんな訳で部活もよろしくお願いします先輩!」

「はぁ……大変だ」

「頑張りたまえ、春野くん」


 アンタも頑張るんだよ部長。


「さて、早速明日の観測会についてだが──」

「星見先輩が道具準備したんで明日は雨の予定ですね」

「だから私のこと何だと思ってるんだい!?」

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