【第36話】腕の再現

私たちはそれぞれ部屋に戻り、一晩休む事に。

さすがに、森の中を駆け回ったのだ疲れたのだろう。


ファーネはこのまま、制作に取り掛かりたい勢いだったが、シャランが止めていた。


急ぎすぎてもいい物は出来ないと。


そう言われて納得したのか、大人しく休む事にした。

明日はいよいよ、腕の作成に取り掛かるらしい。

そして、戒族の遺産、私たちの技術についても。


どのような判断を下すのだろう。

使わないにしても、私は私に出来る最大限の力添えはしていくつもりだ。

腕が治れば、戦いにも参加できる。


人族との全面戦争もこれから始まるだろう。

そこに参加して、私たちは勝利する。


…その先は?


その先に、私は何をすればいいのだろうか。

元の世界に帰る方法をさがす。

それが見つかればいいが、見つからなければ。


私にとっての生きる意味とは。


その先は見つからない。

“アンドロイド人権宣言”を掲げた時だって、その先の事は考えが思いついていなかった。

将来についてのシュミレーションは、何通り、何百通りと行っていたが。

果たして、私のやりたい事なのだろうか。


そう考えた瞬間に、思考が止まる。

処理が落ちると言った方が正しいだろうか。


原因が何かもわからない。

単なるエラーなら、簡単に解決できるが。


「ナディ、朝やでー!いくで、腕作りに!」


気がつくと、ファーネに声をかけられていた。

いつの間にか朝を迎えていたようだ。


「わかりました行きましょう」



皆はそれぞれ用事があるらしい。

クベアだけが、タルトーに引っ張られている。

また地獄の訓練が始まるのだろう。


私とファーネはシャランの元へと向かう。

ずっと我慢していたのだろう、急ぎ足になっていた。



シャランの元へと到着すると既に、素材が並べられていた、準備をしていてくれたようだ。


「おや、来たか」


「はい!お願いします!」


私の腕を作る工程を話し合っていく。

元の世界で使っていた材料は何も無い。

この世界での再現となる、実験めいた事にもなる。


「この本を元にすると、岩沼亀の甲羅を砕き骨格を形成、その上に沼蛙の皮を被せて腕を形成していく」


「そうして出来上がった物に、ジェリープラントの蔓を通していくと…これを神経代わりにするようですね」


「そうだね、取り敢えずこの通りに作るか」


そうして、ファーネが甲羅を砕いた。

元々力もあったのか、かなりの勢いで砕いていく。


砕いた甲羅を、溶鉱炉に入れていき溶かす。

かなりの熱量らしく、二人は汗だくになっていた。


甲羅を溶かすのに時間がかかるので、その間に腕のベースを形作っていく。

粘土のような物で形成された物に流し込むらしい。


まさに腕の形を作っていく。


骨格というよりは、骨組みのように組み上げるそう。

パーツがいくつかに分かれており、後で組み立てる。


「あれ?術式で作らないんっすか?」


「ん?あぁ、私たちには魔心が無いからね…」


「あ、なるほどっす…」


出来た型に、溶けた甲羅を流し込んでいく。

見事に、腕のベースが出来上がっていく。


流し終えたようで、固まるまでは時間がかかるそう。

半日はかかるようで、その間に沼蛙の皮をなめす。


「ここからはどうしますか?」


「とりあえず終わりだね、待つしか無い」


「そうなんや…待つしか無い…」


ファーネが少々残念そうにしている。

そうして、今日一日が終わっていく。


次の日には、型から溶け固まった甲羅を剥がし、沼蛙のなめした皮を貼り付けていく。


そうすると、見事な腕が完成する。

色味も合間って、人の腕に近い。


「これは…」


「うん、これは…」


「ナディには合わへんな…」


確かにファーネの言う通り、今の私には合わない。

今回はとりあえず腕だけの予定だ。

人らしからぬ体に、この腕は合わなさすぎる。


とりあえず、出来た腕に蔓を通していく。

ここは、シャランが教えながら進めていく。


今後のことも考えて、練習させるらしい。


まさに針穴に後を通すような作業となる。

半分に分かれた腕の中に、一つ一つを正確に通していき、通し終えたら上から蓋をする。


そうすると、私の腕が完成した。

とりあえずの試作品といったところだろうか。


見た目は完全に、人の腕に近い。

ゴーレムだと無骨な感じになり、正確な動きが出来ないかもしれないとの事だった。

なので、今回は人造体をベースに作った。


ただ、こちらは成功した記録はなかった。

ゴーレムは成功事例が残っていたのだが。


この作成した腕も成功とは限らない。


ひとまずは、蔓をまとめた箇所を握る。

そこにエレクトを流すようだ。


「ファーネ、頼む流してくれ」


「はい エレクト 」


一気に腕を目掛け電流が流れる。

すると、反応があったのか指先が動き始める。


「おぉ!?」


ただそれだけだった。

それ以上の反応は何も無かった。


「駄目でしたね…」


「ごめんなさい、これ以上は無理や」


「う〜ん……」


一点を見つめ考え始める。

改善点を探し、考えているようだ。


「動いてはいるね…」


「はい、そこまでですね…」


「直接繋いでみようか」


「どうやって…繋げるんでしょうか」


「そこなんだよね〜…」


「直接繋ぐのは無理なん?」


「太さも、物も違うからな〜…道具も足りない」


しばらく三人で考え込む。

確かに、電力用の配線と信号を送る配線は違う。


「あれ、そもそもこの蔦はどっちなんですか?」


「え?そりゃ、信号を送って動かして…」


そもそも、あのジェリープラントはどう動かした。

あれと同じ事が出来れば、腕を動かせるのでは。


丸ごと持って帰って来ていたので、一から解剖する。

胴体には特徴らしいものは何も無い。


すると蔓に秘密が?


蔓を縦に割いていくと、中から太めの糸が束になって現れていた。


「おい、ナディ…これはもしかして」


「ええ、もしかするかもしれませんね」


鶴の中にある糸は二色に別れていた。

それぞれを抜き出し、机の上に並べる。


「ファーネ、この後に電気を流してくれ」


「え、これにですか?」


そう言うと、それぞれに手を添え電流を流す。


赤色の糸は、電流が流れると点滅している。

青色の糸に関しては、流れている間は光っている。


「これはもしかするな」


「ええ、この反応は…そういう事でしたか」


「え?え?え?っ、なんなのさ…」


「あ、すみません私たちで解決してしまって」


「いや、いいんや…この糸に何があったんや?」


私は説明を続ける。


「赤の糸が信号、青色の糸が電源の可能性があります」


「それが何か意味があるんか?」


「はい、簡単にいうと赤色で指示を出して、青色がそれを動かすと言った所でしょうか」


「なるほど、役割が違うと」


「はい、なので先ほど蔓に直接電流を流しただけでは、指示が発生しないので動かないのかと」


そう、それぞれ分けて配線を私と繋がれば。

もしかしたら自由自在に動かせるかもしれない。


「でもそのためには今の形では駄目やね」


「はい、この糸を腕に張り巡らせないと」


「よし!少しだけ希望が見えた!」


「勉強させていただきます!!」


「任せといて、ここからは私の領分…」


そうして、蔓から糸を取り出していく。

仕分けを進めていきながら、設計を話し合う。

私の中のデータを元に、再現を目指し取り組む。


骨組みを作り、そこに糸を這わしていく。

その上からカバーを被せる。


沼蛙の皮はやめたらしい。

確かに、完成イメージは気持ち悪くなる。


元の腕とかなり近いものが出来上がる。

糸も見事に配線の、代わりをつとめそうだ。


「さて、繋げていくよ…」


「よろしくお願いします」


ファーネが腕を持ち上げ、シャランが糸と私から出ている配線を縫い繋いでいく。


腕は落ちないように、突起物がついており。

私の肩部分に直接差し込むらしい。

その為の穴も開けておいた。


かなり慎重に、神経を注ぎながら作業を進める。


私の配線が切れないように。

呼吸を忘れるほど、集中しながら。


糸が全て繋ぎ終わると、感覚がする。

腕を通って、指先まで繋がっている感覚が。


そのまま、穴へと差し込み腕を固定させる。


「ふぅーっ…はぁーっ、緊張したー!」


「本当に…凄いな、これは…」


「どう?ナディ、動く?」


私は静かに、ゆっくりと指を動かす。

ファーネはまだ腕を支えてくれている。


人差し指から小指、そして親指まで。

順番に折り曲げては、広げていく。


動く、違和感もない…元の腕のように動く。


そっと、支えていた腕を離してもらう。

それでも腕は落ちることはない。

自分で腕を上げる事も出来ている。


「良かったな、上手くいったな」


「はい、動きにも問題がなさそうに見えます」


「凄いな…ほんまに出来たんや…」


激しく腕を動かしてみるが、取れる事も無い。

動作にも影響はなさそうだ。


「ありがとうございます…」


「いや〜、久しぶりに楽しかったよ!」


「凄いです!勉強になりました!!」


「そうか?何も教えてないけどな」


「いえ!見て盗まさせていただきました!」


「分からんことも多いんじゃない?」


「はい、正直!まだまだ教えてください!」


「よし、もう片方もやるから見ておいて」


「はい!!」


そうして、両方の腕がつけ終わる。

どちらも問題なく動作している。


これで、戦いにも参加することができる。


覗きに来たコハクも喜んでいてくれた。


ファーネには、腕の感覚について質問攻めにあったが。

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