出会い系の女の顔にちんこをペチペチした

しまるこ

出会い系の女の顔にちんこをペチペチした

出会い系というのは恐ろしいほど自分の階級が反映される場所である。


自分以上の女はどうしたって落とせないし、自分以下の女だったらどうしたって落ちる。


男として、女として、自分の価値を計りたくなったら出会い系をやるといい。体重計のようにちゃんとあなたの評価を数値化してくれる。


しかし、詐欺写真ということもある。今回はこれにやられてしまった(今回もというべきか)。この女性は写真ではとても可愛かったのだが、会ってみたらひどいブスだった。


性格はもっとブスだった。コンビニで待ち合わせをしたのだが、「着いたら教えてください(^o^)」とメッセージが送られてきた。


彼女の家の近くのコンビニにまで小生が迎えに行っているのに、小生がコンビニの前に立っているのを確認できたら、自分も姿を現すと言っているのだ。こんな卑怯なことはない。小生が怪しい人物でないか確認でき次第、デートを遂行するというのだ。


無論、一考の余地もなく帰っていいところなのだが、このときの小生はまだ出会い系2段だったので(今は6段)、機知が働かなかった。


こういうことをする女は決まってブスだろうと思って、立って、待っていたら、案の定ブスだった。


とんでもないほど太っていた。小さいのに横に広がっていた。そば粉が調理台に叩きつけられてピシャッと伸びたような体型だった。


たった20年でよくここまで太れるもんだなと思った。さらに10年以上食い続けている小生の方が痩せているという生物の妙があった。


出会い系の肥満体型の女性は、街中に見る肥満女性とは一線を画す。病的で、太いのにとてもひ弱そうに見える。骨が入っているのかすら怪しく思えるものだ。この違いはどこから表れるかというと、コンビニの前に立っているのを確認したら自分も行くという、卑屈な根性からきていると思う。


声が小さくて、非常に貞淑風で大人しかった。常に甘ったるい声を出した。それがどうも演技調というか、不自然というか、何か目指している漫画のキャラ(けいおんの紬?)みたいなものがあって、それになりきろうとしているように見えた。優しさというより表現に見えた。人格の試運転をしているように思えた。


そのせいか、いらない声をかけられることが多かった。運転をして5分も経たないのに、「運転大丈夫ですか? すいません。私が運転できたら代わってあげられるのですが」と言われた。一分も経たないうちに、また、「私が運転できなくてごめんなさい。つらくないですか? 休憩を挟みましょうか?」そしてまた30秒も経たないうちに、「私にできることはありますか?」と、内容も甘いが、声はもっと甘く、人工物のような、コンビニの大福みたいな人工的な甘い声で言われるので(見た目もでかい大福に見えるので、コンビニででかい大福買って助手席にお置いたかなぁ? なんて混乱してきてしまった)、イライラしてきてしまった。


小生はたぶん日本でいちばん運転が下手な男なのだが(違反者講習に2回行ってる)、何度も何度も、「運転お上手ですね、運転できるなんてすごいですね」と彼女は言った。


「私、運転免許とれなかったんですよ」


「え? 運転免許とれなかったの?」


「はい。学科の方は頑張ればなんとかなりそうだったんですけど、実技の方が、ちょっと……仮免が受からなくて」


仮免が受かってないんだったら、学科の方も頑張るところまで進んでねーじゃねーか。


「まぁ、運転免許は取れて当然みたいになってるけど、思ってるより難しいよね。みんな当たり前のようにとれるっていうバイアスがかかってるから当たり前にとれちゃうけど、もしこれが取得度20%って言われてたら、本当に20%しかとれないと思う。正直俺もそれくらい難しいとは思った」


と、俺はフォローになっているのかよくわからないことを口にした。


「私、今、旅館の中居さんになるための専門学校に通ってるんですけど、そこが山の奥地にあって、車じゃないと行けなくて、だから母に送ってもらってるんです。母も仕事してるんですけど、母の職場は学校の正反対の、すごい遠いところにあって……私を送り届けたあと、山を降りて遠い職場まで向かっていくんですよ。それを見てて、毎朝、胃が痛むんです。車の免許があったらなぁって……」


「旅館の専門学校? 中居さんって、普通に住み込みで働いて修行するようなイメージがあるけど」


「そうですね、それが一般的ではあるんですけど、観光学について資格や知識があった方が就職に有利なんですよ」


「なるほどね」


「でも、私病気がちで、半分も学校行けてないんですよ。高校もギリギリで卒業した感じで、専門だと出席日数が足りないと問答無用でアウトになるから、ちょっとヤバいんですよ。母がイライラしながら運転するのはそういう理由もあるんです。卒業できるかわからない学校に送り迎えしなきゃいけないという……」


「なるほどね」


「しまるこさんは自営業だなんてすごいですね。大学も出て、資格も持ってて、運転もできて、本当にすごいなぁ」


普通に学校に行って、普通に運転することを、彼女はルビゴン川を越えるカエサルのように褒めたたえた。


「しまるこさんはお母さんとは仲がいいですか?」


「普通かな。基本的には感謝してるけど、一度も感謝の言葉を口にしたことはないね」


「大丈夫ですよ。しまるこさんの気持ちはきっとお母さんに伝わっています。たとえ口に出さずとも、しまるこさんのお母さんを想う気持ちは、きっと伝わっています」


と、彼女は両手を胸に当てながら、クスっと笑いながら言った。それが演技調で、やっぱり何かのアニメの模倣に思えた。彼女がこういったセリフを吐くたびに、会話が死ぬのを感じた。


そのうちに、あなたを愛しています、とか、平気で言われる気がした。日常生活でこういった言葉を口にすると、会話が死ぬということに気づかない人種がいる。それが彼女の現在の不幸を招いている原因なのだが、20年わからないことは一生わかるものではない。3ヶ月勉強しても無理なら一生受からない運転免許試験のように。



「運転、疲れてませんか? 私にできることはないでしょうか?」


……。


「しまるこさん、私にできることがあったら言ってください」


……。


「しまるこさん、本当に大丈夫ですか? 私にできることはありませんか?」


……。


「しまるこさん、一度休憩された方がいいのではないでしょうか?」


(なんなんだ……? これは……)


「うるさい!!!!!」


と怒鳴ってしまう人間も、中にはいると思う。


俺は怒鳴らなかったけど、俺は初めて会った人間なのに、彼女の声を平気で無視し続けてしまえる自分に驚きを覚えずにはいられなかった。


この手のタイプの人間は、軽い。とにかく、軽いのだ。


その人間としてのあまりの手応えのなさに、こちらの対応としても軽くならざるを得なくなる。見た目は重そうに見えるのだが。


むかし、体育の時間に、バレーボールが頭にぶつかって、勝手に早退して勝手にレントゲンを撮りに行ってしまった女子生徒がいた。


むかし、デイサービスに勤めていたころ、すごくハキハキして、「私ここで一生頑張ります」とか「ここに骨を埋める気で働きます」と言って、初日で死んだような顔をして、次の日こなくなった女子従業員がいた。


あれらと同じタイプに見える。


軽いのだが、重く受け止めるのだ。


「しまるこさん、私にできることはありませんか?」


間隔が短くなっていった。一分おきに言われるようになった。初めて会った子にイライラしている顔を見せたくないのだが、もう限界が訪れてしまった。


私にできること? 運転中に、運転以外にできることって何があるんだ? と、そう思っていたが、そういうことなのかなと俺は思いはじめて、ハンドルを切った。



ラブホに連れて行ってみると、やっと、「私にできることはありませんか?」と言わなくなった。


俺は自分で何の感情ももたない顔をしている自分の顔が分かっていた。ほとんど殺人鬼と同じ顔をしていたと思う。いや、床に転がっているミニカーをなんとなく走らせているときのそれの顔か。初めて会った女にこんな顔をしたままセックスしてもいいのかな?と思ったが、空間がいいよと言ってくれていた。前戯も声かけもまったくなし。女の顔にちんこをペチペチしてみると、彼女はそれをセックスとして受け入れた。鼻下をちんこで押し上げると豚みたいになったが、彼女はこれもセックスとして受け入れた。それは彼女が顔面にちんこをペチペチされた過去があったからというわけではなく、普通とか普通ではないとか、そんなことはとうに投げ捨ててしまっていたからだろう。今、彼女に婚姻届を渡したら、すぐにサインされそうな気がした。彼女は自分の人生を小生に丸投げしようとしていた。丸投げしたくて仕方ない彼女にとって、顔面にちんこをペチペチされることは道理に合うことだった。


小生が「帰るよ」と言うまで、ずっと寝ていた。安心して、すやすや眠っていた。この緊張感のなさ。靴もカバンも持たずに登校していく小学生のようだ。そのため、もうとっくに誰も落ちなくなった落とし穴に落ちてしまう。


小生は、彼女を守ってあげたくなった。彼女を傷つける全ての闇から、守ってあげたくなった。しかし、彼女に寄り添って生きるとしたら、一体どこまで遡ればいいのだろうと、気が遠くなってしまって、小生も丸投げすることにした。



「今日はありがとうございました! しまるこさんはどうしてそんなにかっこよくて、会話も上手で、運転も上手くて、すごく優しいのに、私なんかと会ってくれるんだろう? ってずっと不思議でした。とても、とても、すごく幸せな時間でした! ありがとうございました!」


と、長文のLINEが送られてきた。


ちんこをペチペチされて、ありがとうございます、か。


地球にはまだまだ俺のわからないことが多すぎる。


瞬間的に、パッと頭を白紙にすることができないんかな、と思った。


どこかで頭をパッと白紙にしていかなければならない。苦悩して、考えて、迷って、最後は頭を白紙にする。それがどうしてもできなさそうな子だと思った。

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