三章 〜宝玉と魔王心〜
【第55話】風龍の鱗について
天族の村に行ってから数日、コハクはここに残りながらクベアやサクラの特訓に付き合ってくれていた。
コハクも、いい運動になると喜んでいたが。
街の方も、すっかり間違えるようになっていた。立派な戸建てが立ち並び、店なども出来上がっていた。防壁は人族の国を真似て二重に配置し、その上には大砲を設置していた。壁門にもアイアンゴーレムをそれぞれ配置し、街の防衛に当たらせていた。
中心地には研究所や、住居など。門と門の間には訓練場や、狩猟小屋に採取小屋など門の外に出る事の多い施設を配置した。
さらに街の外側には堀を掘って簡単に侵入できないようにした、街に入るには橋を降ろす必要がある。
そして、共に街に来てくれた天族には、空からの警戒をお願いしている、自由に飛び回れる彼らにとっては適任だった。
私は、ある話を聞くために天族の一人を呼んだ。彼の名は【ジャスティス】。なんともまぁ、正義感溢れる名だが、天族の王、ガスールの息子だ。彼は転属の代表としてこの街に移住してくれた。
「ナディさん、只今参りました」
「ありがとうございます、この街には慣れましたか?」
「はい、おかげさまで皆様に良くしてもらい、天族一同、空の任も問題なく過ごしております」
私はこの街の長となる位置にある、王と呼ばれるにはいささか気がひけるが、皆の期待に応えれるように頑張っているつもりだ。
「それで、話というのは?」
「はい、ガスール王から話のあった風龍の鱗の使い方についてです」
「あぁ、それなら親父から話を預かってました」
曰く、風龍の話の通り、この鱗を上手く利用できればこの街を守る防衛として、大いなる力となるそう。
その方法が今は失われた錬金術を用いると。ここまでは、風龍から話も聞いていたので、知っていた。
「では、その錬金術を使った方法なんですが、【宝玉】へと形を変える事だそうです」
「宝玉…ですか?」
「はい、この地に存在する【ダイアタイト】という鉱石と、風龍の鱗を錬成し、丸い球体に形を整えるそうです」
「それだけですか?」
「いえ、それを台座に乗せ力を展開させると」
「そのエネルギー、力の源はどこから?」
「そのダイアタイトという鉱石が特殊でして、この世で一番硬く、魔力を中で循環させ続ける力があるらしいです」
「つまり、一度力を込めれば永遠に循環され、風龍の鱗の力が引き出され続けると?」
「いえ、半永久的にとは聞いています、何十年に一回は供給が必要そうで」
それでも十分だ、風流の鱗がモーターだとしたら、そのダイアタイトというのが数十年もつ大容量のバッテリーとなり、その間稼働させ続けてくれる事か。
鉱石と錬金術の事なら、サクラに聞くのが一番だ。
私は、ジャスティスにお礼を述べサクラの元へ向かう。
サクラは、回復薬の錬成や、私が依頼した合成素材などを作ってもらっていた。そのおかげで、化学繊維や、合金などの量産が可能となっていた。今は、私とサクラにしかできない技術だ。
何故か、他の人には錬金術が発動できなかった。
これもまた、解決したい謎の一つでもある。
「サクラ、ちょっといいですか?ダイアタイトといった鉱石に覚えはありませんか?」
「ダイアタイトですか、手持ちにはありませんがあの洞窟で稀に採れる事がありましたが」
「それがどうしても必要で、一緒に行きませんか?」
「かしこまりました、マスター・ナディ」
そうして私はサクラと一緒に、運搬用のゴーレムを引き連れていつもの採掘洞窟に向かった。
ここも通い慣れたもので、既に数人のエルフたちが採掘に出向いていた、彼らに挨拶をしながらサクラが案内する、洞窟の奥深くまで向かっていく。
過去に出た事のある場所を覚えているようなので、サクラの記憶を頼りに、奥へ奥へと進んでいく。
暫く歩いていくとエルフたちもいなくなり、私たちだけになっていた。
「もう少しで、目的地に到着します」
「かしこまりました、よろしくお願いします」
過去に採れただけなので、同じく出てくる可能性があるとは限らないとの事だった。それでも、その周辺から掘って行く方が効率がいいらしい。
目的の場所が近いらしい。
ただ、サクラの歩みが急に止まる。
「どうしました?」
「この奥なんですが、恐らく魔物が……」
「なるほど、どのような魔物が?」
すると、地面を擦る音がこちらに近づいてくる、どうやらこちらの存在が気づかれたらしい。サクラから魔物の正体を聞く前に、私たちの前にそれは現れた。
個体名は【
「名前と見た目の通り、全身が岩や鉱石で覆われているため、生半可な攻撃は通りません」
「なるほど、それにあまりにも威力のある攻撃は洞窟の崩落を招きそうですね」
「その通りです、ここは別れてそれぞれ最小最大の攻撃を浴びせていくしかありません、比較的隙間は通りやすいので」
そう言いながら、サクラは腰に携えいた刀を抜く。私は拳銃を二丁取り出し構える。
岩鉱蛇がこちらに接近してくると、私たちはそれを躱し後ろへと回り込む、そのまま洞窟の奥へと一気に駆け出す、後方を確認すると、しっかりと追いかけてきていた。
あのまま狭い通路で戦うよりかは、奥に広間があるそうなので、そこまで駆け込むようだ。
無事に広間に抜けると、振り返り岩鉱蛇を迎え討つ。
私は、拳銃を何度か発砲し隙間に当て続けるが、怯む気配がない。通りやすいとはいえ、威力が足りていないらしい。そのまま、勢いを落とす事なく顔を私に向けて、突撃させてきた。
私はそれを寸前で躱すも、大きく衝突し地面が抉れる。硬さもスピードも中々のものらしい、一度見つかった以上は逃がしてくれないだろう。
距離が近くなったので、もう一度近距離から何発か撃ち込むが、弾は弾かれているようだ。
「これは、撃ち続けるしかないですね、魔銃・
すると、岩鉱蛇の背後からサクラが忍び寄り、両手に構えた刀を岩と鉱石の隙間を狙って突き刺した。途端に身体から血を流し、顔がサクラの方へと向いた。
なるほど、薄い刃であれば通ると。
私は拳銃をしまい、両刀を構える。
ここらは、互いに意識が外れた方が隙間を狙って斬りつけていった。意識を向けられている時は、そのまま引きつけながら攻撃をいなす。
顔で突撃され,尻尾を振るわれ、口から岩のようなものを放たれても全て、互いに耐え続けた。
そうして暫くし、至る所から血を流し、動きが遅くなっていた。あんな見てくれをしてはいるが、奴も生き物、血を流しすぎているらしい。
いよいよ、その場に倒れ込み動かなくなった。
近くに寄って、目を確認するが動いていない。
完全に絶命したらしい。
「やりましたね、サクラ」
「はい、マスター・ナディ。この刀が無ければどうかなっていた事か」
「以前はどうしていたんですか?」
「前マスターが口の中に、火焔玉を放り込んで倒していました」
「内部から焼き尽くすと、なるほどですね」
「あ、私が口の中へ突撃すれば良かったですね」
「やめなさい」
そうして、岩鉱蛇の身体を確認していくと、いくつもの鉱石が見つかったのでこのまま全部を持って帰る事にする、ゴーレムを連れてきていて良かった。
「マスター・ナディ、あれを」
サクラが指差す方向には、地面から見た事の無い鉱石が飛び出していた。そのまま指差す方まで歩み寄っていく。
「もしかして、それが?」
「はい、これがダイアタイトです」
まさかこんなに早く見つかるとは、岩鉱蛇が暴れ回ってくれたおかげで、壁や地面が抉れて鉱石が剥き出しになったらしい、不幸中の幸いというやつだろうか。
大量の鉱石と、目的のダイアタイトを見つける事が出来たので、運搬用のゴーレムに命令し、街へと戻る事にする。
途中、エルフたちも驚いた表情を見せながら運搬を手伝ってくれた。思ったより上手く事が進んで良かったと思う、あとは街に帰って錬成するだけだ。
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