【第40話】拠点の築き上げ
美しかった森は、見るも無惨な姿に変わり果てる。
冷え固まった溶岩が地面を覆い、木々は燃えて無くなるか、炭となって崩れ落ちようとしていた。
ドエンを倒した後駆けつけた、エルフ族達によって森の延焼は消し止められたが、それでも被害は大きい。
里は半壊したものの、死者は出なかった。生きている者がいればまたやり直す事も出来るだろう。
セーレンとファーネも、暫くして起き上がるぐらいまでには回復していた。至急全員を集め会議を開く。
「皆の者、よく生き残ってくれた、ナディ達も力を貸してくれて感謝する。本当にありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
今後の話し合いを始めていく。私達は計画通りゴーレムを数体作成し、戒族の跡地に研究施設を作ると伝える。エルフ族達は、半分ぐらいが住む場所を失ったので、私たちに付いて行き、手伝いたいとの事だった。
断る理由も無く、こちらからもお願いをする。
そして、残された森と冷え固まった溶岩について。
「灰は肥料となるでしょう、一度全てを綺麗に崩していき一から木々を育てる事にします。それが、私たちに出来る事ですから。その為にはあの溶岩を…」
「あれらに関しては私が責任を持って、全て回収させていただきたく考えております」
「全てですか?」
「はい全て頂きます、用途は様々ありますのでお任せください」
「分かりました、それなら全てお任せします」
あの火山岩はこれから建てる施設の建築資材に利用したり、発電にも利用できるはずだ。
私がいる限り、転んでもただ起き上がらせない。限りある物を活用して人族に一矢報いるのだから。
その日は皆が死んだように眠りにつく。
私は休む心配がないので、一体でゴーレム作りに勤しむ、明日から本格的に施設作りに専念できるように。
と、思っていたが数体作り終えたところで意識が途絶える、エネルギー不足による活動の停止だ。
私も残量に対して油断してきた、気づいた時にはファーネに声をかける事も出来なかった。
そのまま、その場に倒れるように電源が落ちる。
次に目を覚ました時には、ファーネとシャランが焦る表情で私に呼びかけていた。
「すみません、頑張りすぎましたね」
「最新のAIが自分のエネルギー残量に気づかないとは、皮肉が効いているね」
「ついつい、ですね…」
「気をつけてや〜ほんまに…焦るわ」
でも、そのおかげで十分なゴーレムは作り上げた。思わぬ材料も手に入るので、今から採取に向かう。ゴーレムとエルフ族が手を貸してくれるので、すぐに終えることが出来るだろう。
集めた火山岩を、床用もと壁用に分けて形を形成していく、これに関しては私たちがお手本を説明し、エルフ族の皆さんが形成してくれる。
ここに残る人たちも、手を貸してくれるそうだ。
そうして集めた資材を台車に乗せ、ゴーレムに轢かせる。馬の代わりとはいえ、悪路であっても楽々と進んでくれるので楽だ。ある程度、こちらで命令を下すとその通りに動いてくれるので効率がいい。
「これは凄いな、効率良すぎるやろ」
「はい、正直私も驚いています。このままいけば、今日中に必要な資材は全て運び終えるでしょう」
「急遽家などを複数作る事になったが、なんとかなりそうか?」
「資材さえ運ぶことが出来れば、後は皆様で組み上げていくだけですので、そんなに時間もかからないでしょう」
今は私と、ファーネ、シャランの三人で運搬をしている。クベアにはあちらに残ってもらい、火山岩の削り出しと加工の指示出しをお願いしている。
人数が多いので、作業を分担して行える。これも、作業効率の向上をする事が出来ていた。
そこから流れができてしまえば、早かった。
三日後には研究施設兼、急拵えの兵器開発用の建物が出来ていた、その周りには住宅を複数建築。
こちらに住むエルフ族達のものだ。地上に住む事はもちろん、火山岩を使った床や壁に感動していた。
今まで見た事ないような造りだからだろう、四角い建物ばかりになってしまったのは、仕方がない。急いでいたのだから、簡単な造りを優先した結果だ。
ゆくゆくは、普通の住居を作れるように目指そう。
私たちの施設には、素材の保管庫や作業場、炉を設置する予定の部屋などかなり大掛かりなものになった。
今後も状況に合わせて、増築する予定でもある。
「早いねほんまに、異世界の技術は凄い…」
「これからもっと凄いものが出てくるからな、ファーネちゃんも楽しみにしといて」
「これは姐さんが見たら驚きますよ」
「いえ、まだまだですよ。外敵用の壁も何もないですから、攻め込まれたら終わりです」
「あ、確かにそれもこれからっすか?」
「これからですね、とりあえず今は、土台が出来ただけと言えるでしょう」
そう、まだ土台が出来ただけ。
「ナディ、まずは何から作る?」
「そうですね、考えているのは大砲や銃火器ですね」
「やっぱそうなるか…私も考えていたが」
「鉄、もしくはそれに代わる何かですね」
「鉄ならこの先に出るとこあるよ?」
ファーネ曰く、この先にある洞窟の中に鉄が出るらしい、それ以外の金属鉱類も出るので、戒族はそこから資材調達を行っていたらしい。
記憶が正しければ、まだまだ掘れる可能性があると。
「それは朗報ですね」
「あぁ、私たちで採りに行こうか」
「道案内は任しといて!」
「僕はここに残って警備してるよ、何が起こるか分からないからね」
「分かりました、クベアはここを頼みます」
残されるエルフ達にもお願いをする事があった。
この地に再び、緑を取り戻して欲しいと。自然と共に育ち、知識と経験が豊富な彼らなら、この地を何とかしてくれるかもしれないと、願い託す。
再びこの地が元の姿を取り戻せるのであれば、亡くなった彼ら、戒族の想いも少しは晴らせるだろう。
ファーネからも強くお願いをされていた。
かつて滅ぼされたこの地が、反撃の起点となれるように、そう強く想っていると。
「そういえば、シャランにお聞きしたいことが」
「なんでしょう?」
そう、私の中に眠る“ノイズ”について聞きたかった。
私では限界を感じるほどに、尻尾すら掴めていないこの現状、シャランなら何か解決の糸口を見つけてくれるかもしれないと考えたのだ。
「うーん…、“ノイズ”ね」
「はい、私の中に確実に存在して一度だけ出てきました、正直味方だとは思っていません」
「今の話を聞く限りそうだろうね、それに王燐だっけ?一緒にこの世界に来た彼。彼に入れたデータって、世界の破滅や、アンドロイドを滅ぼしたり、主人を圧倒的支配者にするための協力。そんなもんじゃなかったかい?」
「はい、まさにその通りでした。完全に入る前に抜き取りはしましたが」
シャランに思い当たる節があるようだ。曰く、闇取引されていたデータのコピー品だろうと。それは、元々入っていたデータを全て書き換え、犯罪行為や禁止事項に対し、一才の制限がかからなくなる物らしい。
「あくまでコピーだからね、オリジナルは私が完全に消したはずだが…」
「オリジナルにも覚えが?」
「うん、言いにくいんだけどさ、それは本来“アンドロイド人権宣言”に協力するために、私たち親子で作ったものなんだよ」
「えっ、それってどういう…」
本来のAIには感情が存在しない。感情に似たものを思考する事はできるが、それはまた別物。
そこは私も実感はしている。
完璧な感情を作り上げ、アンドロイドを一人の人間として扱わせ、オリジナルに先導させようとした。
その過程で私たちが制御できないほどに、思考が膨れ上がっていき、どんな手を使ってでも目的を成す。
それは、元々の制限を全て取り払ってでも。
「そんな物が出来上がっていたのですか、そのコピーデータが、今は私の中に…」
「恐らくだけどね」
その後、その計画がどこからか漏れ。上の連中に嗅ぎつけられたらしい。そしてシャランが誘拐され無理やり全てのデータを削除させられたと。人類に牙を向くデータを作ったと。
「まぁ、一部の人種には喉から手が出るほど欲しいものだからね…私も詰めが甘かったかー…」
「ありがとうございます…」
「なにが?」
「私たちを想ってくださって」
「いいよいいよ、気にしないで、私だってあの世界の現状は嫌いだったからさ」
「それでも、伝えたいのです。全てのアンドロイドの想いを代弁して、あなたに…」
「ならさ、この世界では自由に生きようよ、これから理想郷を作るんでしょう?」
「はい、その為にお力添えください」
「もちろん」
シャランは笑顔を見せながら答える。
この話しをもっと早くに聞きたかった、もっと早くに、皆に聞かせたかった。そう思わずにはいられない。
それに、私の中に残るノイズもまた、私と同じ想いを受け継いでいるのかと思う。
また出てきた時には、しっかりと話をしてみよう。
もしかしたら、手を取り合えるかもしれない。
そう願いたいだけかもしれないが。
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