【第42話】サクラと錬金術

灯りのある広間に飛ばされ、私たちは体勢を整える。光のない空間から、こちらに出てきてようやくその姿をはっきりと見る事ができた。

創られたとは言っていたが、その姿はまさに人だった。美しい女性の姿をしており、私やゴーレムのような見てくれとは全然似ていない。


「もしかして、あれが人造体ホムンクルスでしょうか」


「恐らくな、僕も初めて見るよ」


「てことは味方ですかね?」


「話してみないと分からんね」


動きも滑らかで、私たちを投げ飛ばすほどのパワーを持っていた、会話のできる知能も有しているはず。

こちらは三人もいてるのだ、何とか取り押さえて会話を試みたいところだが、まずはもう一度声をかけよう。


「あの、何か誤解があるかと思いますが!」


「誤解…?マスターの敵であると認識しましたが」


「そもそも、ここには今日初め来ました」


私は、少しづつ歩み寄りながら会話を続ける。


「それに、貴女のいた部屋は偶然発見したものです」


「ではマスターはどこに行きましたか?」


「そもそも、マスターが分かりません」


手の届く範囲まで歩み寄る事ができた、少しは警戒を解いてくれたのだろうか、少しでも情報を引き出して、敵か味方か判断をしたい。


「マスターとは私を創ったお方」


「その人とはもしかして、戒族でしょうか?」


「そうです、貴方も見てくれは違いますが、私と同じマスターに創られたのでしょうか?」


「少し長くなりますが、その話しをしたいと考えています、取り敢えず警戒は解いていただいても?」


「……かしこまりました」


ようやく、ちゃんと話しが出来るようになった。それに、戒族に創られたと言っていたが、やはり人工生命体という事なのだろう、この世界の技術も恐ろしい。

だが、一つ気になるのが、残された本には、このような存在は明記されていなかった。ここの洞窟に残されていた事もそうだが。


私は、ここに来た経緯も含めて話していく。いつの間にか、シャランとファーネも側に近づいていた。話しをしていくと、誤解も解けたようでお互いの状況と情報を擦り合わしていく。


「なんと、マスターはこの世にいないと」


「はい、残念ながら」


「それなら私の存在する意味もないでしょう、ありがとうございました、お帰りはお気をつけて」


そう言いながら、深くお辞儀をする。この地で朽ちるまで過ごすつもりなのだろう。それは、駄目だ。


「いえ、私たちと共に来ていただけませんか?」


「私がですか?」


「存在する意味が無くなる事は、とても辛い事だと私は知っています。私もかつて、経験した事がありますから」


「あなたもマスターを?」


「似たようなものですね」


そう、似たようなものだ。私は数々の主人、購入者に裏切られてきた。逃げるようにして今に至る。

彼女は、信じていたマスターが、知らない間に死んでいて、生きる意味を見出せなくなっているのだろう。


もしここで、手を取り合う事ができるのであれば、彼女が作られた今意味を一緒に探せるかもしれない。

私はまだ、本当の意味での生きる意味を知らないが。


「分かりました、私もマスターの敵討ちですね」


「その為に、私たちに力を貸してください」


「はい、新しい私のマスター」


「へっ?私がですか?」


「はい、マスター」


アンドロイドロボットが、マスターになるとは。少し違和感があるが、今はこれで良いだろう。

シャランとファーネも納得しているのか、後ろで頷いているだけだ、せめて何か言って欲しい。


「これから、宜しくお願いします」


「こちらこそ、それでは奥へ案内しますね」


「さっきの光の無い空間ですか?」


「はい、私が眠っていた場所です付いてきてください」


そう言うと彼女は、奥へと歩いて行く。


「行きますよ、マスター」


「シャラン、からかってますね?」


「良いと思うで、マスターって」


「ファーネまで…まぁ、仕方ないですね」


私たちは言われた通りに、後をつけていく。発光石を投げ込んでいたので、多少は明るいがやはりほとんど見えない。彼女はその暗闇を進んでいく、私たちも見える範囲で歩いていく。


彼女は壁の付近で立ち止まり、なんと術式を唱えた。


【 ファイア 】


すると、手を翳した場所から火が上がる。その火は松明へと燃え移り、火を灯していく。次々に松明に火を灯し、この空間を明るく照らしていく。

すると、この空間は一つの部屋となっていた。

魔物の素材や鉱石、植物類など様々なものが所狭しと置かれていた。何かの研究室だろうか。


「さて、まずは私について説明をしましょう」


「お願いします」


「私は、マスター唯一にして無二の存在、この身体は【錬金術】によって創り出された人造体ホムンクルスとなります、名は【サクラ】と言います」


「やはり、人造体やったんやな」


「唯一無二とは一体?」


どうやら、サクラの存在は試行錯誤の末に、偶然の産物によって作り出されたものらしく、過去に何度か同じ方法を試みたが、どちらかというと、製法の違うゴーレムを生み出すだけに留まったらしい。

ここまで自我が芽生え、自由に行動できているのは、サクラだけとの事だった。


「それが、本に残っていなかった理由ですか」


「本…ですか?」


「はい、異世界の知識をこの世界に再現しようとした、実験と研究の成果が記された本です」


サクラは何か思い詰めたように考え始める、すると何かを取りにいくと告げ、離れていく。私たちは、戻ってくるまでの間周囲を物色していく、ここに置かれている素材に関しては、三人とも興味が尽きない。

さきほどは、錬金術と言ってたが、私のデータにもあるものと同じだろうか。

まぁ、かつての世界では実現していない、作られた物語の中だけの技術だが。


戻ってきたサクラの手には、一冊の本が握られていた。それをこちらに差し出して中を読むように言われる。本の中身を三人で読んでいると、同じ感想に辿り着く。


私たちが持っている本と、同じ様な内容だと。


「やはりそうですか、この本を書いたのは私のマスターです」


「「 え!? 」」


「この本を書いた頃には、異端者として戒族の国を追い出されたんです。そして、この場所へと流れ着きました」


この部屋の中に置かれていた素材の数々は、そのマスターとやらが、実験と研究を繰り返していたのだろう。その成果が、この本という事だ。

そして、その技術の結晶がこのサクラというわけか。


「そして、その知識は私の中にも蓄えられています」


「錬金術とやらですか?」


やはり私の予想していた通りだ、鉄クズを金に薬草で薬を生成。そういった技術をまとめて、錬金術と言うらしい。さがに金を作ることは出来ていないらしいが、それでもこの世界でもすごい技術である事は間違いない。


「それでは、その自我や術式も錬金術のおかげで?」


「はい、それには魔心をベースに使っております」


「魔心ですか?」


いくつかの魔心を砕いて混ぜ込み、錬金術を用いて形成。形作った物を胸の中に埋め込んでいるそう。詳しい製法は、サクラに伝える前に眠りについたので、今となっては不明だそうだ。

ただ、もしも再現する事ができたのであれば、サクラのような人工体を量産できる事に繋がる。

そうすれば人族との争いに、大きな貢献となるだろう。是非とも、再現したいものだ。


「こればっかりは、同じく実験と研究だな」


「そう、ですね……ちなみに錬金術は誰でも扱えるものなのでしょうか?」


「はい、あくまで技術の一つなので問題ないかと」


それならと私は、錬金術を学ぶ事にする。この部屋には、いくつかの教材のようなものが揃っていたので、端から読ましてもらう事にする。

シャランとファーネは、一旦家に帰るとの事。

気づけば、外はもう夜になっているそうだ、この洞窟中にいてると、余計に時間の感覚がなくなる。


「じゃあ、また明日来るよ」


「バイバイ、ナディ、また来るわ」


そうして、ゴーレムを連れて来た道を戻っていく。

ここでアンドロイドロボットである利点が最大限に生かされる、眠る必要がないのだ。エネルギーに関しては、去り際に満充電にして貰っている。

前回のように急に倒れる事もないだろう。


そうして、サクラのサポートもあってか、部屋の中にある教材を全て読み尽くしていく。後は実戦あるのみ、幸いな事に素材はいくつか残っているので、これらを使わせていただき、練習していく。


ここもサクラに教わりながら進めていく。錬金術の考え方としては素材の理解を深め、それらの特徴を抽出、完成品を思い描きながら精製。

精製の際には、【精製台】と呼ばれる特殊な設備が必要となり、使う素材を台の上に置き、中央に描かれた魔法さんのようなものに精製させるらしい。


だが、私がやる分には反応がない。


壊れているのかと、サクラが試すが問題なく作動している、原因があるとすれば魔心だろうか。

戒族も、サクラにも、魔心が存在している。私にはそれがないので、エネルギーの供給が出来ていないのではと、二人で考えた結論だ。


まさに、八方手詰まり。無いものを求めたってどうしようもない、私は創りたいものがあれば、サクラに精製の依頼をする事にした。


何か解決策があれば良いが…。

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