【第43話】感情は未だ不明

私は、錬金術についてサクラから情報を得て自分の中に落とし込んでいく。やれる事は多く、私の世界の技術と、この世界の素材や技術、そしてこの錬金術を上手く組み合わせれば、強大な戦力となれるだろう。私自身のバージョンアップをしてみるのも、いいかもしれない。


そんな事を話していると、シャランが戻ってきた。どうやら一夜明けていたらしい。新たに鉱石の採掘と、様子を見に戻ってきたとの事だった。

シャランの後ろには昨日よりも多いゴーレムの数を引き連れていた、道が安全だと分かったので安心して連れて来たと。


私も、サクラを連れてこの部屋から出る事にする。ここでの調べ事はもう終えたのだ。同じく採取に加わり、鉱石の見える場所を掘り進めて行く。ここで住んでいただけあって、かなり効率よく採取している。


持って来た台車に積んでいき、その内のひとつには部屋にあった錬金用の素材を積み込み、全て持ち出す。

ありがたく使わしてもらい、有効活用させてもらう。


「ではサクラ、行きましょうか」


「はい……前マスター、行ってまいります」


そう言うとサクラは部屋の中に火を放ち、燃やし始める。突然の事に私とシャランは驚きが隠せない。


「え、サクラ…さん?」


「それでは行きましょう、この洞窟内の酸素が薄くなる前に、さっ、早く早く」


見事に火は燃え広がり、部屋の中は炎で埋め尽くされる。かまどのような状態となり熱気は増すばかりだ。


「え、いいのこれ!?」


「はい、前マスターの資料は、私とマスター・ナディが全て記憶しているので問題ありません」


「え?そんな呼び名になったの?」


「すみません、私も今知りました」


「前マスターの痕跡は残すわけにはいきませんから」


あまりにも突然のことで、止めようにも止めれない。サクラが良いなら…いや、良いのかこれ?

とりあえず、このままだと私たちにも被害が及ぶ可能性があるので、急いで洞窟を脱出する事にする。


転移紋…来た時の紋章だ。それに乗り、拠点近くの平野へと移動する事にした、これの使い方に関しては、昨日のうちにファーネから聞いていたそうだ。

そうして、洞窟から移動し私たちは平野に戻る。


「ふふふふふっ………」


「さ、サクラさん?」


「はははははははっはははっ!!」


突如として笑い声を上げ始めた、もしかして外に出る事が目的で私たちを騙していたのだろうか。それなら、先ほどの行動も何か別の意味があったのでは。


「外ですねここは!青い空、緑の草木…私は今、風を感じている!あぁ……なんと素晴らしい…」


どこか壊れてしまったのだろうか。


「いやーっ、すみません。創られてこのかた、洞窟から出た事がなかったもので…ついね」


「少し気になっていたんですが、感情や感覚があるんですか?」


「みたいですね、この中から湧き出るものの事でしょうか、こんな事は初めてです!」


魔心が影響を及ぼしているのだろうか、ならサクラと人との違いは一体なんなんだろうか。自我があり、感情のようなものも存在している。魔心を持ち、違うとすれば体の造りだけだろうが。果たしてそれは、人ではないと言い切れるものなのだろうか。


私は、少しだけサクラが羨ましく思えた。


「これはなんでしょうか、今無性に何かを燃やしたくなっています……駄目だと分かっているのに!!」


いや、羨ましくないかもしれない。この状態を見ていると、ただただヤバイやつなだけだ。これが感情なのだろうか、ただの暴走にしか見えない。


しばらく空に向かって、半狂乱になりながら火炎放射のように、火柱を上げ続けていた。私たちもかける言葉が見つからず、やりたいようにやらせていた。幸いにも、周りに被害が及ぶような火の出し方はしていなかったからだ。


「マスター・ナディ…申し訳ございません」


「いえ、お気になさらず。正気に戻りましたか?」


「はい」


暫くして冷静になったのか、土下座をしながら謝っていた。原因は分からないが、内から溢れるものに制御が効かなくなり、さっきのような醜態を晒したと。

だが、これはこれで面白いものが見れた。私の中に眠るノイズも同じようなものだろうから。


私たちはそのままゴーレムと一緒に、拠点へと戻る。

これでかなりの量の鉱石が採れた、あとは研究所に戻って最初に仕分ける作業をしていく。

サクラにも手伝ってもらったので、仕分け作業に関しては、かなり早くに終える事が出来た。


「マスター・ナディ、よろしいでしょうか」


サクラに声をかけられ、この場所について尋ねられたので、共に外に出て説明をしていく。マスターが戒族という事もあり、何か感じるものでもあるのだろう。


「本当に何も無くなってしまったんですね」


「はい、人族の手によって」


「ここの建物は?」


「私たちが急拵えで建てました」


「そう、ですか…酷いですね…」


外の景色を見ておきたいとの事なので、私は戻る事にする。魔心とは、本当に感情を生み出しているらしい。ただそれは、自分自身の感情なのだろうか、創られた存在である以上、感情も創られたものではないのだろうか。


それについては、確かめようもないが。




鉱石類を眺めていると、多種多様な鉱石が発掘できている、鉄に銅、銀鉱石も少量だが掘られていた。これなら必要な量も確保できている。あとはこれらを精錬して、使えるようにするだけだが…。


「ナディ〜仕分け終わったか?」


「ファーネ、丁度良いところに。今終わりました」


炉は既に組み上げているそうで、精錬の準備は出来ているそうなので、ゴーレム達と一緒に運び出して行く。運んでしまえば、後は任して欲しいとの事なので、全て任せる事にした。


私は、シャランとサクラを交えて、これからの開発計画を練っていく事にする。まずは武器関連の生産と、防壁関連も着手していきたい。

生活基盤に関しては、今のところ必要最低限といったところか、食料に関しては森から採取。住居も急拵えではあるが、建築が完了している。


「引き続き、エルフ族の皆さんには食物の育成をお願いしておきたいですね」


「そうですね、武器や防衛関連は私たちが」


「防壁の作成はゴーレムを割いていこう、武器関連は細かい作業になるので私たちがやる事にする」


「マスター・ナディ、私は何を?」


「サクラには魔心の実験を行ってほしい、サクラと同じものが錬成できれば、戦力も人手も大きく進歩するだろうから」


「かしこまりました、お任せあれ」


そうして担当を割り振っていき、作業を指示する。大雑把ではあるが、今はこれが最善だと思う。武器に関してはある程度の設計図も、データの中にあるので問題はないが、銃火器に欠かせない火薬が必要になる。この地には硫黄もなければ、硝石も無かった。代用できるものは何か無いだろうか。


「火の魔物の魔石は使えんだろうか?」


「でもそれ自体は発火しないのでは?」


「そうだが、元来魔石や魔心にはそれぞれの属性が宿っているから、それを体外に発動できるのだろう?」


「そう聞いていますが…」


「なら、それ事態が火を司る何かって可能性もない?」


言われてみればそうだ、タルトーの大量の水を出したガラス玉だって、水の魔物から獲れた魔石を使っていると言っていた。では、その魔石と何かを混ぜ合わせれば火薬に近いものが作れるかもしれない?


「試してみる価値はありそうですね」


「錬金素材の中にいくつかありましたよ?」


「分かりました、試してみましょうか」


そうして、私たちは火の魔物から獲れた魔石を用意すした、このままでは普通の魔石なので、シャランが粉々に砕いていく。砕いた魔石にとりあえず、木炭を混ぜ込んでみる事にする、硫黄も硝石も無いので手元にあった木炭で試してみる。

作り方は私のデータの中にあるので、映像を投影させながら作業を進めて行く。圧縮させ、粉状になった物を乾燥させる為に運び出して行く。


明日には乾燥してそうなので、改めて確認する。

これで上手くいくとは思っていないが、明日には結果がでる、他にもないか色々な素材も混ぜ合わせながら、同じく運び出して乾燥させる。


どれか一つでも成功してくれたらいいが。

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