ドッグRun!Run!!Run!!! 幕間2


「まさかあなたが介入してくるなんて」


 必要以上に怯えることは悪手だとしても。


「思いもよりませんでしたよ」


 なるべく慎重に言葉を選んだ。

 吹けば飛ぶ、なんて表現は好きじゃないけど、今の僕はまさにそういう立場にいるはずだった。


「お噂は、かねがね聞いていたんですけどね」


「ふふふ」


 その女は、声や口元では笑ってはいても、目だけは違う。

 まるで、僕を品定めするかのような傲慢な、というよりも圧倒的な上位者の瞳。


(気に食わないな)


 まるで女王への謁見のようだ。

 しかし、無礼な態度は論外だとしても、ここで下手にへりくだってもいけない。

 足りずは切られ、過度なら舐められ。

 あくまで、上級生と下級生の壁を逸脱しない程度がこの場では望ましい。


「噂、というのは」


 ひとまず、会話の権利は得たらしい。

 安堵すべきかどうかは、まだこの先次第か。


わたくしが何でも欲しがる強欲だとか、ですか?」


「……まさか。僕が聞いた噂は、商売がお上手で可憐な方だということくらいですよ」


「なるほど。わたくし自身、少々コレクター気質であることは否定できませんので、それも仕方のない、他愛ない尾ひれのついたささやかなお噂ですわね」


 嘘をつけ。

 彼女の収集癖は貴族の間でも有名だ。

 使えるものは何であれ、魔道具から調度品まで手当たり次第といった体で欲しがる強欲の淑女。

 それがこの学園を牛耳る女狐の噂だ。


「あんな珍しい魔獣なのに、僕以外に誰も手を挙げなかったのはあなたの差し金ですか」


「まさか。入学したての一年生から、決闘で取り上げるなんて外聞の悪い真似を上級生が取りたがらなかっただけですわ」


「あなたなら、気にしなさそうですけど」


「ええ、学園生の悪評など今更気になどしませんよ。けれど、今回は好奇心が勝ちました」


「……僕は当て馬ってわけか」


「まさかまさか、あの高名なる『マギアス』の魔術師にそのような恐れ多い」


 強烈な嫌味だ。


「つまり。あの魔獣、本当に僕が勝ったら掻っ攫って行っても構わないということですね」


「ええ、もちろん」


「ならやってやりますよ」


 この女の掌で踊ることになろうとも。

 これが、僕の実力を示す絶好の機会であることに変わりはない。


「期待していますわ」


 そう言って、闘技場の使用、約定の書類、その他もろもろ決闘のために必要な書類一式に生徒会の判が押される。


「ご武運を」


「ええ、ありがとうございます」


 これで、決闘は正式に受理された。

 

「では、決闘の審判はお願いしますよ。生徒会長さん」


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