【第56話】嵐の宝玉
私はサクラと共に、ダイアタイトを持ち帰りそのまま研究所へと戻っていた、
三人が研究所に集まると、早速錬金に取り掛かる。
風龍の鱗とダイアタイトを机の上に用意し、まずは私が錬成を行う事にする。素材の理解は済んでいるので、後は互いの力を抽出し、丸い玉のような宝玉へと精製していくだけだ。
私は二つの素材に手をかざし、力を込める。人工魔心のおかげか、前までは出来なかった錬金術が使えるようになったのはありがたい、おかげさまでこの体や武器などを造り出す事が出来たのだから。
私は力を注ぎ続け、この二つの素材の形を崩していく、そうする事によって互いに混ざり合うように持っていくのだ。崩すまでは順調、次は互いに混ぜ合い必要な部分だけ抽出していく。
ただ、混ぜ合う工程で互いに反発し合い、崩したはずの素材がお互いに元に戻ってしまった。
「なっ、これは……一筋縄ではいかなそうですね」
「マスター・ナディ、私が試してもよろしいでしょうか」
そういいながらサクラと交代する。サクラも同じ手順で連載を始めるが、やはり上手くいかない。同じく反発し合い元の形へと戻る。
「これは、中々素直じゃないですね」
「何か足りないものでもあるのでしょうか」
ジャスティスをこの場に呼び、もう一度話を聞く事にする。ただ、何も変わらなかった。
製法は錬金術を用いる事しか伝わっておらず、素材に関しても問題ないはずだと。
そこから数回試してはみるが上手くいかない、原因がわからないまま時間だけが過ぎていく。
暫く考えていると、一つの案が思い浮かぶ。
「サクラ、二人同時にやってみませんか?」
「同時…ですか?」
「はい、私が鱗を、サクラがダイアタイトをそれぞれ担い、二人で混ぜ合わせるのです」
サクラはしばらく考え込み、試してみるとの事。
そうして、私とサクラの共同作業が始まる。
それぞれ素材の前に立ち、手をかざし力を込め初めていく、互いに崩すところまでは上手く行った。あとは、ここから混ぜ合わせるだけだ。
「いきますよ、サクラ」
「はい、マスター・ナディ」
そうして、二人の意識は崩れた素材に移っていく。互いに動きを見せながら、小さな渦を巻き混ざり合っていく、混ざり合う素材は反発される気配がない、成功したのか。
「これは……」
サクラも異変を感じたようだ、私も同じく感じた。
すると、順調に見えていた素材同士がが、少しずつ反発し始めていたのだ、互いに力を包むように流し込むが、抑えきれなくなってきている。
「マスター・ナディ、このままでは…」
そう、ここまで作業が進んで失敗すると、希少な素材に影響を及ぼしかねない。一体ここからどうしたら。
「クベアっ!風です、力を同じような漢字で流してください!!」
「ええっ!?錬金術なんてやった事…」
「錬金術ではなく、風です!風の原素の力をここに送り込んでください!!」
クベアは慌てながらも、近くまで寄って手をかざす。
渦を巻いていた素材に風を送り込み始める、ただの風では無く、魔力の込められた風だ、これならもしかすると。
私の考えは正しかったようだ、先程までの反発は次第におとなしくなっていった。ただ、細い糸の上を歩いているような感覚は続いている、力の操作を一つ間違えただけで全てが崩れそうな。
三人は互いに声をかけ合いながら、力の調節を行い渦を加速させていく。
見事に混ざり合った事を確認して、不純物を取り除いていく。吐き出された不純物は、渦の下に一つの塊となって落ちてきた。
「サクラ、クベア…仕上げです」
「はい」
「あい」
私とサクラで押し固めていく、クベアの流す風を宝玉の中へ閉じ込めるように、ゆっくりと確実に。
最後まで気を緩める事なく、形が作られていく。
すると、突然光を出しながら中心から私たちに向かって爆発的な突風が吹いた。私たちは堪えきれずに、その風に押される形で、部屋の壁に叩きつけられる。
「サクラ!クベア!大丈夫ですかっ!?」
失敗したのだろうか、二人も起き上がっていたので問題は無さそうだ。ただ、あそこまで形作って失敗したとなると、素材も無駄になったかもしれない。
粉々に崩れた机を見ながら、素材の確認のため近づいていくと。
「これは…もしかして」
机の破片の下からは、美しい翡翠色の宝玉が顔を出していた、形作られたそれは成功したようにも見える。
「サクラ、クベア…これを見てください」
私はその宝玉を手に取り、サクラに見せる。
「マスター・ナディ、成功ですね」
「うわーっ、凄いっすねこれ、風龍の力を凝縮したような存在感を感じるっす」
「上手くいって良かったたです」
後はこれを台座にはめて、力を発動するだけだ。クベア曰く、中には風の力が流れているそうなので、このまま使えるかもしれないとの事だった。あの時、風の力を送り込む事で、馴染ませる事と風の供給を同時に行えたのだろう。
私たちは早速、研究所を出て街の中心に向かう。台座に関してはファーネに依頼をして設置してもらっていた。宝玉の大きさが分からなかったので、最後の仕上げは目の前でやってもらう。
台座の出来上がりを暫く待っていると、街の住人たちが全員集まっていた。
「おや、何かやるんかの?」
「あ、コハク。これから新たな防衛設備を発動させるので皆が集まりました」
そうして皆に説明と話をしていると、ファーネが台座を完成させた。
「はい、お待たせ」
「すみません、ありがとうございます」
「ええよええよ、これでまた一つ街が強固なものになるんならな」
私は、出来上がった台座に宝玉を置く。次はクベアに宝玉の力を発動してもらう。
クベアが台座に近づき、宝玉に手をかざす。すると、街の外で突風が吐き始めたのが確認できた、その風は次第に街の周りを周り初め、大きくなっていく。
「クベア、異常はありませんか?」
「はい、大丈夫っす!」
クベアの言う通り、大きな問題もなさそうだ。渦巻く風は形を成し、スタンドレスを大きく囲むドーム型に形を留めていた。
「これが、風龍の言っていた防衛ですか」
以前にも感じたが、嵐の中心は静かでおとなしい。周りを吐き回る風は何ものも寄せ付けず、近付いた物を弾き返すか、嵐の中へと巻き込まれた者はその命を無事では済まさないだろう。
「凄いのこれは…」
「はい、私たちを守る嵐の壁と言えるでしょう」
「マスター・ナディ、さすがです」
「いえいえ、クベアもお疲れ様です」
「大丈夫っすよ!」
「これが、親父が言っていた言い伝えの力か…」
あの宝玉は、まさに【嵐の宝玉】と言えるだろう。もしかしたら、地龍の鱗も同じようにすれば、また新たな防衛もして役に立てる事が出来るのではないか。
ただ、今はこれでひと段落としよう。これが、本当に私たちに牙を向かないとも言えないからだ、扱いきれない力は我が身を滅ぼしかねない。
そこから、この嵐の壁についていくつか検証していく。内側にいる私たちにとって、何の被害もない事は確認済み、とても静かで穏やかなものだった。
「これって外に出れるんですかね、出たとしても入れないんじゃ?」
シャナンの何気ない一言に試してみる事にする、嵐の壁の近くまでより、その壁に向かって内側から拳銃を撃ち込むと弾かれる、続けて大砲も放つが同じく弾かれて外に出る事はない。
「私たちは出れなくなるみたいですね」
クベアにもう一度お願いして、嵐の力を弱めてもらう。この力は発動したり、解除したりを自在に扱えるらしい、ジャスティスも風の原素との事なので代わりにお願いすると、同じ結果だった。
そうして、私とゴーレムが外に出た事を確認しもらい、もう一度嵐の壁を発動してもらう。先ほどの内側と同じ結果で、外からは何も受け付けなかった。それどころか、近づく事さえ困難になっていた。
暫くして、嵐の壁を解除してもらい街の中に入る。
検証と実験は全て終え、全員があっている前で最後のすり合わせを行っていく。
発動まで少しの時間はあるものの、一度発動してしまえば外からはもちろん、中からも何も出来なくなる。
本気の攻撃にどこまで耐えれるかは不明だが、ある程度の攻撃は耐えれる事が出来る。
使い所を謝れば、たちまち窮地に追いやられそうだ。
これから、使う判断は私に委ねられた。発動の際には風の原素を持つ者であれば、誰でも問題なく発動させる事が出来る。
これでまた、この街が安全なものとなった。
今の所、人族の動きは確認できていない、コハク曰く他の種族からも話は入ってきていないそうだ。
ありがたい話で、こちらの準備を進めていける。
ただし、向こうも同じだろうが。
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