私のやりたいこと

ユウリ

私のやりたいこと

外は暖かくなり、桜が町をピンク色に染め始めた。


暖かい心地よい春の風に当たりながら私____日比野 美花(ひびの みはな)は病室の外を眺めていた


美花「そろそろ入学式かぁ…」


私は中学2年生の時、_虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)という心臓の病気にかかり、入院している。この病院で過ごすのももう3年目だ。本来なら今日は入学式で、高校生になり、新たな青春を楽しむはずだったけど、私は病院で過ごさないといけない。


美花「…入学式、出たかったなぁ〜」


高校受験は一応して無事受かった。それなのに学校に行けないのが悔しかった。もちろん、しょうがないことなのは分かっている。でも、憧れの青春を過ごせないのは残念だ。


美花「また退屈な1年の始まりだね」


私はベッドに寝転がる。そして自分の腕を見た。腕には点滴が打たれている。何度も点滴をしたからところどころに点滴の跡がついている


美花「…あと1年も生きられないかも…」


正直、息苦しくなったり吐き気がすることが多くなり、病気が悪化しているのを実感していた。だから私はもう諦めかけている。でも自殺をすると自分に負けることになると思っているから、やる気はない。残された時間を病院で過ごすだけが私の生きがいだと思っていた。


美花「はぁ…」


私はため息をついてゆっくり目を瞑った。すると、ガラガラッとドアが開いた音がした。見ると、そこには私の担当の看護師____中山 絵莉(なかやま えり)さんがいた。


中山さん「美花ちゃん、体調どう?」


美花「今のところ問題ないです!」


中山さん「そう、良かった」


中山さんはニコッと笑う。中山さんはとても優しい女性の看護師さんで、小柄だからなんとなく同い年に見えて話しやすい。また20代の人だから盛り上がる話題がほとんど一緒だ。


中山さん「美花ちゃん、お友達が来てるんだけど、入れていい?」


美花「え?友達?誰だろ…入れていいですよ」


中山さん「ふふっ、分かった。じゃあ呼んでくるわね」


そう言うと中山さんは一度病室から出ていった。しばらくすると、中山さんは戻って来る。中山さんの後ろには3人立っていた。その3人は私を見てニコッと笑った


咲「美花、久しぶり!」


詩音「元気か?」


奏都「ちゃんとご飯食えてるか?」


美花「咲!詩音!奏都!」


お見舞いに来てくれた友達とは幼馴染の上原 咲(うえはら さき)と七瀬 詩音(ななせ しおん)と鶴見 奏都(つるみ かなと)のことだったんだ!この3人とはとても仲が良くて、幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒で、このメンバーがイツメンとなっていた。

私が入院してからよくお見舞いに来てくれていたが、中3になった時、3人とも受験勉強で忙しくなり、なかなか来れなかった。だから久しぶりに会えて嬉しかった。


中山さん「美花ちゃん、良かったわね!」


美花「うん!」


中山さん「じゃあ咲ちゃん、奏都くん、詩音くん、ゆっくりしていってね」


咲「はい!」


詩音「ありがとうございます!」


奏都「ありがとうございます!」


中山さんは病室から出て行く。すると咲は私のところに猛スピードで駆け寄ってきた


咲「私ね、授業中とか家で勉強してる時とかずっと『美花は今何やってるのかな〜?』って思ってたんだ!」


美花「そうなんだー!なんか嬉しい!」


奏都「休み時間、毎回のようにそれ言ってたな」


奏都がベッドの隣にある椅子に座りながら言う。すると詩音は奏都の隣に座る


詩音「たまに1日中言っていることもあるよな」


美花「えぇ〜wそんなに心配してくれてんだw」


咲「当たり前じゃん!逆に美花のこと心配してないコイツらがおかしいよ!」


咲は詩音と奏都を指指して言った


詩音「はぁー?俺だって美花のこと心配してたし!」


奏都「僕だって心配してたよ!勝手に印象悪くするの良くないと思うよ〜!」


咲「本当かなぁ〜?」


詩音「本当だって!」


美花「はいはい、みんな心配してくれたのは分かったから落ち着いて〜!」


あ〜、このわちゃわちゃしてる感じ久しぶりだぁ〜!私は3人を止めながらもとても楽しんでいた


詩音「あ、そうそう、俺たち、今さっき入学式行ってたんだけど」


あー、だから3人とも高校の制服なんだ!同じ学校なんだね〜!


すると咲が詩音の言葉に被せてきた。


咲「あのさ!美花って受験受けたの?!」


美花「うん!受けたよ!」


奏都「やっぱり?!」


美花「どうして?」


詩音「俺らのクラスのところにお前の名前があったんだよ!」


私の名前が…?ってことは…


美花「私、また3人と同じ学校で同じクラスってこと?!」


私、学校の制服見てないから分からなかったけど確かに私が受かった高校のホームページをみると3人が着ている制服と一致していた。


咲「こんな偶然あるんだね〜!」


詩音「ってか制服みて気づかなかったの?」


美花「うん、制服見てなかったからさ」


奏都「え?なんで?」


美花「だって、結局行けないと思うし」


私がそういうと、3人は黙り込み、私を見つめた


咲「え、来ないの?」


美花「うん、だって症状が悪化していて、残された時間も少ないのが実感してさ…」


咲「ねぇ、そんな気持ちで死にたいの?」


美花「え?」


咲「そんな気持ちで死んで絶対後悔しないかな?私は絶対後悔すると思うよ!」


咲が突然そんなことを言って私は驚いた。でも咲は真剣な表情で私を見ているから私も真剣な気持ちになった。確かにこんな気持ちで死ぬのは嫌だ。


美花「でも…ずっとここで生活するのに希望とか楽しみとかないよ…」


咲「…美花がやりたいことってある?」


美花「やりたいこと?」


やりたいことか…考えたこともなかった。でも考えてみるとやりたいことはたくさんある。


咲「やりたいこと、全部やろうよ!」


奏都「そうだな、死ぬことが前提にあるならせめてやりたいこと全部やって、やり残しがない状態で死のうよ」


詩音「『死ぬまでにやりたいこと100』みたいなやつ作ろうぜ!」


咲「いいね!」


奏都「美花がやりたいこと100個書き出してもらって、それを達成しよ!」


美花「みんな…!」


詩音「もちろん美花1人じゃ無理だけど、この4人なら達成できるっしょ!」


3人とも優しい微笑みを浮かべて私を見ている。私はとても嬉しかった。でも…


美花「…3人が私のために自分の時間を潰しちゃうのは申し訳ないよ」


3人ともそれぞれ自分のやりたいことをやる時間が欲しいと思う。でも私のやりたいことをやったらその分3人の時間は潰されてしまう。それが申し訳なかった。


咲「…何言ってんの?」


美花「え?」


咲「自分の時間が潰れるわけないじゃん!やりたいことリストを達成させるのなんか楽しそうでしょ!私は少しでも長く美花と過ごしたいの!」


詩音「俺も、自分のやりたいことが今できたからな。」


奏都「美花のやりたいこと、全部やってコンプリートしようぜ!」


私は3人の言葉に感動した。まさか自分のことをこんなに大事に思ってくれていると思ってなかった。


美花「もー、みんな大好き!」


咲「突然どうしたの?」


詩音「それなー」


奏都「あはは!」


3人が私の言葉に笑う。それを見て私も笑った。


美花「ふふっ!私、やりたいこと全部やりたい!少しでもみんなと一緒にいる時間が欲しい!」


詩音「よし、決まりだな!」


奏都「明日また来て美花に100個書いてもらうか」


咲「じゃあ私その紙を作ってくるよ!」


美花「ありがとう!」


詩音「じゃあそろそろ俺は帰るよ」


奏都「僕もー!明日も来るしね!」


咲「私も帰るー!また明日ね!」


美花「うん!待ってるね!またねー!」




次の日、私は咲からもらった紙にやりたいことを100個書いた。そして書き終えてその紙を見る。

これからこんなに楽しみがあるんだ…!

何もない病室で過ごすつまらない人生に、希望の光が差した気がした。

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