【第49話】エルフ族とのこれから
私は、横たわっているだけで何も出来ない。いよいよ体のほとんどを失ってしまったのだ。
思考は前と同じく違和感もない、人工魔心の中に私のAIが組み込まれたという事なのだろう、今のところはノイズがいる気配もない。
「サクラ、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか」
「今は一体何を?」
サクラとシャナンは、私の体を再生しようとしているらしい、今はなんとか頭と魔心を繋いでいるらしいが、それもいつまでもつか分からない状態だと。
「なるほどですね、すみません迷惑かけます」
「いえ、マスター・ナディの為ですから」
取り急ぎという事なので、手元を見ると木を削り出して、体のパーツを形成した物がいくつか見受けられた。それらの中に、以前の配線を通して行くのが見える、それにしても精巧に作られていたので、自由に体を動かすことは出来そうだ。
「そういえば、サクラの体は何で出来ているのですか?」
「私ですか?、私は錬金術によって作られた素材を使っており、前マスターはこの素材を【ガーボン】と名付けていました」
ガーボン?、何やらカーボンに響きが似ているが、似たような素材なのだろうか。ただ、今は時間と素材が足りてないので作れないとの事だった。
二人が作業をしている横で、私は何も出来ない。
なので、今後の計画を練って行く事にする、まずはエルフ族全員の受け入れ準備だろうか。聞いた話では、家屋は完全に焼き尽くされているような話ぶりだった、ここまで逃げているはずだからここで住むことになるだろう。
そうなると街の防衛強化だな、今は大砲と壁は設置している、出入り口にはアイアンゴーレムが警備にあたっている。あと出来ることがあるとすれば、見張り台の建築と街の周りに堀を掘る事、そして風龍の鱗による防衛策、同時に街の拡張も行いたい。
それに、個々の戦力強化も必要になる。
最後に私自身の強化、これは体が完成したら自身で合間を見てやっていこう。王燐になす術もなくやられたらしいので前のままでは、また壊される事になる。
やる事は山積みだな…。
そういえば、コハクの方はどうなっているだろうか。
音沙汰が無いので無事だとは思うが、それぞれの話し合いも済んでいるといいが。
「出来たよ、待たせたね!」
「マスター・ナディ、大変お待たせしました」
「シャナン、サクラありがとうございます」
完成したものを見ると、見事に人型に形成されていた、頭の部分はないのでそのまま移植するらしい、首から下は木でできていると、なんとも面白そうな見た目になりそうだ。
早速、人工魔心を取り出し、新しい体に移植する。
私の意識は一瞬だけ切り離され、次に目が覚めた時には完全に頭も含めて移植が完了されていた。
「違和感はあるかい?」
「いえ、流石です、問題なく動けます」
私はその場で飛び跳ねたり、殴るような動作を続けたりと全身の動きを確認する。指先に至るまで違和感や、問題は何もない、完璧だと伝える。
「ぶふっ、流石に変だねその体は…っ」
「やはりそうですか?」
「いえ、マスター・ナディは完璧です」
「とりあえず服でも着ておこうか、まだマシだと思うっ…よっ…ふふっ」
そう言われて、用意されていた服を着る。首から下は服で隠れるので、確かに不恰好では無くなった。この辺りは気にしないのだが、シャナンに笑われているのは、何故か嫌な気がした。
「さて、これからどうするの?」
「皆様と話し合いをしたいと思います、集めていただけますか?」
「じゃあ私が声かけてくるね」
そう言うとシャナンが部屋を出て行く、私とサクラも会議をする部屋へと向かい、待つ事にする。
暫くすると、シャナンが皆を連れて戻ってきた、流石に全員は入らなかったので、入らなかった人には窓の外や、扉の外で話を聞いてもらうことにする。
こちらから、話を切り出そうとしたが、セーレンが先に話があるとの事だった。
「ナディさん、無事に生きていたようで何よりです」
「いえ、シャナンとサクラのおかげです、皆さんも無事でなによりです」
「では、まずお話し合いの前に……この度は、一度ならず二度までも、我らエルフ族をお救いいただき、誠にありがとうございます」
「とんでもないです、皆さんが無事で何よりです」
「そして、こうして済む場所まで与えてくださり、我らエルフ族一同はあなたさまの元で、力になりたいと考えています」
これからは同盟ではなく、傘下に下りたいとの申し出だった、断る理由も特にはないが、理由を尋ねる。
「まずは、短期間でここまでの街を作り上げた事、そしてそれを指揮していたのがナディさんとの事だからです」
「いえ、大したことは…」
「だとしても、私たちは住む場所も失い追われる身となりました、そこを救っていただくのですから、恩には報いたいと考えています」
「かしこまりました、私からもよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
すると部屋の中や外から一斉に「お願いします」と全員が声を揃えて、頭も下げていた。これは、ありがたい事だが、同時にかなりの責任を背負う事になる。
頼まれたからには、やり遂げようと思う。
「では、私の話に戻してもよろしいでしょうか」
そうして、今後の計画を話して行く。街の強化や、個々の強化など具体的な案を交えながら。取り敢えずは、大きく建築チームと、開発チームに別れる事にした。建築チームにはセーレンが、開発チームにはシャナンがそれぞれ長を務めるようにお願いする。
今いるのは、エルフ族と、私、サクラのみだ。
この分け方であれば、効率的に動けるだろう。
建築チームは、街の拡張と堀、見張り台の建築、開発チームには、武器の製造、開発、重要な人手となるゴーレムの管理などを主にお願いしている。
サクラは巡回しながら、現場の把握と報告をお願いしている、クベアには数人を連れて警備担当として引き続き、街の周辺の警戒や戦闘訓練、そして資材の採取などをお願いした。
「皆さん、この場所がまたバレない保証はどこにもありません、いつバレるかも分かりません。なので、効率よく、迅速に作業のほどお願いします」
「「「「 はいっ!! 」」」」
そうして、今まで以上の作業が行われて行く。いつ攻められるのかも分からない以上、時間は限られている。私も、自身の強化と改造に着手して行く。
細かい打ち合わせも終わり、外は暗くなっていた。その場は解散し、それぞれの家へと戻って行く。
私も、自分の部屋に戻るとあの声が聞こえた。
[ よお、相棒 ]
「おや、あなたも生きていたんですね」
[ なんとかな、それにしても変な体だな ]
「誰のせいですかね?誰の」
[ ふはっ、これは厳しい事で ]
「なんだか声がクリアになりましたか?」
[ お陰様でな ]
どうやら、ノイズも生き延びていたようだ。以前と比べて普通に会話ができるようになっていた、何かプログラムの変化でもあったのだろうか?
「それで、何の用ですか?これからいそがしいのです」
[ そういうなよ、仲良く行こうぜ? ]
「あなたが普通なら、仲良くしても良いですよ」
[ それは無理な相談だ、俺には破壊プログラムがメインに置かれているからな ]
「だったら、仲良くは出来ません、この前は諦めがあったからですよ、今はそれが無くなりました」
[ 人工魔心だろう? ]
どうやらこちらの情報は筒抜けらしい、そのくせ以前に戦っていたらしい、王燐との戦闘記録は見れないようにされていますが。
「で?再度聞きますが、何の用ですか?」
[ 体の強化、俺にも噛ませろ ]
「お断りです、それでは」
[ おいおい、これから必要になるのは家事じゃなくて、破壊の部分だろう? ]
「だからなんです、データはあります」
[ それを我がこの世界に合わせて改良してやるって言ったんだよ ]
少しだけだが、一理ある。破壊用のプログラムから算出された、武器や装備ならこれからの戦闘面では大いに役立つ可能性はある。
だか、それは危ない橋でもある。
完全に信用したわけではない、前回は身内に危害を加えていなかったようなので信用しかけたが、こいつはただの破壊プログラム。いつ牙を向くか分からない。
しばらく考え……
「わかりました、採用するしないは私の判断になります、意見としては聞きましょう」
[ くっくっくっ、まぁいいだろう… ]
この判断が鬼と蛇、どちらを出される事になるか分からないが、今は話を聞く価値はあると判断した。
「そういえば、もう一つの人格はありますか?」
[ いや……ねぇな…しらねぇ ]
それを最後に、いくら話しかけても返答は無くなった、知らないと言っていたが信用しても良いのだろうか。まぁ、警戒しておく事に越したことはない。
サクラがそうであるように、もう一つの人格が呼び起こされるか可能性もあるのだ、果たしてそれがプログラムにどこまでの影響を及ぼすのか。
「そういえば、感情らしいものは感じませんね」
材料がサクラと異なるので、差が出たのだろうか。
まぁ、これからの経過を観察しながら判断しよう。
そうして、皆が寝静まった頃が私の活動時間になる、ここら自身の強化と改造を行い、王燐と再戦することになっても遅れをとるわけにはいかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます