君だけのパティスリー

それからしばらく仲直りのきっかけもつかめないまま時は過ぎて、ふゆ樹は講義の最中に悩ましげに唸りながら頭を抱えていた。


「……なーちゃん、なんで怒ったんだろ」


何気なく呟いた言葉に、隣の席に座っていた友人が首を傾げる。


「なんだふゆ樹、お前木並さんと喧嘩したのか?」


こくっと頷いて、ふゆ樹は離れた席に座るななの後ろ姿をぼんやりと眺める。

真面目にノートをとっているななの姿はいつもと変わらないが、ふゆ樹にはその背中に拒絶するような空気を感じていた。


「どうせまたお前が、なんにも考えずに適当なこと言ったんだろ?」


そう言われて、ななとの会話を思い出してみるが、全く思い当たる節がない。


「今必死で思い出してるかもしんないけどさ、なんにも考えずに言ったんだから、自分で思い当たるわけないだろ」


そう言われればそうだ。

実際思い当たることは何もなかったので、ふゆ樹はななの背中を見つめてため息をつく。


「早く仲直りしたい気持ちはわかるけど、理由もわかんないのに簡単に謝ったりすんなよ。木並さん、余計に怒るぞ」


それはすでに実証済みなので、ふゆ樹は力なく頷く。


「とりあえずあれだな、お前はその考えなしなところと、能天気なところを直せ」


もはや返す言葉もなく項垂れるふゆ樹の肩を、友人がぽんぽんと優しく叩く。


「お前ら小さい時からずっと一緒の幼馴染みなんだろ?その腐れ縁は簡単には切れないだろうから、落ち着いて何が悪かったかゆっくり考えろ」


優しい言葉と肩を叩く手に、ふゆ樹が何とか顔を上げて笑顔で頷き返すと、友人がにっこり笑って再び教科書に視線を戻した。

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