【第44話】街の建設
一晩明けて、私は火薬の状態を確認する。黒色の粉を取り出し衝撃を与えながら確認をする。なんと、一つ目の木炭と混ぜ込んだもので成功していた。
それ以外のものは何の反応もなく、一つ目にして火薬を作り出す事に成功したのだ。
「思ったより上手くいきましたね」
「はい、マスター・ナディ」
材料も単純なので、量産する事は容易い。鉄も十分に確保できる算段がついているので問題ない。後は実際に、大砲を作るだけだ。
「ナディ〜、ひとまず精錬の区切りついたで」
丁度いいタイミングでファーネが来てくれた、渡していた鉄を、全て精錬し終えたそうだ。早速確認すると問題なく綺麗なインゴットになっている。
さすがだ、鍛治の腕に関しては自信があるようだ、自慢げに胸を張りながら見せていた。
「ありがとうございます、それではまず試作品を作っていきましょうか」
「異世界の武器か〜、楽しみやなぁ」
「恐ろしい物ではありますけどね」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、独り言です」
そう、使い方を誤ればこちらが破滅を迎えかねない、それに王燐には知識がないだろうから、こちらの技術などを奪われるわけにはいかない。人族の未知の存在や力に対抗するには、こちらも未知の存在でいなといけない。果たして、どこまで通用するか分からないが。
取り敢えず最初は大砲を作る事にする。拳銃やマシンガンなどは、部品が細かいので今は厳しいだろう。
それに、今は圧倒的な破壊力が必要となる、あの赤黒い腕も八獄衆も生半可な攻撃力では通じなかった、こちらもそれなりの物を揃えないといけない。
シャランを呼び四人で大砲の作製に取り掛かる、型を作り量産できるようにしていく。そこに溶かした鉄を流し込み冷やし固める。同時に、火薬の方も大量に作っておく、乾燥させる必要があるので時間がかかる。
「なんか、えらい大きいの作るねんな」
「そうですね、それでもまだ試作なのでこれから改良して行く予定ですが」
「弾に火薬こめといたよ〜」
そうして、試作品の大砲が完成する。砲身は1mぐらいの長さになった、砲弾もそれに合わせた大きさだ。
早速外に運び出し、砲口を外に向けて設置する。バネなどは作れないので火を用いて撃つように設計した。
さっそくサクラに点火させる。
「では、やりますね?」
「はい、お願いします」
そう言うとサクラは砲身の上部分に火をつける。
その瞬間、激しい轟音を撃ち鳴らし砲弾が放たれる。それは遠くの彼方へと飛んでいき、着弾と同時に爆撃を上げる。どうやら成功したようだ。
「なんやこれっ、すごいな!」
「成功だなこれは」
「はい、精度はこれから調節が必要でしょうが、とりあえずは成功と言えるでしょう」
「流石、マスター・ナディです」
「でもこれって、砲弾だっけ?に魔石を混ぜ込んだらそれぞれの属性を付与できひんかな?」
「それってどういう?」
「火なら火力を上げたり、水を周囲に爆散させたり」
「なるほど、それは試す価値ありますね」
そうして、私たちは大砲の改良や砲弾の実験などを行った。成果としては上々、これならば対抗しうる武器として問題なく稼働するだろう。
ーー それから一週間ほどが経過した。
この場所、もはや街といえる規模になっていた。ゴーレムを大量に動員し、防護壁や家屋などの建設を急ピッチで行っていた。見事に円形の防壁に囲まれ、防壁の上には大砲を構え、それぞれの方角に門を四つ配置し警備用のゴーレムを配備。
すべて石や鉄などを用いて作成、強固な守りを築いた街へと変貌させていた。ゴーレムも種類が多くなり、作業用にはウッドゴーレム、運搬用にはクレイゴーレム、警備用にはアイアンゴーレムと用途に分けた資材の有効利用により、数を増やしていた。
「えらいこの場所も様変わりしたな」
「皆様のおかげですよ」
「いやいや、ナディが作業効率を上げたおかげだよ」
「はい、マスター・ナディは素晴らしいです」
「どうも、ありがとうございます」
でもまだまだ改良の余地はある、豆腐型の家がなくなったので景観はよくなったが、防壁もまだまだ完全とはいえないだろう。食物に関しても、未だ成果は上がっていない。やはり、一度死滅した土地では何も育たないのだろうか。
そうしているとクベアが私を呼んでいた。
呼ばれた先に向かうと、風龍サラカントが来訪していた。エルフ族たちは片膝をつきながら、祈るように佇んでいた、かれらからすれば神のような存在が現れたのだ。
「これはこれは、サラカント…いかがされましたでしょうか」
[ フム ミョウナ ケンゾウブツガ ミエタノデナ ]
「すみません、ここに新たな拠点を築いていました、お邪魔でしたでしょうか」
[ イヤ カマワン ヨウスミニ キタ ダケダ ]
「それはそれは、わざわざありがとうございます」
[ ゴルマイガ ノヤツニハ ココニ キタコトハ ヒミツデナ ]
「もちろんです、心得ていますよ」
普通に会話している事に驚いたのだろう、シャランとエルフ族たちは開いた口が塞がっていなかった。
[ ソウダ ワレノ ウロコハ マダ モッテイルカ ]
「いえ、今はコハク達に持たしてあります、今手元にあるのは一枚だけですね」
[ フム デハ ツイカデ アタエヨウ ]
「いえいえ!それは貰いすぎです」
[ カマワヌ ソレニ レンキンジュツヲ モチイテ マチノ ボウエイニ ]
「錬金術ですか?それって一体」
[ ツタエルノハ ココマデ アトハ ジシンデ カンガエヨ ]
そう言い残して去っていく、またしても鱗を数枚置いていきながら。
「サクラ、何か知っていますか?」
「すみません、情報がありません」
まぁ、元々激レアの素材なのだ、情報がなくて当たり前か。しかし、錬金術を用いて街の防衛に役立てよとは一体どういう事だろうか。手探りで考えていくしかない、とりあえず鱗を持って研究所に戻る。
「では、錬金術で出来ることをおさらいしようか」
「はい、錬金術とは理解、抽出、精製です。つまりはこの鱗を理解し、その性質を抽出した後に、この町の防衛に役立つように精製といったところでしょうか」
「ですね、まずは理解からですが……ここはクベアに聞きましょうか」
そうして研究所にクベアを呼び、話を聞くことにする。風の術式を用いて威力の増大を行っていたことがあるからだ、その時の感覚などを聞いていくことにする。
「そうですね~………、ご存じの通り術式は僕の中にある魔心から生み出されて発動しています」
「はい、そうですね」
「その発動の時ですね、この鱗から風が流れ込んでくるんす」
「それが威力の増大になると?」
「うーん……威力が上がるというよりかは風を自由に使えるようになる」
「自由に使える?」
「そう、際限なく自由に思い通りに発動、操るといった感覚が近いかな?」
自由に際限なく風を操るといった所だろうか、果たしてそれを抽出とは?一体何に精製すればいいのだろうか、自由に考えるというのが一番難しい気がする。
「サクラ、何か考えはありますか?」
「そうですね、私にもどうすればいいのか……」
「風の防壁を作るのはどうっすか?」
なるほど、ただでさえあの洞窟の崩壊から身を守ってくれていたのだ、そこにこの鱗の効果が合わさればその防壁はかなり強力なものとなるだろう。ただ、それを維持し続けるにはどうしたらいいだろうか。常に、クベアが傍にいるわけにもいかない。
「マスター・ナディ、私に考えがあります」
「その方法とは?」
「私のこの魔石がなぜ、動き続けていると思いますか」
確かにそうだ、私やサクラのように本来魔心を持たない存在は、魔石の力を引き出すことはできない、それでもサクラは術式を発動していた。考えてみればおかしい事だと気づく。
「私の魔石は力を常に循環させています」
「循環とは??」
「はい、私の体の中にある魔石から全身に力を供給させてこの体が動いています」
「もしかして血液のようなものですか?」
「そうです、本来属性というものは魔石や魔心から流れる【魔力】と呼ばれるものを、流す際に属性の膜のようなものを通って発動されています」
流れる魔力を、属性のフィルターに通して変換されている感じだろうか。
「その魔力を常に前進に張り巡らせ、それをまた魔石に戻し、また流していく」
「それが循環させることですか」
「はい、それにより全体的な魔力の量は変わらずに供給しています」
「では、術式を用いて体外に放出すれば減っていくと?」
「はい、そうですそうして魔力を使い切れば、私の死が訪れます」
確かに、サクラの魔石が精製できない意味では、命は一つ。
「その循環を用いて風龍の鱗の力を循環させながら発動させ続ければ」
「いや、それはあまりおすすめしないかもっす」
「どういうことですか?」
「僕もこの力を使うのは結構きついんすよ、あまり使いすぎると体が壊れそうな」
なるほど、強大な力にはそれなりのリスクも伴うという事か、でももし、その力に耐えうる何かがあれば、常に風の防壁を発動させておくことが出来るのではないだろうか。
その何かが見つかれば…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます