第2話「登校実験(いっしょにがっこう)」

 翌日の朝。


 登校しようと家を出たら、玄関先に加藤さんが立っていた。


「澤井おはー!」


「お、おはよう。え、なんで?」


「澤井さー、ウチのLINE登録してないでしょ。今しよ?」


 携帯を取り出しながら駆け寄ってくる加藤さん。


「へぇ!?↑」変な裏声出た。


「レポートは書いたの?いま見して!」


「え?スマホ?レポートどっち?」


「どっちも!ほれ、はよ!」


「あ、はい」


 とりあえずお互いにスマホを出して登録しあう。


「これでいいかな?」


「……」


「加藤さん?」


「あ、うん。おけおけ!あとレポート出して」


「レポートってかさ、これって交換にっ」


「レポート!レポートだから!」


「ソウデスネ」


 カバンの中から実験レポートを取り出す。今日も朝から暑いせいか、加藤さんの顔が赤らんでいる。体調大丈夫かな?


 とりあえず昨日、書いてみたけど……


「えーとナニナニ?突然の告白に頭が真っ白になった。次に疑問・ぎ~ぎ~」


「疑惑」


「ギワクが沸いて、何かのイタズラかドッキリかと思った。実験というなら、ちゃんと事前に教えておいてほしい。だって!感想文かよ!」


「か、感想以外書くことないし」


「それなー!いきなり言われても迷惑なだけだよね~。ウチもいきなり知らん男子から告られても怖いだけだし」


「え、怖いの?」


「そりゃ怖いよ。人気のないところに呼び出されて男子と二人きりっしょ?何されるかわからんし」


「あー、ね」


「……澤井はさ、ウチから告白されてどう思った?」


「ドッキリかなんかかと思った。てか書いてあるでしょ」


「それな!よし、ガッコいこ!」


「え!?一緒に?」


「そだよ。そのために待ってたし。これもジッケンだし!」


「……あ!!!」


「どした?急にデカい声出して」


「なんでぼくの家知ってるの!?」


「え……秘密」


 秘密って何……こわ。クラスの誰かからぼくの住所聞いたのかな。


「誠一!あんたいつまで玄関先で話してるの!遅刻するわよ!」


「ご、ごめん母さん!いま出るから」


 玄関先でグダグダ話してたから母さんが出てきた!ヤバい!


「あ!おばさん!おはようございます!」


「……え!?誠一の彼女!?」


 ああああああああ!やっぱりそういう展開になったー!


「アタシ、加藤です!加藤晶!」


「あらあらご丁寧に……晶ちゃん?」


「すぐ出るから!彼女じゃないから!ほら、早く学校いこう加藤さん!」


 玄関先でペコペコ始めた加藤さんの手を引いて門をくぐる。


「ちょと、早いて!手イタイから!」


「あ、ご、ごめん」


「いいよいいよ。まだ時間あるし、ゆっくりいこ」


「あ、うん」


 引いていた加藤さんの手を放して、二人並んで歩きだす。


 加藤晶。日本一かどうかは知らないけど、県内で一番の美少女……だと思う。そんな彼女は身長百七十センチくらいあって、身長百五十五センチ(四捨五入して百六十センチ!)のぼくと並んで歩くと少し気後れしてしまう。


 彼女は現在モデルとして活躍していて、以前は子役として活躍していたらしいけど身長が伸びてからは子役の仕事が減ったと小耳に挟んだことがある。


 芸名は確か……藤沢あきら、だったかな。


「ね、澤井!澤井ってば!……せーいちくん」


「え、あ、何!?」


「えっと、な、なにぼーっとしてんの!歩くの遅くなってんよ?」


「ごめん、考え事してた」


「もー!集中!集中してよ!実験中なんだから!」


「はいはい」


 実験か……とりあえず付き合ってやるか。


「そいえば昨日、ウチのLINE登録しないで何してたん?」


「レポート。実験レポート考えてた」


「え?」


「レポートって言うからずっと考えてた。……でも全然思いつかなくて、結局感想文にしかならなかった。何書いたら良いか分からなかったし」


「そ、そうだよね。じゃあ今日はウチがレポート書くからさ、明日の朝渡すね」


「明日の朝って……明日もウチに来るの?」


「ダメ?」


「ダ、ダメじゃないが……通学路から外れてない?」


「ダイジョブ!ちょこっとだけ迂回するだけだし、方向同じだし!」


「そか……でもまぁ、来るなら8時くらいに来るといいかもな。今朝、だいぶ待ったんじゃないの?」


「え!ぜ、ぜんぜん!全然待ってないから!三十分くらいだから!」


「待ってるじゃん……今暑いんだし、熱中症になられても困るからさ。ぼくが8時に出てこなかったら待たないで先行ってていいから」


「……(そーゆーとこだぞ)」


「え、なんか言った?」


「べつに!ほら、早くいかないと遅刻するよ!!」


 いきなり駆け出す加藤さん。


 ぼくは慌てて追いかける。


「ゆっくり行こうっていったのそっちだろ!」


「……」


「ちょ、まって……足の長さ違う!はえー!」


「運動不足なんじゃないの!ほれほれ!はやくー!」


 ぜぇぜぇとすぐに息が上がってしまうぼくと違って、加藤さんはスタスタと先を駆けていった。


 え、なにこれ。


 ぼくもしかして、セーシュンしてるのん?

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