第2話2 あなたの名前はユキ
陽がしずむ夕方、倫花は息を切らしながら大急ぎで家に向かって走っていた。
やっぱりできない!
どうか無事でいて!
交差点の角をまがり、赤い屋根の駐輪場に目をやる。
いた!!
愛くるしい瞳でこちらをみつめている子犬がいる。
倫花は周りに誰もいないのを確認した後、急いでその子犬を勢い良く抱え込み、一目散に部屋に駆け込んだ。
『クゥン』
子犬は嬉しそうに尻尾をパタパタと振って倫花の頬をペロペロとなめた。
「も…くすぐったいってば…」
フワフワの白い毛がとてもこそばゆい。
「…改めてまして。あたし倫花っていうの」
倫花がそう微笑みかけると、子犬は賢く座り直してオスワリをした。
「いい?もし私に飼われたいなら今からいう決まりを守ってね」
子犬は軽く首をかしげている。
「1、絶対吠えないこと
2、勝手に外にはでないこと
3、私のこと愛してくれること
…いい?わかった?」
『ワン!』
「ったくコイツ本当にタイミングよく吠えるんだから」
子犬はしっぽを勢いよくブンブンふって、倫花の膝にすり寄ってくる。
「あなたの名前はユキよ。白くてふわふわしてるからユキ。ユキ、よろしくね」
『ワン!』
そんな感じで、倫花とユキとの同居生活が始まった。
――――…‥‥
その夜、倫花は不思議な夢を見た。
誰かに優しく抱きしめられる夢。
腰に手を回され、丁寧に体中全て包み込んでくれる。冷えた体がじんわりと温まって、これ以上ないってくらいの優しさに包まれたようだった。
あまりに優しくて倫花は涙をこぼしそうなくらいだった。
「欲求不満だ…」
朝、目を覚ますなりそう呟いた。
「あたし夢で先輩に抱きしめてもらっちゃったんだ。あー早く先輩に会いたいよぉ」
一人布団に抱きついて、倫花は甘い夢にもがいていた。
そんな倫花をよそに、ソファーでユキは気持ちよさそうに眠っていた。
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