三頭犬、食い扶持を稼ぐ 幕間


「アカツキ殿」

 

 あ、ヤベ。


「もしかしてシズクさんの資金、用立てようなどと考えてはいませんか?」


 ばれる、怒られる。


「いや、けど冬華さんにはお世話になったし」


「ダメです」


 きっぱりと言われてしまった。


「聞く限りでは責任の範囲内のことです。それでは決してシズクさんのためになりません」


「け、けど」


「アカツキ殿」


「じゃ、じゃあ仕事、割のいい仕事の斡旋くらいなら」


「……ハァ。まあ、その位が妥当なところでしょう」


「そ、そうだろ」


「まさか、報酬に色を付けたりするつもりはありませんよね?」


 ギ、ギク。


「……そんなこと、するわけ」


「姪にお小遣いをあげたがる叔父ですか!全く。そもそも、あなたという人は」


 その時だった、入口のベルが一際大きな音を立てて来客を知らせる。

 

 俺はこれ幸いにと、声を上げた。


「あ、らっしゃーい!って、あれ?」


「店主殿」


 常連と言えば常連の。

 けど、アポなしでというのは珍しい、そういうお客だった。


「いつもの?なら、今日は入ってないよ。来週くらいにでもまた」


「いや、今日は別件だ」


 すっと、学園の紋入りの依頼書をカウンターに置く。


「学園からの緊急の要請に、伝令として来た。これを」


「うん?どれどれ」


 読んで、瞬間。

 顔から、冷や汗が流れたのが分かる。


「……やばい」


「どうしたのですか?」


「山から魔獣の群れが下りてきてるらしい」


「まさか!」


「警戒レベル引き上げの地域に、あの森も入ってる」


 注意喚起を含んだ報告書には、森の警戒レベルを一時的に引き上げるとともに、森でのクエストを一時的に制限するとの情報が。


「……いつもの採取依頼の受注後か、間の悪い。だが、あの二人なら問題はないだろう」


「ち、違うんだ」

 

 なんで、よりによって今日みたいな日に。


「今日は、別の、なりたての冒険者の子に」


「なんだと」


「ど、どうしよう」


「アカツキ様、私が!」


「いや、お前は足が。けど、俺も店からは出られないし」


「……緊急か」


「あ、ああ」


「では依頼という扱いにしておいてくれ」


「お、おう?」


「この中では、間違いなく俺が一番速い」


 そう言うと、彼はきゅっと戦闘用の黒い手甲を嵌め直し。

 邪魔になりそうな荷物を全て、床に置いた。

 

「俺が行く」

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