【第38話】八獄衆 - ドエン -
突然の人族来襲、八獄衆の一人ドエンも同時とは。
完全に、エルフ族を根絶やしにするつもりで動いているらしい、いつから計画されていたのだろうか。
いや、そんな事は関係ないだろう。
今はただ、この状況を打破する為にはどうしたらいい。戦うのか、逃げるのか。最善策はあるのだろうか。
『お前らに聞きたいことがあるど』
「なんだ?」
『“ゼンエン”を知っている奴はいるかえ?』
ゼンエンとは、戒族の跡地で殺した八獄衆。
まさか、仲間の敵討ちでもするつもりではないだろうか。
「知らんな、
『おかしいな、人とは言ってないぞ』
「ぬかせ、何も知らんわ」
セーレンが手を上げる。
木の上や、後方に待機していたエルフ達が弓を構える。各々、矢を形成、収束させていく。
「引き返すなら今のうちだぞ、人族」
『笑止!我らには八獄衆様の力あり!』
「なら、そのまま死んで逝け」
腕を振り下ろすと、一斉に矢が放たれる。
フォレストボアの時と同じく、凄まじい勢いで放たれる矢は人族に向けられる。
爆撃音と、衝撃波を発生させながら煙を巻き上げる。
これで倒せるとは思わないが……。
『ごちそうさまでした、微妙な味だねこれ』
無傷。
何をしたのかは分からないが、奴には届いていない。
後方に配置されていた兵士達には、届いていたのだが。それでもまだまだ数は残っている。
『全兵構え!突撃せよ!!!』
その号令とともに、兵士たちが攻めてくる。唸るような声と、地響きをあげながら押し寄せてくる。
ゴエンとの距離が一気に離される。
まずは向かい来る兵士たちをどうにかしないと、奴に辿り着くことすら出来なくなってしまった。
人の数が多い、エルフも駆けつけてはくれるが。
消耗戦となれば、こちらの方が部が悪い。
エルフ達は弓矢にて後方から援護していてくれていた。セーレンは二刀の剣に持ち換えそれらを迎え討つ。
ファーネは大剣を振り回しながら、暴れ回っている。
中々の勢いで、兵士達も迂闊に近づけずにいた。
「さぁさぁ!!どんどんこんかい!僕が相手や」
「ほぉ、あの子もやりおるな、私も負けてられん」
ファーネは舞を踊りながら、敵兵の群れへと侵入していく、まさに美しく踊り舞っている。
自然な流れで優雅に、敵兵を切り伏せながら。
シャランも遠くから弓で援護している。
討ち漏れた敵兵が私に迫る。鋭く槍を突き出すが、体を捻りながらそれを躱す。躱したと同時に槍を掴み、相手ごとこちらに引き込み、顔面を殴り飛ばす。
槍から手が離れたので、そのまま振り回し喉元に突き刺す。この槍はそのまま使わせてもらおうか。
ひとまず状況は悪くない、こちらの体勢も崩れる事なく、敵の侵攻を止めることができている。
このままいけば兵士は退ける事が出来るが、その後に控えているドエンに辿り着く頃には殺されるだろう。
この状況を打破するには、戦力を分けるしかない。
「セーレン!このままでは疲弊して終わりです!」
「私も同じことを考えていた!」
「私に考えがあります!」
少数精鋭で一気にドエンへと駆け抜ける。その間は敵兵を一手に引きつけるほどの火力も必要となる。全員の戦力を把握していない以上、選抜はセーレンに任せる。敵兵を一掃出来たらさらに挟み撃ちができるような陣形を組みたいと告げる。
「分かった、ここは私が受け持つ。お前と、ファーネ、シャランの三人は奴を叩け」
そう言うと、シャランに目線で合図を送る。
私達も身を潜める合図を待つ事にする、このまま動けばこちらの動きが筒抜けになるから。
奥に隠していたゴーレムにも指示を送る、これから起きる混乱に乗じて奇襲をかけさせる。
その隙に、私たちが回り込む算段だ。
セーレンが、その場で激しく周り始める。その勢いは徐々に増していき、竜巻を生み出す。
「[
それが合図となる、私もゴーレムを指示して敵兵の中に突撃させる。敵兵に竜巻が襲いかかり、その後ろからゴーレムが迫る。
場は乱戦ではなく大混戦となっていた。
この隙に、私たちも移動を開始する。シャランが先行を走り、それを追いかける。木々の隙間を縫うように走り抜け見つからないように、大回りをする。
この状況であれば、気づかれる事もない。
敵の後ろに回り込むことが出来た、まだこちらに気づいていない様子、ここからなら先制攻撃を仕掛けることができるが、生半可なものじゃ効きはしない。
前回のように、シャランが矢に力を込めると言うので、それと同時に飛び出す。ここが、正念場となるだろう。
二人は呼吸を整える。
『おや、気配を感じるど』
「なっ、こちらが気取られたのか」
『隠れてても無駄だど〜』
ドエンが大きく息を吸い、腹を膨らませる。
何かを吐き出すつもりだろうか、もう居場所はバレているのだろう、完全にこちらを向いていた。
吐き出されたのは溶岩だった。赤くドロドロした液体を口から勢いよく吐き出してくる、辛うじて木を盾に防ぐ事ができたが、木々は燃え、私たちの姿が露わになる。
『やっぱりいたど、こそこそ回り込んできたな』
「ちっ、先制攻撃とはならんか」
「僕が前に出る」
「私も続きます」
大剣を両手で構え、ファーネが飛び出す。
それを阻むかのように、ドエンが口からマグマの小さい塊を何発も吐き出す。先ほどよりは速度もあり、まるでマシンガンのように撃ち出される。
臆する事なく、大剣を盾にしながら突き進んでいく。
私も後に続き、弾道を予測し躱しながら駆け抜ける。
『な、何故溶けない!?』
ファーネは目前に迫っていた。大剣を大きく振りかぶり、走って来た勢いを剣に乗せ、吐き出された溶岩ごと斬り裂く。
ギリギリで後ろに避けられたが、体に大きな傷を与える事ができた。その隙を狙って、私は槍を投げ込む、そこにシャランの風の矢が追い風となって合わさり、一つの大きな槍を形造り襲いかかる。
見事に放たれた矢は腹に突き刺さり、そのまま奴を吹き飛ばす。勢いを殺す事なく、地面に叩きつける。
「僕の爺が造ったこの大剣は世界一や、お前の口から吐いたもんで溶けるわけないやろがい!」
「奴はまだ生きているはず、油断しないように」
動く気配がない、死んだのか。もしかしたら、ゼンエンとやらがかなり強い部類のやつだったのでは。
これなら、これから来る八獄衆とやらも脅威では無くなるのではないだろうか。
『い゛だい゛ぃぃぃぃ!い゛だい゛、い゛だい゛』
「はっ?」
まるで子供のように呻き声を上げている。死んではいなかったようだ、また奴は生きている。
、。わ
『ゼンエンの兄貴!こいつらだね!?こいつらが兄貴をどうにかしたんだね!オラ頑張るど!』
そう言いながら、立ち上がる。腹に刺さっていた槍は燃えて灰となり、傷口からは溶岩が溢れ出している。
まるで、子供が泥遊びをするかのように、傷口から出てきた溶岩を手で丸め始める。
「ま、まさか…」
大きく振りかぶり、その溶岩の玉をこちらに投げつける。先程とは比べものにならない位の勢いで飛んでくる。当たることは無かったが、木に当たると、激しい爆発音と共に溶岩が爆ぜる。
そこに気を取られていると、今度は巨大な手の形を作り始めていた。完成するとそれを手にはめて、動かし始める。
『いくどーっ、お前ら生かさねえど!』
横から薙ぎ払われるように、巨大な溶岩の手が襲いかかる。私たちの逃げ場が無くなるほどの大きさで。
「みんな伏せて![複合弓]!!」
シャランの山から放たれた矢は、溶岩の手に当てると大きな水飛沫を上げながら、手に大きな穴を開ける、そのおかげで溶岩の手は、頭上を大きく空振っていく。
『あれ?お前ら!何で生きてるんだど!』
「私たちはね自然と共に生き、自然の力を借りてるの、それに私の知識を合わせれば混ぜ合わせる事だってできるのよ」
「なるほど、水と風を合わせて拡散させた訳ですか」
「そう何回もできる物ではないけどね」
今度は地団駄を踏み始めた、思い通りにいかない子供のように、駄々をこね始める。
『許さないど!兄貴の仇、ここで晴らすど!』
今度は、口から一気に溶岩を吐き出していき、その溶岩は勢いを増しながらも、止まる事なく出続ける。
吐き出された溶岩は、ドエンの全身を包んでいき、徐々に大きくなっていく。その大きさは周りの鍵と同じぐらいまで大きくなる。
「これは、冗談でしょう」
見上げなければいけないほどの大きさ。
それに加えて、全身が溶岩でできている。触れた端から木々が燃え盛る。
『ドエン様!どうかおたずげお゛ぉぉ!』
『あ゛づい゛、だずげで!!』
『う゛わ゛ぁぁぁぁあ゛!!』
もう味方などお構いなしだった。その大きさに巻き込まれた、敵兵達でさえも燃え盛る。
エルフ達は、間一髪で逃げるように散って行った。
ここまでくると、私も逃げ出したくなる。だが、逃げたところで解決する物でも無い。
何とかしなければ、この森は焼け滅ぶ。
「シャラン!大丈夫か!」
「お母様もご無事で、皆は!?」
「既に逃したよ、私は三人を探してここに来た」
「セーレン、これはどうしましょう」
「やるしかないだろう、突破口を見つけるまで攻めて、攻め続けるしかなく」
「わかりました、やりましょう」
私たちは巨大な溶岩の怪物を前に構える。
果たして、無事に倒すことができるのだろうか。
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