【第48話】人工魔心の錬成

私は意識を深く沈めていた、もう浮かび上がる事はないだろうと覚悟も決まっていたからだ。

王燐に壊されればそれまで、仮に生き残ったとしてもこの体では限界を迎えていたと感じたからだ。


その証拠に、一日の活動限界が短くなっていることや、取り付けた腕や足のエネルギー消費量が今までより増大していたからだ。


伝えることは伝えきった、私の役目も一区切りついた頃だったりもしたので丁度良かったのだ。

まぁ、ノイズが暴走したら周りの人たちが、壊すならなんなりしていてくれただろう。


自壊しなかったのは、それほどに王燐のやっている事が許せなかったからだ。コハクも許してくれるだろう、最後に挨拶もできなかったのは許されないかもしれないが。


「あ、マスター・ナディ目覚めましたか?」


「…あれ、ここは……一体…」


「あぁ!ナディ、体を起こすなよ!」


目の前には、サクラとシャナンがいた。目の前というのも不思議な話だ、なぜ意識がある。

それに、体を起こすなとは一体どういう…。


辺りを見渡すと、私は研究所の中で横たわっているらしい、首は動かせるがそれ以外は感覚が無い。


「あの、一体何が…」


「サクラ、説明してやりな」


「はい」


私の近くに寄り、何があったか説明してくれた。




ナディとノイズが入れ替わってから、私ととシャナン、セーレンは残された二人と戦闘を繰り広げていました、一進一退の攻防が続き、膠着状態になった頃、森の奥から大木が倒れる音と、激しい戦闘音が響き渡っていた。


「サクラ!正気か!?」


「いつだって、まともだぜ!!」


「あぁーっ…!サクラ、ナディの元へ行ってくれんか!」


「イェア!!行くぜマスターー!!」


そうして、シャナンとセーレンはその場に残り、盾を持った男と、杖を持った少女を抑えてくれました。

私は音響く方へと向かって、駆け走りました。


すると、目の前に広がっていたのは胴体を真っ二つにされたマスター・ナディと、地面に伏せて悶えている奴がそこにはいました。


『ぐぁあああわぁぁあああああっ!!!』


「………」


『貴様ぁぁぁぁぁぁあああああっ!!』


さらに剣を振り下ろそうとしていたので、私は前に立ち塞がり剣を弾き返しました。その顔を見ると、片目が無くなっていたので恐らくはマスター・ナディが潰したのかと思われます。


『なんだテメェわぁぁぁあああっ!!』


「おーけーっ、お前はここで退場っ!」


《 火ノ荒波ファイア・ラフウェイブ 》


奴との間に、火の波を作り出し襲わせる。これで殺せるとは思わないが、引き離す事は出来たと思った。


私は、すぐにマスター・ナディの状態を確認しましたが、完全に活動を停止しており、呼びかけても反応がなく壊れているようでした。


『こんなものでどうにか出来ると思うなよぉあ!』


奴は火の波を光る剣で吹き飛ばし、私の方をもの凄い形相で睨みつけ、せっかく離した距離をものともしない勢いで、こちらに襲いかかってきました。


なんとかその場を離脱しようと、私は二つに斬られた体の上半分を抱えて再び森の中へと戻りました。


奴は何かを叫びながら、何度も何度もこちらに向かって何かを飛ばしてきました。それは大木を斬り裂きながらこちらに襲いかかりました。


「やべぇなこれは、逃げるだけで精一杯ですね」


森を抜けると、戦っていたはずのシャナンとセーレンが、目の前に現れたのです。


「うぉっ、びっくりした」


「すみません、説明は後です!取り敢えず逃げますよ!」


攻撃の手は緩むことなく、こちに襲いかかる。シャナンとセーレンを引き連れて森の中へと戻って行く。

しばらく走り続けると、攻撃が止み大人しくなりました。


「何だい、一体あれは…」


「すみません、私にも分かりません」


「おい、サクラ…それはもしかして…」


「はい、マスター・ナディが壊されました」


「これはまた…」


「はい…」


私は無駄だと分かりながらも、体を持ち帰りました。ただ、この森では落ち着くことも出来なかったので、私たちはここで街に帰ることにしました。


奴らの事は気になりますが、追手が来る雰囲気も無かったので、取り敢えずは離脱を優先しました。

人の兵士たちは、シャナンとセーレンの手によって、半壊に追い込んだと話していました。


そうして、私は街に戻る事ができました。


それまでに追手はありませんでした、この場所もバレる事は無いでしょう。実質、一週間ほど経過しましたが、この街が襲われた事はありませんでした。


そうして私達は街に戻り、エルフ族全員の安否を確認していきました。


「よかったです、皆が無事で」


「お母様、後の事は宜しくお願いします、少しナディの事で籠ってきます」


「わかりました、後は任せなさい」


「サクラ、付いてきてください」


「かしこまりました」


そうして、私とシャナンは研究所に入りマスター・ナディの体をこの台の上に乗せました。


胴体より下の消失、動力部分の破損。幸いにもAI部分には損傷が見られないとの事でした。

そこで私は、人工魔心の件についてシャナンに打ち明けました、残ったAIを使えば…もしかしたらと。


シャナンはかなり思い悩んでいました、このまま壊した状態にも出来ない。だが、この方法は容認できたものではないと。


そうして議論を重ねた結果、錬金術を用いて人工魔心の錬成に踏み切ることにしました。




「ここまでが、マスター・ナディが目覚めるまでの話となります」


「という事は、もしかして…」


「はい、錬成は見事に成功しました、今は人工魔心によって活動を可能にしています」


「なるほど……人格も問題なさそうですね…」


「それはこれからかと思います、私のように」


確かにそうだ、サクラも出会ってすぐに別の人格が現れたわけではなかった。私もまた、第三の人格が現れるのだろうか、ノイズは残っているのかも分からない。


「二人には辛い決断をさせてしまいましたね」


「大丈夫よ、私は自分の為だから」


「それって一体」


「父と母が愛したものを、私の姉妹のような存在をこんなとこで、あんなやつにみすみす壊されてたまるもんですか」


「私も、マスター・ナディがいなくなれば、生きる意味も無くなってしまいます」


こんな事を言われたのは初めてだった、今までは壊されて当たり前の人生を送ってきたから。こんなにも必要とされていた事が、今までにあっただろうか。


「二人とも、ありがとうございます」


「いいって、簡単に壊されないでよ?」


「精進します」


「さて、これからどうする?戻ったとは言えないよね、その体では」


「そうですね…どうしましょうか」


自分の体を見ることは出来ないので、状態が分からないが胴体から上半分しか無いと言っていたので、今あるのは頭と壊れかけの動力源のみだろうか。


こうして生かしてもらえたのだ、ここで私が諦めるわけにはいかない。生かしてよかったと、さらに思ってもらえるようにこの体を復活させ、今まで以上に皆に貢献したいと思う。


さて、体作りは任せる形になってしまうがどうしたもんか、普通の体を作るだけなら簡単だろうが、それでは意味がないだろう。また同じく、王燐に壊されてしまうだろう。



案がないわけではないのだが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る