2-1-3「それは、逆天竜魔神王ファロゥマディンからの挑戦状であった」
「汝、我を崇め奉ると云ふか?」
愛の告白を受けたファロゥマディンが、顔は無表情のままで興味と関心、そして威圧感をその冥い闇夜に浮かぶ金月の瞳に宿す。
「えぇ!崇め奉りますわ!!!」
ヴィヴィアンはそう即答した。
ヴィヴィアンの答えにファロゥマディンがいつもは心牙のみに向けている小さな微笑みで応える。
「なれば汝、我が信徒となりて不義でもって逆天となし堕落をもって堕天となすことを誓うが良い」
ファロゥマディンが左手の甲を差し出す。その手の甲には不気味に蠢く魔法陣が浮かび上がっていた。
ヴィヴィアンが差し出された右手に自らの両手を添えてそのまま唇を蠢く魔法陣に近付ける。誓いのキッスだ。
ファロゥマディンの氷のように冷たい手の甲とヴィヴィアンの柔らかく温かい唇が触れる直前
「なりません!!!
ピッキオーネンが咄嗟にビームハルバードを振り降ろしファロゥマディンの腕に斬り掛かる。激突の瞬間、金属音とも陶器が割れた時の音ともとれる甲高い音を響かせて魔神の左腕が赤紫色の液体を撒き散らしながら宙を舞う。一介の
「ほほう、汝は我が儀式が不服と申すか」
ファロゥマディンの暗い闇夜の金月の瞳が新しい玩具を見つけた犬のようにキラリ輝き、ピッキオーネンを捉える。左腕を喪っても痛みなどないかのようであり、現に吹っ飛んでいった左腕が既に元の腕に戻りくっつき初めていた。
ファロゥマディンが立ち上がり、骨だけの翼を広げ、元に戻りつつある左手をピッキオーネンに向ける。ピッキオーネンに向けられた左腕の周りには黒く鋭い結晶体が、まるで荒ぶる獣の牙のように浮かび上がる。
ロビーでは神が
「ヒッ」
先ほどまでの威勢はどこへやら、ピッキオーネンは恐れと畏れと怖れから腰が抜けたのか、顔を青ざめてその場にへたり込んでしまった。
「待て。俺もその誓いとやらには反対だ。」
心牙が第三の鍵、拳銃形態のヴォルヴァンガンドの銃口をファロゥマディンに向けつつ言い放つ。
「おい、姫さん。ファロゥマディンは単なる魔王じゃない、恐らく本物だぞ」
勇者ゲームにおける魔王とは、単なる「敵役」であり「悪役」に過ぎない。クエストという劇を盛り上げる役の一つであり、勇者を引き立たせる駒である。
だが、ファロゥマディンは違う。善悪二元論を掲げる
「あら、その辺りは何となく存じておりますよ?」
ピッキオーネンに邪魔をされてからずっと俯いて無言だったヴィヴィアンがすっと立ち上がり顔を上げて心牙にそう告げる。その表情は悔しさと嬉しさを綯い交ぜにしたかのような、そんな表情だった。
「……やはりダメです
ピッキオーネンの言の葉を叩き切るようにソハヤノホシマルがすっ飛んでいき、その言の葉の根本たる首元にピタリと刃を当てる。
「お気楽な伊国人の貴女に何が分かると!?」
それまで声を荒げなかったヴィヴィアンがその時初めて吼えた。それまでほぼ崩すことが無かった柔和な笑顔はやり場のない怒りで歪み、その綺麗なものしか見てこなかったような透き通った碧眼は不満で満ち溢れて濁っている。
「ふむ。汝らの仲は複雑怪奇であるか。其なれば我が執り成してやろう。」
ファロゥマディンの眼球が左右別々に忙しなく動き出す。
「クエストの申請、か?」
心牙の言葉にヴィヴィアンとピッキオーネンもまた顔をファロゥマディンに向けその動向に注視する。
「汝ら、我と戦うがいい」
ファロゥマディンの眼前にウインドウが開き申請中であろうクエスト内容が展開表示された。
『クエスト∶魔王討伐 討伐対象∶逆天竜魔神王ファロゥマディンLv.100 勝利条件∶ファロゥマディンの撃破 敗北条件∶味方の全滅 特別報酬∶ファロゥマディンへの命令権』
要約するとそういう内容であった。
「お前、クエストとかって制限されてなかったか?」
「我を対象にするよう、其のサポーターに求め訴えたり」
「アルアテルミスさまたちわたくしのサポーターさまと、連携を取られたということですか?」
ヴィヴィアンの言葉にファロゥマディンが然りと頷く。
「我は「背理」と「不条理」、「堕天」の神である。我を崇め奉ると云ふなればこそ、我に立ち向かって魅せよ」
それは、逆天竜魔神王ファロゥマディンからの挑戦状であった。勝てば特別報酬としてファロゥマディンへの命令権が賞与される、特別なクエストだ。
「堕落は好むがしかして怠惰は許さぬ。汝ら、其の命賭して我に立ち向かうが良い」
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