【第37話】未来の為の別れ
私の腕が元に戻った。これで、また力になれる。
そう想いながら、拳を強くにぎる。
違和感もない、動作にも問題はない。
「どう?問題ない?」
「はい、問題ありません完璧です…」
「ほぉ、見事なもんじゃのぉ〜、これが戒族の遺産とやらか、完全にどう見ても腕じゃの」
「はい、これで武器も握れるようになりました」
「これからまた頼んだぞ」
そう笑いながら私に答える。
勿論です、私には皆様の力になるしかありませんから。その先はまだ見えなくても今、目の前で起きている事を全力で解決させて頂きます。
そう自分自身に誓いを立てる。
「ところで…何故、お主は尻尾を触っておる」
「えぇ〜、頑張ったからご褒美頂戴よ〜」
「うっ、そう言われると無下に出来んの…」
コハクは諦めたのか、そのままシャランに尻尾のと耳をいいようにされている。
全身で楽しむように、触り散らしている。
その光悦の表情は、コハクを引き顔にしていたが。
「あ、そうえばコハクさんは何故ここに?」
「腕の事もそうじゃが、お主らの技術についての…」
「もしかして、どうするか決まりましたか?」
「行き過ぎた力は破滅を産む…確かにその通りじゃ、お主らの力を使えば戦力は一気に拡大するのじゃな」
「はい、間違いなく」
「なら答えは一つじゃ、その力を貸してくれ」
あれから、セーレンと協議していたらしい。
この戦いの行く末に待つ、破滅をもたらさないようにどうすれば良いのかと。
力を永久に葬る選択肢もあったが、それではこの戦いに犠牲者が多くなり、勝ったとしても後がないと。
私たちの技術で、戦力を増強。
そうして生き残った者たちは、代々に渡ってその力を悪用しないように守り抜くと。
必ず、皆で生き残り後世に繋いでいくと。
「わかりました、私は皆様に力を貸します」
「私も手伝いまーすっ!、ナディのメンテナンスを出来るのも私だけだろうしね?」
「ありがとう、二人とも…妾達を助けてくれ」
これからの進むべき道が見えた。
私の技術を最大限活かして、この世界を変える。
皆が笑って過ごせるように、皆の理想郷を作る。
前にも考えた事だが、ここまで明確に考えていたことでは無い。
それが今では、私の役割もできた。
やれる事も、考えうる事も出来ている。
時間は無い、早速行動に移す。
「わかりました、それでは一旦ここでお別れですね」
「え?どういうことじゃ?」
「コハク達は一旦竜族の里へと戻らないといけないですよね、各種族の王が集められているかもしれない」
「それと、別れることは何か関係があるかの?」
「はい、私は別行動を取ります。あの砂漠地帯、戒族の跡地に私の研究施設を作り上げます」
そう、これから私の世界の技術をここに持ち出すのだ。かなりの設備と時間がかかってしまう。
それなりの土地が必要となる。
幸いな事に、あの土地には何も無い。
それにシャランも付いてきてくれれば、何とかなる。
「なるほど、あの場所に…」
「コ、コハクさん!僕も残るで!」
「ファーネ、お主も残るのか?」
「うん!こっちで学びたい事が沢山あるから!」
コハクは腕を組みながら悩んでいる。
どうするのが一番効率がいいか、考えている。
預かったファーネを置いていくのも心配だろうか。
「わかった、グロガルには上手い事伝えておく」
「やった!ありがとう!!」
「構わん、ナディ…よろしく頼んだぞ」
「はい、お任せください」
ここでコハクとは一旦お別れとなる。
諸々が決まると、早速コハクは荷物をまとめる。
タルトーは付いていくらしいが、クベアはここに残りたいと懇願していた。
だが、タルトーが無理矢理連れていくのと、風龍の鱗と爪の加工があると、渋々付いていく事にした。
私は見送りに来ている。
「ナディ、一旦お別れじゃ、また会おうぞ」
「はい、近いうちに必ず」
「あ、そうじゃ」
コハクは懐から一つの箱を取り出す。
それを私に預けるとの事で渡してきた。
それは、戒族の魔王心らしい。こんな大事な物預かれませんと伝えたが、無駄だった。
「お主に預けるのが良い…直感じゃがな」
「分かりました、一旦預かります」
そうして、私は戒族の魔王心を預かる事になる。
一つだけなら[
この魔王心は行き場をなくしているとしても、私がかならず人族から守り通す。
そして、コハク達は森を後にしていく。
また会える、そう信じて。
「さて、シャラン、ファーネ…これから大仕事となります、お力を貸して下さい」
「もちろんっ」
「こちらこそ!」
二人がいれば心強い。元の世界の私たちを作り出した技術者の娘、独学でこの世界で似た元を作り出そうとしていた、それに私のエネルギーを補充してくれる。
さて、何から作っていこうか。
作らないといけない物が多すぎる、効率よく戦力を拡大させていくのに必要なのは。
「人手作ろっか」
「人手ですか?」
「そうですね、私もそう考えていました、単純作業をこなせて、かつ低コストで作れるゴーレムを」
「材料は腕の残りと、私の部屋にある分で大丈夫」
「ありがとうございます、それでは早速ゴーレム作りに取りかかりましょうか」
そうして、必要な材料を集めていく。
必要なのは、泥、土、魔石、これだけだ。
とりあえず実験も含めて、気軽な材料で初めていく事にする。これが成功すれば、体の部分を木で作ったり素材に余裕があれば金属でも作れる。
これは、あの本にも記されており。
成功したと記されていたものでもある。
そうして私たちは三体のゴーレムを作成させる。
簡単な命令なら、指示通りに動く事も出来た。
結果としては上々だろう。このゴーレムの数を増やしていき、あの砂漠地帯に拠点を構える。
そこで武器や兵器を開発していく。
あそこが拠点となれば、この世界の叛逆の旗印ともなるのではと考えている。
かつて滅ぼされた、戒族の意思を継ぐ意味も込めて。
引き続きゴーレムの作成に取り掛かっていると、森の奥の方で爆発音が響き渡る。
それも一回ではなく、数回に渡って。
異変を感じた私たちは、作業を中断し奥の方へ向かう。
爆発音のした場所に向かうと、森が燃えていた。
エルフ族が続々と集まって来ている、遅れてセーレンも到着したらしい。
事態の状況は未だ不明だった。
「ナディ、何事じゃこれは!?」
「すみません、私も今来た所で…」
すると、燃え盛る森の方から大軍が押し寄せていた。
人族が攻めてきたのだ、数は百人ほどか、奴らが森を爆破し、燃やしながら進んでいたらしい。
「何奴!ここまでするのだ、殺されても仕方ないとわかっているのか!!」
すると一人の兵士が前に出て声を荒げる。
『
「ふざけんなや…今まで私たちが…」
セーレンの拳から血が滴っている。
拳を強く握りながら、今までの思いを堪える。
だが、私たちにもう我慢は必要ない。
すでに、敵対すると決めていたのだから。
「
セーレンは握っていた弓を高らかに掲げ宣誓する。
それに合わせて、森の各所から雄叫びが上がる。
士気は上場、この森ではエルフ族の方が有利だろう。
私も戦えるようになったのだ、簡単に負けるはずがない、と思っていた。奴が奥から出てくるまでは。
『おい待ってくれよ〜、早いよ歩くのが』
「一風変わった奴が出て来たな…油断するなよ」
『はっ!すみません、“ドエン様”!!」
先ほどの声を上げていた兵士が、敬礼をしながら話している、この軍の一番偉い奴なのだろうか。
丸々と太った大柄な男性と言った感じだが、偉そうには見えない。
『で?ここを滅ぼしたらいいのだら?』
『はっ!我らも微力ながら、力添えをさせていただきます、先ほどの爆撃を奴らにお見舞いしてやりましょうぞ!』
「あいつが、この森を焼いたのか…」
先手必勝。素早く鉉を引く。収束した風は、空を裂きながらその男を目掛け放たれる。
矢は男に当たるが、風は散り、傷すら与えていない。
『びっくりしたなぁ〜もぉ〜』
『なんという狼藉!万死に値す!』
「なんと、無傷か…それなりに力を込めたが」
『ここにおられるは八獄衆が一人、【ドエン】様であらせられるぞ!』
「出たな…八獄衆、コハクに聞いていたが、中々に骨が折れそうなやつだな」
「気をつけてください皆さん、あの見た目に惑わされないようにしてください」
まさかの人族からの来襲。
その中に八獄衆の一人が混ざっているときた。
これは、ただでは済まない。激戦となるだろう。
さて、生き残ることは出来るのだろうか。
纏を使えるコハク達はもういない。
作戦を練るのだ、全員が生き残るために。
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