第119話 セナの暴走


グリモアが、男を連れ図書室に向った後、セイは冥王に、考えの続きを聞いた


「それで、〈魔法薬〉を使うことで、シスターの魔力が、少量で済むようにするのは、話から分かったけど、俺が可哀想って事は、俺が何かするって事だよね?」


「そうじゃ、セイには、残酷な事を頼まなくてはならん」


「・・・・・・それって、何?」


「…儂がセイに頼むのは…出来るだけ早く旅に出てもらう事じゃ!」


「…それって、何処が残酷なの?」


「っ!まさか!冥王様!」


「セバスは気付いたのぅ、そうじゃ、子供が産まれたら直ぐに旅に出てもらう」


「…えっ?なんで!剣の修業中に約束したよね?」


「うむ、セナの暴走を止める約束じゃな、分かっておる」


「なら!なんで!」


「すまんのぅ、事情が変わったのじゃ」


「事情?」


「まさか、聖属性の魔法師が、大量に必要になるとは思わなんだんじゃ」


「…それが、俺が旅に出る理由になるの?」


「うむ、聖属性の魔法師は、かなり少ないんじゃ、儂の領域におるだけでも、10人近くしかおらん、そこで他の魔獣の王の所におる、聖属性の魔法師を、ここに集める必要があるんじゃ」


「…なら、手紙とかで、知らせればいい事だよね?」


「それが無理なんじゃ」


「なんで?魔獣から人に戻るチャンスだよね?」


「他の魔獣の王達には、儂を嫌っとる者が、結構おるんじゃ、そのせいで、儂の部下が会いに来ると、話も聞かずに追い返されてしまうんじゃ」


「はぁ、つまり、力尽くで話を聞いてもらうしか、方法がないと」


「そうじゃ、儂が行けるなら行きたいんじゃが、儂が行くと、より酷い結果にしかならんからのぅ」


「…はぁ、俺の子育ての夢が…」


「すまんのぅ、せめて15年は、ここに残れる様に、セナと話すつもりじゃったんじゃがのぅ」


「…少し、外で風に当たって来る」


セイは、気分を落ち着かせる為に、1人外に出て行った


「…冥王様、先程のセナ様の暴走とはいったい」


「何じゃ、セバスは気づいておらんかったのか?」


「私は気づいていたよ、あれはかなり暴走してるね」


「どういう事です?」


「セナが、いくら初孫が楽しみだからだといって、自分が育てると言い始めたのは可笑しいとは思わぬか?」


「…普段のセナ様なら、一歩引いて手伝うぐらいしか、言わないお方なのに、少し可怪しいとは思いましたけど、お孫様が楽しみなだけかと」


「では、セナがセイを旅に行かせたがっているのは、変ではないのか?」


「っ!そういえば…前までのセナ様なら、旅より子育てをしなさいと、セイ様に言っていたはずです…今のセナ様は、セイ様と離れたがっているような、っ!まさかセナ様は、セイ様を手放した事を思い出しているんですか?」


「そうじゃ、今のセナは、セイを手放した事を思い出し、精神的に可怪しくなっておる」


「多分だけど、セナ様は自身が赤ん坊を抱いている姿を、セイ様に見られたくないと思ってるだよ」


「…本来なら、セイ様出来たことを、セイ様の前で、お孫様にする事になるのが、耐えられないと、セナ様は思っているのですね」


「しかも、セナはそれを全く自覚しておらん」


「セイ様、マーサ様、サーシャちゃん、マイカちゃんは、理解しているけどね」


「では、マーサ様が、セイ様が旅に出ることを賛成したのは、セナ様が精神的に可怪しいと分かっていたからですか?」


「そうじゃ、セイとマーサは、セナがセイを手放した事を、心の奥底で、今でも後悔している事を、見抜いておった、じゃからセナの為に、旅に出ることにしたんじゃ」


「今のセナ様は、セイ様を手放した時と同じ精神状態だよ、下手に触ると、どうなるか分かったもんじゃない」


「ですが、このままではセナ様が」


「分かっておる、しかし、まずはセナに、自身が可怪しい事を、理解させねばならん、その為には、時間が必要じゃったんじゃが、もう、その時間が余り無いからのぅ」


「では、セイ様が旅に出る前に、セナ様と話してもらうしかないですね」


「セイもそれを理解しておる」


「だから、風に当たりに行ったんだね」


「では、私がセナ様をセイ様の下へお連れしてみます」


「…そうじゃな、頼んだぞ」


「はっ!」


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