ペットと彼氏と三角関係

水色

第1話 欲求不満



「あ~っ…Hしたぁい」


夜のファミレスに溜め息と一緒に漏れた声。

それに反応して由貴が呆れた顔して倫花を睨みつける。


「ちょっと倫花、ファミレスでそんなこと下品だよ」


「だってぇ~」


こんな小さな声誰にも聴こえてないだろうと思ってたら、倫花は斜め前の席のヤンキーと目が合ってしまい思わず口を塞いだ。



だってだって…

だってあたし、もう三ヶ月もHしてないんだもん!!


「よく彼氏がいないあたしにそんなこと言えるね。…ったくバイト上がりにこんなとこ呼び出したかと思えば。早くうち帰って先輩に泊りに来てもらえばっ!」


由貴が倫花の頭をコツっと叩いた。


確かにいるよ…格好いい彼氏が。

テニスサークルの皆の憧れの先輩で。

2年前の新歓コンパで一目惚れして付き合って。あたしの自慢の彼氏。



でもね…先輩、社会人になって忙しくって全然会えないんだもん!急に一人になると人肌が恋しくなるんだよぉ。

先輩あたしより仕事が大事なのかなぁ。それか先輩もてるから妖艶なお姉様方に骨抜きにされてるんじゃ……。


「あ゛~~っ」



机に顔を伏せる倫花の頭を由貴がツンツンと小突いた。


「じゃあさ倫花も合コンいく?」


ニッコリ笑う由貴に倫花は首を振る。


「…いかない。浮気はしないもん」


「はいはいご馳走さま。まったく。結局はノロケじゃん。今日はおごってよね」


由貴がつまんなさそうにペロッと舌をだした。



…ったく由貴はちゃっかりしてるんだから。

先月彼氏と別れたかと思えばもう合コンの話もってきて。


合コンかぁ…。


行ったことないし行ってみたいけど。でも先輩のことは好きだし、変に疑われるのも嫌だし。

なにより絶対まわりに広まるし(サークル)。


…でも、なんかやっぱりさみしいなぁ。


「早く帰って久しぶりに先輩に電話でもしよっ!」


由貴と別れて倫花が急ぎ足で家にむかうと、アパートの前で誰かがこっちを見ている。


誰かというより…犬??


「やだ~可愛い!ワンコじゃん♡」


まっ白な子犬が駐輪場にちょこんと座ってこっちを見ている。


「あんたも寂しいの?」


「ワン!」


「やだ答えてる、かわい~っ。…でもこの犬首輪もしてないけど捨て犬かなぁ」


辺りを見渡しても誰もいない。子犬には首輪も何もない。


白いふわふわの毛が綺麗でつい手を伸ばすと、子犬は人懐っこく倫花の手をペロペロなめた。


「…でもだめだよ、うちんちペット禁止だからキミを飼うことはできないの。悪いけど誰かいい人に拾われてね」


『クゥン』


そう言って立ち上がろうとしても、子犬は倫花の服にしがみついて離れないでいる。


「ちょっと!だめだって、だめなのっ、ねっ?」


子犬の目が潤んで倫花の心がキュンと痛くなる。


「つ、ついてこないでってばぁ!」 


『ワン!ワン!』


…そ、そりゃ犬好きだし、あたしだってできれば飼いたいけど、だけど一人暮らし用アパートでペット可のとこなんてほとんどないよ。

まだ卒業までこのアパートにあと2年は住むんだから、悪いけどいい人見つけてね。


子犬から逃げるようにして倫花は部屋に入った。


「さっ先輩にLINEしよっと…ってもう11時だから寝てるかなぁ。あ!LINEがきてる」


先輩:仕事今終わった。今日も疲れた〜。

  あ、土曜お前んちいくからな。


きゃっ!ようやく会えるよ~。


倫花:早くあいたい😞

   待ってるね♥


っと。


あ~あ、早くHしたいなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る