第120話 セナの心



冥王の話を聞いたセイは、1人誰もいないテラスで、庭を見ながら、セナの事を考えていた


「(…はぁ、子供が産まれたら、旅に出ないと行けないのか)」


「(…魔獣達の為に、旅に出るのは良いけど、せめて母様の心の傷を、どうにかしてからがいいんだけどなぁ~)」


「(…心の傷は、時間と根気が必要って、前世で聞いた気がするし)」


「(それに、母様自身が、心の傷に蓋をしているのが、1番問題なんだよね)」


「(…はぁ、下手に心の傷を触ると、自殺する可能性もあるし、できれば落ち着いた時に、話し合いをしたかったんだけど、もうそんな事を言ってられないよねぇ~)」


「…セイ様」


「ん?…母様とセバスさんか、俺に何か用があるの?」


セイが、セナの心の傷について悩んでいると、セバスがセナを連れて、テラスにやって来た


「私は、セバスさんに付いてきて欲しいと、言われたから来ただけよ」


「セバスさんに…(成る程ね、母様の暴走が心の傷から来ているからって、冥王様に聞いたんだね)…なら丁度いいや、俺も母様に話があったんだよ」


「あら、何か話したい事があるの?」


「…今の母様について、話そうと思ってるんだ」


「私について?」


セバスは、セナに気付かれないように、静かにテラスを離れて行った


「…うん、母様は気づいてないけど、今の母様は可怪しくなってる」


「…私の何処が可怪しくなってるの?」


「スゥ~ハァ~…前までの母様なら、絶対に俺が旅に出る事を反対したはずだよ」


「…そんな事はないわよ、だって、世界を旅するのはセイの夢でしょ?母親が息子の夢を応援しない訳が無いじゃない」


「そうだね、母様は、俺が幼い頃からずっと、俺の夢を応援してくれてるよ」


「なら、私の何処が可怪しいのよ」


「…シスターの妊娠が分かってからも、俺の夢を応援するのは、可怪しいでしょ」


「っ、それは…」


「前までの母様なら、夢を叶えるより、産まれてくる子供の為に、旅をするのは子供が大きくなってからにしなさいって、言うはずだよ?」


「…でも…セイの夢も…」


「母様は、子供と離れる辛さを知っているのに、俺と子供を離れさせようとしているんだよ?」


「っ!…私は…そんなつもりは…」


「母様が俺を手放した事を、今でも心から後悔しているのは、俺も分かってるよ」


「…あの時は…ああするしか…」


「そのせいで、孫の世話をする時に、俺がいると苦しいんだよね」


「…そんな…ことは…」


「『本当なら、セイの世話をしたかった、でも手放したせいで出来なかった』」


「『せめて孫の世話をしたいけど、世話をしている姿を、セイに見られたくない、本当なら、セイにも同じ事をしていた筈なのに』」


「…セイ…なにを」


「『私が弱かったせいで、側妃からセイを守る事が出来なかった』」


「『セイを手放した私には、セイに愛される資格がない』」


「『せめて産まれてくる孫には、母親や周りの愛情を目一杯受けて育って欲しい』」


「『セイに出来なかった分の全てを孫にして上げたい』」


「『セイを旅に行かせたくない、でも旅に出ないと私は、孫に何も出来ない』」


「…やめて…どうして…」


「『私は母親としてセイを愛してる、でも何もしてあげられなかった私は、母親の資格が無い』」


「『本当なら、セイと一緒にいる資格なんて私には無い』」


「止めて!…どうして…どうして…私を苦しめるの?…なんで…私の心が分かるの」


セイの言葉を聞き、セナは膝から崩れ落ちた


セイは、崩れ落ちたセナを支え、椅子に座らせた


「…母様…母様には言ってないけど、俺は魔素の奇跡と呪いの持ち主なんだよ」


「…魔素の奇跡と呪い?」


「血縁者の感情と心の叫びを感じ取ってしまう事だよ」


「…なら、セイは知っていたのね、私の感情や思いを」


「知ってたよ、母様が俺を手放した事を、今でも後悔している事も、孫の世話をしたいけど、俺の前だと出来ないと考えている事も、母様の強い感情と思いは、ずっと感じ取ってたんだ」


「…ねぇセイ、私はどうすればいいの?今でもあの日の事が、夢に出てくるの、セイを手放したあの日を」


「…母様が、俺を手放したのは、正しかったも思ってる、もし王宮で育っていたら、絶対に殺されてた、だから母様は間違えてないと思ってる」


「…でも…私に護るだけの力が有ったら、セイに全てをしてあげれたのに」


「もし母様に力があったとしても、側妃達は、どんな手を使ってでも、俺を殺しに来てたよ、だから母様は俺を逃がしたんでしょ?」


「…私には、それしか、セイを護る選択が無かったのよ」


「なら母様は正しかったんだよ」


「、力あれば、そんな選択しなかったのに」


セイは、セナの弱音を聞きながら、セナの選択が間違えていないことを、セナが疲れて寝るまで続けた





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