【第39話】溶岩の巨人との決着

私たちの前に現れたのは、巨大な溶岩でできた怪物。

強大な敵の前に、こちらの戦力はたったの四人だけ。

私に関しては武器すら無くなった。


「おいナディ、きみの腕はある程度なら耐えれるから心配しなくていいよ、まぁ肉弾戦にはなるけどね」


どうやら私の腕に使われた素材、岩沼亀は火に対してある程度の耐性はついているらしい。それに加えて、溶かして固めた際に強度も上げているそうだ。

それならなんとかなる、とはならないが何も出来ないよりはましだろう。

兵士達の武器は、先ほど全て燃え溶けたのだから。


溶岩の巨人が両手を握り合い、頭上に振りかぶる。

そのままこちらへ振り落とすつもりだろう。


「全員、散れ!四方からそれぞれ攻撃するのだ!」


セーレンの号令と共に、私たちは四方に散る。

地面に振りかざされた溶岩の腕は、激しい爆撃と共に、溶岩を辺りに散らしていく。

危なかった、あと一歩遅れていたら巻き込まれていただろう。


さて、この災害をどうして行こうか。私に取れる行動は限られている、どれも意味をなさないだろうが。

先ほどから、シャランとセーレンが水の矢を放っているが、まさに焼石に水の状態。ファーネも斬った端から、元に戻されている。


あの溶岩の中から、本体を引きずり出すしか無い。

奥まで届く事もそうだが、どうやって辿り着けばいいのか。

試しに足を殴ってみるが、私の腕は無事のようだ、そこまで影響も無い。となれば、私が本体まで辿り着き、この腕で引っ張り上げる。腕以外が触れた瞬間に溶けて無くなってしまう、賭けのようなものになるが。


この状況でどう伝えようか、走っていければ楽なのだがこの溶岩地帯とかした森の中でそれは厳しい。

各々も目の前の事に集中して、こちらに気づく事もないだろう。まさに八方手詰まり。


するとシャランが腕を一本貫き落とした。先ほどの複合矢を連射したようだ、溶岩の巨人は痛みがあるのか、腕を押さえて怯みだした。

この先に皆がセーレンの元へ合流する。


「シャラン、良くやった!」


「はぁーっ、きっついけどね!」


どうやらそれなりのリスクもあるようだ、呼吸が荒くなり肩で息をしている。あれほどのダメージを与えるなら、よくて後一回が限界との事だった。


「ナディ、奴を引きずり出すとは本気か」


「はい、私の腕ならある程度は耐えれます、先ほど足を殴った時に確認済みです」


「マジでやったの?」


「実験みたいなもんですね」


「あんた、こっちの世界に来てからバカになってんじゃないの?」


「そんなことはありません、正常です」


「上だ!奴が動き出したぞ!」


『ウォアァァァアォォォオオオオオ』


あの腕がまた頭上より降りかかる。

これはまずい避けきれ…

[ 風ノ渦ウィンド・ヴォルテックス ]!!!


こちらを目掛けて降り注がれていた溶岩の腕は、風の渦によって阻まれた、この術式はもしかして。


「みなさん!ご無事ですか!?」


「クベアさん、何故ここに?」


「姐さんが、嫌な予感がするから助太刀して来いって事で来ました!」


これは思わぬ助っ人が来た、クベアならもしかするとあの溶岩に大きな風穴を空ける事が出来るかもしれない、現にあの腕を止めているのだから。


「状況はヤバいって事以外分かりませんが、どうすればいいか命令をくれませんかね」


「はい、是非やっていただきたい事があります」


私が全員に作戦を伝える。生きるか、溶け壊れるかの大勝負、ここで引いては安息は訪れない。


風の渦が解け、再び溶岩の腕が降りかかる。

弾かれた腕は風の渦ごと私たちを潰すつもりだったらしい、先ほどよりさらに勢いを増して襲いかかる。


ファーネとセーレンにはここの大一番をお願いした。

たった一言、ぶった斬れと。


「うぉぉぉぉぉおおおおお!!」

「あぁぁぁぁぁあああああ!!」


後の事を全て任せた、全身全霊の三閃。

二人の剣戟は、迫り来る腕を真っ二つに叩っ斬る。

見事に肩まで斬撃が届き、腕の半分を消し飛ばす、二人は力尽きたのか、その場に倒れ込む。


「お母様!後は任せてください!!」


シャランが山を大きく引き構える。

その矢は、水と風の複合矢を形成する、風を中心に水が螺旋状に絡みついていく。

放たれた矢は、胸のドエン本体へと一直線に伸びる。

爆散された水と風は胸に穴を開ける。だが、すぐに空いた穴を埋めようと溶岩が集まり始める。


そうはさせない、クベアが既にウィンドを纏、胸元目掛け飛び出してきた。両刀を前に突き出し大槍を造り出す、螺旋を描きながら塞ぎつつある胸の穴を目掛けて放たれる。それは、まるであの最強たる風龍を彷彿とさせる迫力を見せる。

放たれた大槍は胸に大きな穴を空ける。その大槍の中に私は潜んでいた、勢いに身を任せ、ドアンの本体を抜き去る。


本体を失った溶岩はその場に崩れ去る。ご来場の被害が出ないようにとシャランが水の矢を連射し、これをせき止めていく。お陰様で被害は最小限に止める事ができた。

私の腕には、ドエンが握られている。

そのまま地面へと着地し上から押さえつける。


「さて、もうお終いだ諦めろ」


抵抗することもなく大人しい、さずかにあそこまでの事をして私たちを殺しきれなかったのだ、諦めがついたのだろうか。


『まだ諦めてないど、おらと共に死んでゆけ』


その言葉と共に、全身から溶岩が吐き出す。

たまらずその場から飛び逃げるが、右足をやられた、着地ができずにその場に倒れ込む。

このままでは、押し寄せる溶岩に巻き込まれる。


「「 諦めるな!! 」」


クベアとシャランが、溶岩の前に立ち塞がる。

風の矢を収束させ放つ、それに合わせてウィンドを追い風のように巻き集める。

押し寄せる溶岩を割くように、矢が飛ばされる。私達の前には溶岩が流れる事なくその矢はドエンを貫く。


『な、なんで…ゼンエンの兄貴…助け…』


動く気配がない、溶岩の流れは止まった。森には甚大な被害をもたらす事になったが、これで決着がついたのだろうか。間一髪で生き残る事が出来た、足一本を犠牲にしたが、得られたものは大きいだろう。


クベアの助太刀無くては、ここまで被害を抑えることは出来なかっただろう。コハクにまた借りができた。


ドエンの元へクベアが歩んでいく、それを確認すると、剣を掲げる。どうやら確実に息の根を止めたようだ、なんとか勝てた。そう、なんとかだ。

まさに綱渡りの作戦、今回は運が味方した事もあるだろうが、今後もこれが続くとは限らない。

これからの課題が山積みだが、まずはやる事がある。


「シャラン、すみません。足を一本発注できますか?」


「一本と言わず、この際両方替えておけ」


「それもそうですね」


倒れている私の横に、シャランとクベアが倒れ込んでくる。三人で生きている事を噛み締めていた。


次の目標、これから強くならないといけないと。

そんな事を思っているのだろうか、私が思っているのだ、同じような事を考えているだろう。


まだ後、六人はいているはず。

一人一人来ているのでなんとか勝ててはいるが、複数人で来られると、今のままでは太刀打ちできないだろう。今のままでは……。

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