第2話 あなたの名前はユキ


あぁ~いい天気!ようやく先輩に会えると思うとつい笑顔になっちゃう!今日はバイトもないし大学の帰りに可愛い下着でも買いにいこうかな!



軽い足取りでアパートの階段を駆け下りていく。最後の一段を下りたとたん、昨夜の子犬がしっぽを振って倫花に駆け寄ってきた。



ってやだ~この犬まだいるじゃん。



「も~、だめだよ~?ここは駐輪場なんだから!早く飼い主とこ帰りな」



しゃがみこんで子犬の背中をなでると、また子犬はウルウルした瞳で倫花を見つめてきた。



「こんな可愛い犬を捨てちゃうなんて、本当にひどい人間がいるもんだね…」



「あらおはようさん」



突然声がして振り向くと、中年パーマをかけたおばさんが倫花を見下ろして立っていた。

うちのアパートの管理人。



「あ、管理人さん!おはようございます!」


「あら~まだいたのねこの子犬。この子先週からずっとなのよ」



管理人はホウキを持ったまま大きな体を子犬のそばに近づけてきた。



「そうなんですか?なんか昨日の夜もここで過ごしたみたいで…。捨てられたのかな、ひどい大人がいるもんですね」


「本当にねぇ…。捨てるくらいなら始めから飼わなきゃいいのに、勝手よねぇ。あ…でもね、倫花ちゃん。うちはくれぐれもペット禁止だからね」


「ハイ、もちろんわかってます」



ニッコリ微笑む倫花にあせったように、子犬は尻尾を振って必死にしがみついてくる。



「でもこのまま放置しておとくのも管理人としてはできないし…。この子には可愛いそうだけど保健所に電話しておくわ」


「えっ!保健所にですか?!」


「仕方ないでしょう…住人もノラ犬がいたら嫌がるし、家主さんからもそう言われてるのよ」



そんな、こんな可愛い子が…。



「倫花ちゃんそろそろ学校じゃないの?」


「あっ!!」



慌てて時計を見ると、走っていかないとかなりやばい時間だ。



「やだ、もうこんな時間!それじゃ管理人さん行ってきます!」



仕方なく子犬の視線を振り切り、倫花は急いで学校に駆け出した。

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