第122話 レイ フォン ハーデス


マーサが産気付き、部屋に入れてもらえなかったセイは、時折部屋から聞こえるマーサ、セナ、サラ、グロリアの声に、落ち着かない様子で、部屋前の廊下をグルグル歩いていた


「セイ、少しは落ち着かんか」


「っ…無理だよ、まさかここまで緊張するとは思ってなかったし」


「セイ様は出産に立ち会った事があるんじゃろ?」


「あるよ…でも人の出産は頑張れって、気持ちしかなかったけど、自分の子供だと、無事に生まれてきてくれって、気持ちが増えるから、今凄い緊張してるんだよね」


「その気持ち、分かるのぅ、儂も娘が産まれる時、同じ気持ちじゃったのぅ」


「そうじゃな、儂もルイが産まれる時、同じ気持ちじゃったな」


「グリモアって子供居たんだ」


「居るぞ、シスセイ様も会ったことある、シスイじゃ?」


「ああ!あの人がそうなんだ!なら嫁は誰なの?」


「グロリアじゃ」


「えっ、グロリアさん?」


「そうじゃ」


「…よく結婚したね?」


「どういう意味じゃ!」


「…いや、なんていうか、ねぇ?」


「ほっほっほ、セイの言いたいことは分かるぞ、尻に敷かれるのが、目に見えていたのに、よく結婚を決意したものじゃ」


「それがのぅ、結婚する前は、本性を隠しておったんじゃ」


「そういえば聞いたことがあるのぅ…若い頃のグロリアは、上品で優しく芯のある女性じゃったと」


「シスイが産まれるまでは、そうじゃたのぅ」


「うわ~古典的な手に騙されたんだ」


「そうなんじゃ…それも、いきなり本性を出さずに、子育てで疲れたせいにしながら、ゆっくり違和感が無い様に、本性を出してきおったんじゃ…気付いた時には、尻に敷かれておった」


「「…怖」」


「おぎゃ~おぎゃ~」


「「「産まれた!」」」


セイと冥王が、グリモアの話を聞いていると、子供の泣き声が聞こえてきた


「グロリアさん!入って大丈夫!?」


「少し待ちな!…よし!いいよ!」


セイ、冥王、グリモアの3人は、グロリアの許可を得て、部屋に入った


「「「・・・・・・・・・・・・」」」


セイが部屋に入ると、そこには、ベットに座っているマーサが、優しく母性を感じさせる笑顔で子供を抱いていた


子供を抱いた、マーサを見たセイは、その姿に感動してしまい、声を出せずにいた


「セイ、どうしたの?」


「っ…いや、何でもないよ」


「ふふ、セイ、子供を抱いてみたら?」


「抱き方は分かるわね?」


「分かってるよ」


セイはマーサから子供を受け取り、首を支えながら、優しく抱いた


「あら、泣かなかったわね、てっきり泣くかと思ってたわ」


「そうだね、坊は昔、ルイ様を初めて抱いた時は、大泣きされてたね」


「そうじゃったな、あの時の坊ちゃんの慌てようは、見てて笑えたのぅ」


「グリモアも人の事言えんじゃろ、父から聞いておるぞ、シスイが産まれた時、大泣きされて、何を思ったか歌を歌ったせいで、より酷くなったとな」


「あの時は、何故か歌を歌えば泣き止むと思ったんじゃ」


「それに、あの歌も酷かったね」


「セイ、真剣に子供を見てるけど、何か気になることでもあるの?」


セイは、セナ、グロリア、グリモア、冥王の4人が話している間、真剣な顔で子供を見ていた


その様子が気になったマーサは、セイに何が気になるのかを聞いた


「…既に魔素が浸透し始めてる」


「「「「「えっ…」」」」」


「それも、かなり浸透率が高い」


「「「「「・・・・・・・・」」」」」


「…少し儂に見せてみよ」


冥王は、セイに抱かれている子供を触り、魔素の浸透率を調べ始めた


「…セイが言う通りじゃな、既に5歳児並みの浸透率になっておる」


「浸透率が高いと、何か身体に不味い事でもあるんですか?」


「いや、それはないね」


「ただ、魔法を早く習得する可能性があるだけじゃ」


「なら、何も問題はないのよね?」


「うむ、ただ優れた魔法師になる可能性が高いだけじゃ」


「はぁ~もう!セイが真剣な顔で話すから、てっきり問題があるのかと思ったわよ!」


「いや、俺はただ、俺以上の魔力を持つ子になると思って、びっくりしてただけだよ」


「それもそうね、セイ以上の魔力を持つ人なんて、今まで会ったことがないもの」


「まさか、息子が俺以上の魔力を持つ可能性があるとは」


「いつか、セイを超える魔法師になるかも知れんのぅ」


「いや、息子には負けないよ、永遠に越えられない壁として、存在し続けるね」


「ふふ、それで、この子の名前は、決めてるの?」


「シスターと相談して決めたよ」


「「この子の名前は…」」


「「レイ フォン ハーデス!」」







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