第4話 緊急レポート「間接実験(かんせつ……?)」

 ゲームショップの帰り道。


 タリーズでシェイクを買ったぼく達だったけど「道端で食べながら歩くのはちょっと行儀が悪いかな……」とぼくの一言で、近所の公園のベンチでシェイクを飲むことにした。


「ね、澤井は何味にしたん?ウチはチョコ~」


「抹茶」


「しぶ~い!おっとなー!」


「んじゃ……ほい」


「サンキュ」


 紙袋から取り出したシェイクにストローを差して手渡した。


「そいじゃ、今日も一日おつかれ~!かんぱーい!」


「かんぱーいって、おっさんぽいな」


「だまれし!いただきまーす」


「まーす」


 と一口、飲んだ。


 …………チョコだこれ!!!!やっちまった!


 カップにチョコって書いてあるし!!!!


「あ、これ抹茶だ」


「ご、ごめん!渡すの間違えた!ど、どうしよう。代わりの急いで買ってくる!」


「だいじょぶじょぶ!どうせシェアしようと思ってたからこのまま交換しよ」


「え、でもぼく口付けちゃったし」


「ウチは気にしないよ?」


「……な、なら」


「はい、こーかん!抹茶も意外とおいしいね!チョコどうだった?」


「あ、えと、甘かったかな?」


「全部甘いしwウケるw」


「それな……」


 ……加藤さんから手渡されたカップに視線を落とす。


 吸い口にピンクのが付いてる……口紅???いや、口紅じゃなくてリップってのもなんかいろいろあるって聞いたことがある。なんだっけ?グロス?ティ……なんだっけ?


「飲まないの?」


 そう言われてめっちゃテンパって混乱してるってことを自覚した。


「溶けちゃうよ?」


「ハムっ……ジュ……」


「……おいしい?」


「おいしい」


「だよね!でもウチはやっぱチョコかな~」


「さ、さよか」


 加藤さんに視線を見上げると、なんという事もなく自然にストローを咥えていた。


 遠くを見つめる加藤さんの視線が、すごく、大人に見えた。


 間接……くらいで慌ててる自分が、子供みたいだ。


 抹茶の味なんて、分からなかった。


 甘くて苦い気持ちでおなか一杯になっていたから。


「あっ!!!」


「え、なに!?」


「ウチ、ちょっと用事思い出したんだった!あーやば、忘れてた!」


「え!?仕事の事?」


「え、あ、うん!そうそう、お仕事!明日のお仕事で準備あって……」


「じゃ、じゃあ急いで帰らなきゃ」


「いいよいいよ!澤井はゆっくりしていって!ウチが急いで帰るから!」


「い、いや俺もゲームしたいから帰る」


「大丈夫!!!だ・い・じょ・う・ぶ!!ね!わかった!?」


「あ、はい」


 叫んだせいで真っ赤になった顔で叫ぶ加藤さんの迫力にぼくは押し負けた。


「それじゃまた明日!朝八時ね!バイバイ!」


「あ、うん」


 ……行っちゃった。


 だいぶ日が傾いて涼しくなった風が頬を撫でて、ぼくは自分の頬が真っ赤に染まっていたことを自覚した。


「顔あっつ……シェイク飲んだのに」


 ためらいながら口を付けたシェイクは、もうドロドロに溶けていた。


「あま……」


「せーちゃーん!」


 一人で公園で黄昏ていると、楠木が手を振って近づいてきた。


「やっぱせーちゃんか!どうしたん、こんなとこで?」


「え、あ、たっちゃん……部活は?」


「終わった~。今日もバッチリ決めてやったぜ!」


「さすたつ!」


「で、今日はどしたん?」


「あ、いや、ゲーム買ってきた」


「おお!テストのご褒美?」


「それ。DSS2」


「おー!俺も買ったぜ!ラスボスはー」


「おい、ネタバレすんな!処すぞ!」


「ウソウソじょーだん!夏休みなったら時間合わせてマルチしようず!」


「喜んでー!」


 さすが、たっちゃんはぼくの癒しだ。


 手にしたシェイクがどろどろに溶けてるのもかまわず、ぼくはストローに口を付けた。


「で、加藤氏となんかあったん?」


「ぶーーーーーーっ!!!!」


「うわ、きったね!」


「ゲホゲホゲホゲホ、ウェッフ、エッフ、エフ」


「お、勇次郎?」


「あほか!」


「やー部活終わったらなんか噂流れててさ。せーちゃんと加藤氏が付き合い始めたとか、せーちゃんが加藤氏を無理やり手籠めにしたとか、せーちゃんが俺から乗り換えて浮気しとるとか」


「最後のは聞きとうなかった……」


「いや~学校ヒエラルキーの最頂点の加藤氏と最底辺が接触するって、格好の噂の的じゃん。俺らみたいな最底辺には最底辺の生き方ってもんがあるじゃろ?」


「おいマテ、お前はヒエラルキースタメンじゃないか殺すぞ」


 たっちゃんレベルのイケメンになるとオタク要素もスパイスでしかない。


 ※ただしイケメンに限るってやつだ。


「マジ殺気やめろしwそもそも俺は幼女と声優にしか興味ないよ」


「そうだったな。お前はそういうやつだったよ」げんなりだ。


「で、ホントのところは?」


「勉強教えてるだけだよ」


「マ?」


「マ」


「ふ~ん、まぁいいけど、ちょっと気を付けたほうがいいかもな」


「数日もすれば噂なんて消えるだろ。夏休みも近いし」


「だったらいいけど」


「……ちょっと考えてみるよ」


「それがいい。んじゃ、俺もゲームやりたくなったから帰るわ」


「接待オナシャス」


「逝ってこい」


 たっちゃんと笑いながら別れた。


 あー手がベッタベタになってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る