【第58話】読めない行動と思惑
かなりの人数だが、個々はそこまで強くない。それに、集団戦闘にも慣れていないのか、連携が取れていない気がする。
「これが本当に人族の兵士か?」
向かってくる兵士の攻撃を躱しながら、的確に銃弾を撃ち込んでいく。上からは止む事中エルフたちの矢が降り注ぎ、着々と敵兵の数を減らしていった。
たが、ガープの姿が依然として見当たらない、どこかに紛れてこちらの隙を伺っているような気がしてならない。私は乱戦中に、クベアと背中合わせになる。
「ここは私が耐えます、ゴープの位置を探ってくれませんか」
「分かったっす」
私は弾倉を入れ替え、その場で回転し周囲に弾を放ち敵兵を撃ち倒していく。出来るだけ目立つように、ド派手に動きながら。
次第に、私とセーレン、ファーネに敵はいいが集中していく。セーレンは人族の隙間を踊り歩くように斬り伏せながら、縦横無尽に動き回っていた、ファーネは豪快にも大剣を振り回して暴れ回る。
後は、クベアがゴープの居場所を探ってくれさえいいが、この場において奴だけが脅威になるだろう。
暫くの間、特に大きな動きもなく戦闘行為が続いた。
敵兵も目に見えて分かるぐらいには減っていた、おかしい、そろそろクベアが見つけててもおかしくない筈だが、未だに見つけた様子がない。
「ナディ、おかしいぞ奴がいない」
背後に現れたクベアはそう話す。
「いないって、この場にいないって事ですか?」
「うん、走り回って確認したけどいない」
一体どういう事だ、クベアでも見つからないほどの潜伏能力を持っていると言う事なのか。いや、森の中ではあるまいしこの砂漠地帯でそれは無いだろう。
そうこうしているうちに、敵兵の数はかなり減らす事ができ脅威では無くなっていた。最後の数人をそれぞれが討ち取る。
「終わり…ですか?」
「セーレン、どう思いますか?」
「呆気なさ過ぎますね、あのゴープとやらもですが」
「ええんちゃうの?僕らが強かったんやないの?」
いや、あまりにも何もなさ過ぎる。ゴープがいない以上このままでは終わらないとは思うが、それにしても意図が読めない。
「何が目的だ?」
「ナディ、もう一度全部確認してきたけど、ゴープはどこにもいなかったよ」
「ありがとうございますクベア」
その場でしばらく話し合ってみるが、奴が襲ってくる気配もなかった。何処かに息を潜めてこちらの隙を伺っているのかと思ったが、そうではなさそうだ。
私たちは、言い表せない違和感と共に街に戻る。
クベアと防壁の上にいるエルフたちには、暫く警戒を続けるように伝える。こんな時、天族の誰がいたのなら上から状況の確認と、警戒が行えたのだが。
あちらも無事に帰ってくる事を願うばかりだ、もしかしたら陽動だと思っていたあちらが本命かもしれないのだから。
そうして一夜が明ける。
相も変わらず何も起きなかった、朝日が昇ると同時に昨日の戦場へと足を運ぶが特に変わった様子もない、敵兵の身ぐるみは全部剥いで、死体は全て燃やしておいた。その際にも、異常は見られなかった。
エルフたちに話を聞いて回るが、一晩経っても異常らしい異常は見られないそうだ、ゴーレムも特に動きがない。
なんなんだこれは、一体何が起こっている。
考えても情報が足りなさすぎる、ここで自身の過ちを痛感する、もっと敵の情報を探るべきだった。
「ナディ、ちょっと来て!」
クベアに呼ばれて私は呼ばれた方に向かって走り出す、どうやらコハク達が戻って来たらしい。話を聞けば何か分かるかもしれない。
そこには、ここを出発した時よりかなり多い天族の群れが、こちらに向かって飛んできていた。
「多いですね、もしかして……」
飛び方も不安的になっている長数人見て取れる、私はその場に集まっていた全員に声をかけて、包帯や清潔な水など、治療するためのものを集めさせる。
そうして、コハク達が街の中に降り立つ。
「無事で何よりです、早速で申し訳ないのですが話を聞かせてもらえますか?」
「うむ、妾も聞きたい事がいくつかある」
そうして続々と天族が降り立つ、やはり負傷したものがかなりいた、私とコハクは話し合いをするためにこの場を一旦離れると告げる、シャナンとセーレンには治療の指示をとるようにと言い残していく。
「サクラ、戻ってきて早々すみませんが回復薬を持ち出して使ってください」
「かしこまりました、マスター・ナディ」
そうして、私はコハクを連れて研究所に入る。
落ち着いて情報のすり合わせと、状況の確認をする必要があったからだ。
互いに椅子に腰掛け、話を始める。
「さて、何があったのか聞かせてください」
「うむ妾たちが天族の村に到着した直後じゃ…」
既に人族との戦闘は激化しており、互いに一進一退の攻防が続いている状態だったと。そうして、目を疑ったのが、崖の上に立っていたはずの村が無くなっていたことだ。
「無くなったとは?」
「言葉の通り、無くなっていたのじゃ、崖を崩しての」
人族がいつも通り光の中から現れた直後、方法は不明だが崖が崩れ始めたと。天族の一人が言うには、たった一人でそれを成したと話していたそうだ。
「あそこの崖は、中々の高さだったと記憶していますが」
「妾もこの目で見ないと信じれんじゃろうな」
「つまり、崩壊に巻き込まれたと同時に、攻め込まれやすくなった村が落とされたと」
「うむ、その通りじゃ」
俄かに信じがたいが、嘘は言ってないのだろう。それにしても、やはりこちらが本命だったか。だとしたら私達の方は陽動か?それにしては、あまり効果が出なかったような気がするが。
そここらは、コハクとサクラも戦闘に加わり刀を振るったそうだが、その崖を崩したと呼ばれる人物は見当たらなかったらしい、残っていたのは普通の兵士のみで問題なく退ける事が出来たそうだ。
そこだけ聞くと、私たちのところと同じに聞こえる。
なら、あのゴープとやらも何かの改革に則ってこちらに攻め込み、何かをした後に去る想定だったのだろうか、それが失敗したので何も分からずに、あの状態が残っただけだと。
コハクが話し終えると、私たちに起こった事もそのまま伝える。
「奇妙じゃの、人族の思惑が見えんな」
「はい、そちらは明確に天族を潰しに来たのかと思えば、向けられた戦力は初めの崖を崩した人物を残して、そこまでのものでは無かったですしね」
「うむ、何が目的じゃ?そのまま攻め潰すつもりならもっと戦力をつぎ込むじゃろうに」
「もっと何か他に目的が?」
「いや、分からんの…今のままでは」
「ですよね」
コハクの話で少しは話が見えてくるかと思ったが、さらなる謎を残す結果となった。
話が終わった私とコハクは、天族の様子を見にいく事にする、全員運び終えた後だったようで、そちらに案内してもらう。
サクラの回復薬と、適切な処置のおかげでこちらに来た全員が、お正月大事には至らなかったそうだ。しばらく休んでおけば全員がものとの生活に戻れそうとの事。
私が全員を見回っていると、天族の王ガスールが挨拶に来た。
「この度は、我らをお救いいただき感謝の念が絶えません」
「いえ、お礼は私ではなくコハクたちに」
「構わぬよ、お互い様じゃ」
「それよりも村が無くなったと」
「はい、未だに信じられませんが人族の手によって落とされました」
「その瞬間を見た者は?」
すると、ガスールは首を横に振る。どうやら、崩落に巻き込まれて遺体を運び出す余裕もなかったそうだ。
同じく、ここに辿り着けなかった者が何人かいると。
「そうでしたか」
「つきましては、虫のいい話し方は存じますが」
「いいですよ、ここに住んでいただいて」
「へっ?」
「帰る村が無くなったのでしょう?それならここにいてください、またどこかに村を構えたいのであれば止めはしませんので、ご自由に」
そう告げると、涙を流しながら何度も感謝を伝えてくる、その場にいた天族全員が頭を下げながら。
「また家を建てる必要がありますね…」
「そんな場所あるかの?」
「いえ、私たちはそこまでして頂くわけには…」
「各家を上に増築させます」
そう、土地がないのであれば上に作っていけば良い。幸いな事に天族は空を飛べる、そこを利用して上から出入りしてもらえるように作っていけば問題ないだろう、それに建物が高くなればその分周囲の警戒や、射線が通りやすくなるだろう。
その分、向こうからの攻撃が通らないように考えないといけないが。
さて、また忙しくなりそうだ。
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