第二章「レベル1のクソ雑魚ソシャゲ勇者だけどレベル1で逆天竜魔神王・レベル200に挑むことになった、誰か助けて(涙)」
2-1-1『わたくし、ファロゥマディンさまに興味がありますの!』
「おぉ、我が勇者ああああよ!漸く来訪したるか!」
月曜日の放課後(ジョージアの襲撃から三日後)、勇者ゲームにログインした心牙を出迎えのは、いつものナビゲーター役のジャジャミラ・バステットではなく、薄く微笑み浮かべたファロゥマディンだった。
だだっ広い一面の雲の床と青い空の天井が広がる初期状態のマイルームに、この前ついでに建てた木造のロッジのような狭い心牙の新しい家――こちらも初期状態なので家具も何もない――の中央に骨の翼を広げたファロゥマディンが立っている。
心牙は思わず自身のアバターアーマーが正常に展開しているかを確認する。アバターアーマーも勇者ネームも正常動作しているようだった。
「よぉ、ファロゥマディン。二日ぶり!」
心牙は軽く右手を挙げて級友にするように挨拶をする。ファロゥマディンは挙げられた右手を不思議そうに見つめたあと、意味を理解したのか自身も同じように右手を軽く挙げた。
「迷いし我が勇者よ、導きを必要とする者よ。猫に代わりて我がナビゲーターとなり汝の道を照らし示さんつもりだのに、二日も訪れぬとは」
「あぁ、土日は基本的に勇者ゲームは休むことにしてるからな」
妹の面倒をみるためと自身の体調・メンタル管理、そして学業のためにも心牙は勇者ゲームをアルバイトのようなものと見做して、土日は基本的にログインをしていなかった。
「して我が勇者よ、勇者ああああよ。今日は如何なる活躍を我に見せるか?」
そう言ってファロゥマディンはレベル1の心牙が受領可能なクエストを一覧表示したものを空中に投影した。
「おっ分かり易いな、サンキュー!」
ファロゥマディンが自慢げに微かに鼻を鳴らす。
「我にかかれば造作もなし」
「よし、じゃあこの調子で今後も頼む」
勇者ゲームを本格的に攻略するにあたり、味方は多いほうがいいと判断した心牙は、まずファロゥマディンとちゃんと向き合おうと密かに決心していた。何か目的があって心牙に接近しているのであれ、仲良くしておくに越したことはない、と。
「そういえば俺、まだレベル1なんだな」
土曜日に
勇者の「レベル」は基本的に総獲得ポイントに比例する。ポイントを獲得すればその分レベルは上がりロビーの開放や戦闘力の向上などの様々な特典を得られる。その分、レベルが上がる毎に指数関数的に必要ポイントが上がる仕組みだ。
「汝、我が勇者ああああよ、抗議に赴くか?」
ファロゥマディンが若干目を輝かせ、心做しかわくわくした様子で尋ねた。
「抗議か、それもいいかもな」
心牙はファロゥマディンの意見に賛同する。何にせよ、レベルが1のままでは出来ることなど少ないから、出来ることをやっておきたかった。
「無☆理」
運営は即答した。
場所は全体ロビーにある
この
「無理って、何で?」
「チミが神器を制御出来てないからSA!」
口調や仕草までほぼ完璧にヤハウェイを模した機械人形に強い苛立ちを覚えながら心牙は質問を続けた。
「それはレイガルダインの劫火が原因か?」
「イエース!劫火がレベルの
ほぼ心牙が予想していた通りの答えが返ってきた。
「制御の仕方は?」
「Error ソノ質問ニハ、オ答エ出来マセン」
そしてエラーメッセージと警告音を吐いて、機械人形は機能停止した。
最早妹二人を勇者にしたいがために、自身を亡き者にしようとしているとしか心牙には思えない。が、それならばこちらの意向を無視して強引な手段でやらないのは何故なのだろうか、と心牙は思案する。
考えても確たる証拠も判断材料もないので、心牙は諦めて相談所を出た。
一面の青空と白い雲の床が広がるロビーに出た心牙の目に飛び込んできたのは、棒立ちで目を瞑っている外で待たせていたファロゥマディンと、彼女のスグ側で崇め奉るかのように膝立ちで両手を組み仰ぎ見る金髪縦ロールの美少女だった。
金髪縦ロール!リアルでそんな髪型を初めてみた、いや、勇者ゲームだからあれもアバターアーマーなのか、と少し感心した心牙。金髪縦ロールの少女は、まるで絵本のお姫様のようなふわりと花のように広がるスカートが特徴的な淡い紫のドレスを着てやはり絵本のお姫様のような豪華なティアラを頭に乗せている。その頭上には『
「我が勇者よ、抗議は終焉を迎えたるか?」
気配で心牙を察知したファロゥマディンが目を開けて薄く微笑みを浮かべる。
「あ、あぁ。…ところで、そちらの方は?」
我道が未だに片膝立ちでファロゥマディンを見つめる金髪縦ロール美少女を指差す。
「知らぬ」
ファロゥマディンはあっさりとどうでもよさそうに答えた。
碧眼をキラキラさせて両手を組み、熱心にファロゥマディンを見つめる少女を放っておけず、心牙は声をかける。
「あの~……」
「わたくし、ファロゥマディンさまに興味がありますの!」
「はい?」
「なので邪魔をしないでくださいまし」
その言葉が放たれた直後、突如として金髪縦ロールの背後から一振りの日本刀が飛び出して空中で一回転したあと、心牙に切り掛ってきた。
「刀!?神器か!」
頭上から振り下ろされる一太刀を咄嗟に第三の鍵・スルトルブランダーで切り払う心牙。キィンと鋭い音を立てて回転しながら、星型の鍔の日本刀が吹き飛ぶ。三日くらい前にも同じようなことが起こった気がするな、と既視感を覚えるがそれ処ではない。
「一体何だ!?」
弾かれて吹き飛んだ筈のその日本刀型の神器は、透明人間が繰り出しているかの如く――否、よく見れば薄っすらと半透明な忍者のような人影が刀を握っている――空中で再度向きを変えて心牙に突っ込んできた。ファロゥマディンは状況を楽しんでいるのか心牙の動きを薄く微笑みながら見ているだけだ。
「お戻りなさい、ソハヤノホシマル」
すっと立ち上がった金髪縦ロール少女が手を鳴らすと、「ソハヤノホシマル」と呼ばれた星の鍔持つ日本刀型の神器と忍者風の人影は風を切る音を残して再び彼女の背後に消えた。
「一体何のつもりだ、あんた!?」
警戒心マックスになった心牙はスルトルブランダーを中段で構えて金髪縦ロールを睨み付ける。
対して金髪縦ロールは立ち上がり、のほほんとした柔和な笑顔で心牙に向き直った。
「ごめんあそばせ。ソハヤノホシマルは
金髪縦ロールの美少女が細い両手を広げると、それに呼応したのか神器「ソハヤノホシマル」と共に半透明の忍者が再び彼女の背中から飛び出し、まるで演舞でもしているかのような優雅さで刀を振るう。
「西洋人っぽいあんたが、日本刀の神器?」
「あらぁ、貴方も日本人でありながらお使いになられている
心牙が「何故俺の神器を知っている」とばかりに怪訝な顔付きをすると、それを察した金髪縦ロール美少女が空中に映像を投影した。そこには――
『俺の神器は劫火の神器レイガルダイン。真の名は――北欧神話を滅却した最凶最悪の神造兵器、終末神剣レーヴァテインだ!』
ジョージアと戦った時の映像が写っていた。
「ジョージアさんが映像をばら撒いていましたの」
「あ、あの野郎……!」
心牙の対人戦は基本的に「
「勇者ああああよ、我の知らぬ間にこのような活躍を……!?よもやかの決戦兵器レーヴァテインであったとは……」
査問会に連れて行かれたせいでジョージアとの戦いなど知らないファロゥマディンが映像を見てその身を震わせている。心牙は一旦ファロゥマディンはスルーすることにした。
「単にファロゥマディンを拝みにきたワケじゃないだろ?何のようだ?」
心牙はスルトルブランダーを中段に構えたまま、尚も警戒を解かずに金髪縦ロールに問うた。
「そうでしたわ!わたくしの目的は……」
金髪縦ロールが何か言いかけたところで、心牙は殺気を感じてチラリと左を見た。ミサイルのようなモノが猛スピードで迫っているのが見えた。
「はぁ!?」
心牙は咄嗟にその場を飛び退くついでに金髪縦ロール美少女を庇うように押し倒す。ミサイルは未だに映像に魅入っているファロゥマディンの脇腹に直撃して爆発を引き起こした。
「ちくしょう!今度は何だ!?」
すぐに顔と上体を上げ、周囲を確認する心牙。ファロゥマディンは爆発などなかったかのように傷一つどころか埃一つなく健在でケロリとしており、金髪縦ロールは「まぁまぁ」などと呑気にしている。
「
ミサイルが飛んできた方角から何者かがこれまた猛スピードで近付いてきていた。その近付いてくるシルエットに心牙は見覚えがあった。
「まさかのガンドゥム!?!?」
そう、ガンドゥムだ。正式には「機動騎兵ガンドゥム」という人型ロボット兵器を用いた戦争を題材にしたTVアニメシリーズの一つ、「機動新騎兵ガンドゥム
より正確にはその「フェニーチェ・ガンドゥム」を模した、ビキニアーマーの女勇者が豪華な紋様が描かれた巨大な盾を構えたまま、腰部大型スラスターと背部の翼状スラスターユニットを全開にしてこちらに迫っていた。
「
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