第4話 謎の一夜


ユキと生活するようになって倫花には変化が現れた。


なぜか欲求不満な夢をよく見るようになった。お菓子や飲み物の消耗が激しくなった。それから寝相が悪くなったのか、ベッドのスミで起きることが増えた。


相変わらずユキは可愛くて、倫花は日中ユキに話しかけるのが癖になっていた。


「ユキ、今日はサークルの飲み会だから遅くなるからいい子にしていてね」


『ワン!』


なぜかユキは人間の言葉がわかるみたい。


「絶対に吠えたらダメだからね。見つかったら保健所いきだよ?」


『ワン!』


「あ~久しぶりの飲みだなぁ!飲み過ぎないよう気を付けなくちゃ」


倫花はまだ冷える夜に備えて、スプリングコートを羽織って外に出た。









ーーー深夜12時をまわっていた。



「ただいまぁ~」 


倫花の足元がふらついている。視界が揺れて真っ直ぐ歩くことが難しく、壁をつたわりながら進んだ。


靴もそろえるのも、電気をつけるのも今は無理。窓から微かに差し込む光を頼りに部屋に入るとすぐさま倫花は腰を下ろした。


「もぉやだぁ~最近サークルにでてこないからって部長たちめちゃくちゃ飲ますんだよぉ。お、お水…」


なんとか這いぞりながら冷蔵庫まで行き、たまたま買ってあった小サイズのミネラルウォーターを飲んだ。タプタプと勢いよく流れ込み、口に溢れた水が頬をつたってこぼれ落ちた。


月光に照らされたユキが、こちらを見つめている。


倫花は急に睡魔におそわれて、全てを手放し、その場で眠りについた。意識が遠退く中で

誰かが優しく抱きかかえるのを肌で感じた。


先輩…?


そっとベッドに下ろされるともう夢の中だった。


『こんなところで寝ちゃったら風邪ひくよ』





倫花はまたいつもの夢を見ていた。誰かが優しく大事なものを扱うように倫花を抱きしめる。ただ今日も、それはとても切なくて何故だか無性に泣きたくなった。


その手が倫花の頬に触れて優しいキスをした。



月が雲に隠れて顔が見えない…


でもいつもの優しい手の感触だったので、倫花は拒まず安心してそれを受け入れた。


「先輩…」


初夏の暖かな風が窓から入り、夢うつつの中で倫花は甘いぬくもりに満ちていた。

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