1-4-2『正義、執行!』
心牙とジョージア、二人で受注したクエストは「ゾンビ退治」だった。
「裁きよ!」
ジョージアが十字架型の長大な神器を掲げると、十字架型の光の剣が無数に顕現し、まるで嵐の如くゾンビの群れに飛来、その腐肉を切り裂いて薙ぎ倒していく。
小さなものは大人の股下程度から、大きなものは2m近いものまで大小様々な100体近くのゾンビがよたよたと二人の勇者に向かってきている。
クエストの場所はどこぞの大通りで時間帯は真夜中。
多くの場合、勇者ゲームにおけるクエストは「クエスト空間」と呼ばれる現実とリンクした異次元で行われる。
ゾンビは現実に発生しているのではなく、何らかの災害か人災の予兆が具現化したものだ。そしてクエスト開始前は夕方だった時刻がクエスト空間では深夜になっているのは、「これから起こるであろう災害、あるいは人災」を未然に防げ、ということである。
「この大通り見覚えあるし、ゾンビもこれ人間だろ? 暴動が起きるってことなのかな?」
優雅にしなやかに時に荒々しく大胆にゾンビを次々と狩っていくジョージアとは対照的に、心牙は第三の鍵・スルトルブランダーを片手に息を切らしながら小型と中型のゾンビと追い掛けっこをしていた。
「さっすがセンパイ!たぶんこの向こうに、発生源がありますよ! あ、GGちゃんの勘ですけど!」
光の剣の嵐をくぐり抜けてきた小型のゾンビを、足先から発生させた刃で薙ぎ払いながら、事もなげにジョージアは言う。
ジョージアは事前に「自分はスペルキャスターで近距離は苦手」だと心牙に伝えていたが、心牙が見る限り、遠近共に隙がない。流石はレベル30だ!と心牙は感心しっぱなしだった。
一般にレベルとは「単位時間当りに自身の意思でどれだけ世界を改変出来るか」を指す指標である。
レベル1は手近にあるものに触れる、持ち上げるといった凡人と同格。2と3は自らの意思と集中力により肉体の限界を超えるトップアスリート、10以降は魔法を呪文や儀式などの準備段階を経て操る、といった具合に。
レベル30以上のジョージアは光の剣の魔法を反射的でも無詠唱でも即座に自在に操るスペルキャスターである。
「ちょっと数が多いですね! センパイ、何か良い案ありますか?」
数は確かに多いが攻撃力も素早さも知能も大した問題ではない。最大の懸念点は「倒しても湧いて来る」という点だ。クエスト空間の何処かに存在している「発生源」を突き止めなくければ、ゾンビはそこから無数に湧き出て来るのだ。
「……少し足止めを頼めるか?」
「えぇ!勿論!」
心牙の頼みにジョージアが満面の笑みで答える。
しかし、ジョージアの笑顔とは裏腹に、心牙は不信感を募らせていた。ジョージアは何か重大な隠し事、あるいは嘘をついている、と心牙は睨んでいる。
とはいえ、今は目の前のゾンビである。ジョージアが神器を振るって足止めをしている隙に、心牙は秘策を実行することにした。
スルトルブランダーを一旦量子状態にして収納。神器レイガルダインの他の機能を取り出す。心牙の背中にノイズが走り、とある物体が顕現する。
レイガルダイン九つの武装の内の一つ、心牙の身長よりも長大な折りたたみ式のロングバレルカノン砲、「第七の鍵・ガンバンディ」だ。
背骨と一体化した保持用サブアーム兼エネルギーバイパスが長大な砲身を右腰の横から正面に展開させる。
心牙は大きく深呼吸をする。「神や勇者がエネルギー源とする「マナ」とはありとあらゆる場所に存在する可能性そのもの、常人には感知不能なダークマターである」という、勇者ゲームの外部協力者である『教授』の言葉を思い出す。
レベル1の心牙は他の勇者に比べてマナの生成能力が極端に低い。だから、マナを消費する行動をする時は外部から取り込む必要がある。
マナを取り込むことを意識してマナが口や鼻から肺に入ることを意識して、深呼吸。マナが血液と神経系を介し全身を駆け巡るさまを意識して、深呼吸。
「第七の鍵・ガンバンディ」の砲口にマナから精製された回帰性の波動エネルギーが充填される。
「第七の鍵、ガンバンディ!ブラスターモード!」
ジョージアへの合図も兼ねて、心牙は武装名を叫ぶ。ジョージアもそれに気付いたのか、ゾンビの群れへの攻撃をやめ、大きく跳躍してその場を引いた。
「シュートッ!」
トリガーを引くと同時、回帰性の波動エネルギーが砲口より拡散発射される。それは広がる光となってゾンビの群れを包み込み、瞬時に灰と塵へと分解していく。
「わぁ!日本のアニメみたいですごいです!ホントにレベル1なんですか!? 全然原理とか分かんなかったですよ!」
「いや、凄いのはGGのほうだよ」
苦笑しつつ答えながらも内心で心牙はジョージアに不信感を抱いている。ジョージアはやたらと心牙のことを
「それよりもあれが発生源みたいだぞ。さっさと終わらせてゾンビの腐った顔とはおさらばだ」
「……えぇ!そうですね!」
大通りの奥の路地裏から空間が捩じれたような禍々しいオーラが沸き出ていた。ゾンビという障害物が無くなった今、二人は足早に発生源に近付く。
「……なんだこれは」
先に到着した心牙の目に飛び込んできたのは、醜悪な肉塊だった。醜悪な肉塊としか表現のしようがない物体だ。三人ほどの人間をミキサーにかけて内臓や手足頭を滅茶苦茶に盛り付けたパフェを叩き潰したような。それがビルの間のじめじめとした路地裏にあった。三つの顔が物も言わず虚無の瞳で虚空を見つめている。
「センパーイ、早く片付けちゃいましょうよー」
怖がっているのかそういう演技なのか若干震えた声でジョージアが心牙の背後から声をかける。
「あの時の三人だ」
心牙には三人の顔に見覚えがあった。若干崩れているが、ファロゥマディンと最初に戦った時に、あの場に居た三人組だ。ファロゥマディンが誘き寄せて悪しき心を抽出しようとして巻き込まれた三人組だった。
この3人が完全に
「俺がファロゥマディンの角を斬った時に、あいつの体液を浴びた、からか? 人間の肉体から
心牙の呼びかけにしかしてジョージアは先程までの媚びるような態度とは一変して冷たい口調で言い放つ。
「何言っているんですかセンパイ。
「?まだ人間だろ、 助かる筈じゃないか!」
ジョージアの物言いに強い違和感を覚えつつ、心牙は何か手はないかと顎に右手を当てて思案する。本来、ほとんどのクエストは民間人には直接影響が出ない。しかし、何かの間違いでクエスト空間に入ってしまったり、何らかの才能故に勇者や
そして、
「……センパイはやっぱり悪魔の手先なんですね」
落胆しているようなあるいは歓喜しているような、ジョージアの独り言は心牙の耳には入らない。
「
自身の神器を大上段から一気に勢いよく振り下ろすジョージア。神器には巨大な光の刃が発生しており、このまま振り下ろせば
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