「まるのなか」
「おねえちゃん」
「うん?」
「ううん、なんでもないの」
寝転がった、私と近所の仲ちゃん。
いびつな竹とんぼを描くように、私の膝上にこの子の頭が交わる。
仲ちゃんのやわらかな髪が私の膝になびいてこそばゆいのと同時に、仲ちゃんが安心と信頼を私にむけて身を任せられていることを強く実感する。
この時間が好きだった。
なによりも愛おしかった。
「今日もいい天気だねえ」
クッキーの型で一つくりぬいたみたいな円形に切り取られた小さな快晴。
私たちの自由な遊び場は白い壁に囲まれていた。
やっと家が一軒、入るくらいの。
太陽がてっぺんにあがってくると、寝転がっていては日が差し込んでくる。
顔を起こして、私の膝で寝たままの仲ちゃんにちょうど影をつくった。
そこで、異変にやっと気づく。
仲ちゃんの顔。
「どうした? そんなに眉をひそめて」
「なんでもないの!」
「いってごらんよー、ほらほら」
髪をわしわしして、くすぐりのポーズをとったところで、やっと仲ちゃんの笑顔を見ることができた。
しょうがないなあ、といったお姉さん気分の様子で教えてくれる。
「あのね、いつまでなんだろうって」
「むぅ」なにが、と聞くまでもなく仲ちゃんは空想を広げて、
「あおいお空とね、いいきもちの風とね、やわらかい草むらとね、あったかいおひざと、あとは……いっぱいいっぱい!」
手を精一杯に広げて、いっぱいの範囲を示してくれた。
仲ちゃんが通じ合えるくらいの距離の、自然の祝福のたくさん。
「おねえちゃん、分かる?」
「そうだなあ」
私にもあったっけ、そんな時期。
何に対しても純真に向き合って、傷つきながら悟ってしまうまで。
大人になっても解決なんてしていなくて、つたなく誤魔化していただけだ。
ほらその証拠に、今の私だってなんて返せば良いのか分かんない。
「ずっとだよ、ずうっと」
「ずっとぉ? ほんとにぃー?」
やっぱり仲ちゃんは納得なんてしてくれなくて、ちょっぴり寂しそうで。
「ずっと、だからさ」
ぎゅっと腕の中に抱きかかえる。
驚いたように力がこもって、やがて弛緩していくのを肌で感じた。
「ほら、心臓の音きこえる?」
「うん」
安らいでいく表情をみていて、私も許されたように感じてしまう。
今は、今だけは、せめてもの贖罪にと。
どれだけそうしていたかは分からない。
やがて仲ちゃんは眠りにおちた。
仲ちゃんと私で、あと2人になってしまった。
次にいつあいつらがやってくるのか、百年後かもしれないし、永遠に訪れないのかもしれないし、明日に迫っているのかもしれない。
ぜんぶ神様のきまぐれ。
どうしても、ずっとの終わりは来てしまうのだろうなと思う。
年長である私のほうから、おそらくは先に。
そうしたら私は仲ちゃんを、たった一人ぼっちにして置いていってしまうことになる。
この狭い世界に1人きりでは、さぞ寂しい思いをさせてしまうことだろう。
落ちた涙が頬にはじけて、ぱちりと目があう。
「ずっとだよ、ずうっと」
私をまねるように仲ちゃんはいう。
「2人で生きていっしょに死んじゃえば、ずっとだね」
そう微笑んでくれて、私はもっと泣いた。
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