ドッグRun!Run!!Run!!! 終章


「本当に、色んなこと」


 初めて足を踏み入れた生徒会室。

 そこであたしは、会長さんになるべく丁寧に頭をさげる。


「ありがとうございました」


「ふふ」


 この人のおかげで、あたしはみんなを守れた。

 それに最後に助けてくれたのも会長さんだった(らしい)。

 どれだけお礼を言っても言い足りない。


「決闘のことも、その後のことも、……その前のことも、全部」


「ふふ、そうかしこまらないでください」


 会長さんは、そんなあたしのことを優しい目で見ていた。


わたくしとシズクさんの仲ではありませんか」


「けど、会長さんがいなかったら、あたしはこの子たちを守れなかったと思います。ううん」


 あたしはしゃがんで、順々にみんなの頭を撫でていく。


「多分、戦いの場に行くことも、出来なかったから」


 こうして、みんなと一緒に居られるのは。


「だから、ありがとうなんです」


 会長さんのおかげだから。


「そうですか」


 やっぱり会長さんは、どこか優しい目で。

 ゆっくりとした仕草で、パン、と一度手を叩くと。


「では、こちらを」

 

 ドン☆


「……は?」


 机の上に現れる、大量の、書類。


「その子たちを使い魔にするにあたって必要な書類と」

 

 真っ赤な字がいっぱい載った。


「その他諸々、必要経費の請求書です」


 まあ、そういうの。


「……うん?」


「まずは学舎での使い魔に関する登録証に、その発行のための登録料。それと、学園の使い魔専用の設備を使うための使用料に、今後のエサ代。ああ、使い魔が魔獣の場合には別途料金がかかるので、そちらも上乗せで」


「あ、あはは、あはは」


 その書類の山を、そして請求書の金額を見て、あたしの顔ははっきりと引き攣りを起こしていた。


「うふふ」


「あはは、あはは、あは」


「笑ってもごまかされませんよ?」


「……やっぱり?」


 作戦その一、笑ってやり過ごす、失敗。


「えっと、いや、その」


「ま・さ・か。嫌とは申しませんよね?全部承知の上で、その子達の面倒を見るって、仰ったんですよね?」


「いや、その、それは、そうかも、知れないん、ですけど」


「うふふ」


 真っ赤かな数字を眺めて、桁を数えて、頭を抱えながら、それでも。


「ま、まあ、このくらいなら、あの、学園で週五日もバイトすれば、なんとか」


 現実を見て、なんとか自分を保とうとして。


「そ・れ・か・ら」


 ドン☆


「こちらが持ち主が決まるまでと保留にしていたその子たちの治療費諸々です」


「…………」


 作戦その二、現実を受け止める、失敗。 


「こ、これくらいなら、まだ!今後の放課後の自由時間を全部バイトに充てれば、まだ!」


 自らを奮い立たせるみたいに、無茶を口にして。


「そして、それが」


 ドン☆ドン☆ドン☆


「三頭分♪」


「え」


 机いっぱいに積み上げられた、請求書の束に。


「ええええーーーー!!!」


 その衝撃に耐えられなかったあたしの絶叫が、生徒会室に響き渡るのだった。

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