【第25話】 砂漠の跡地

私たちは驚愕した。

人族がここまでやるのかと。

一つの国を潰し、種族を根絶やしに。

それだけでも飽き足らず、美しかったであろう平原を砂漠へと、変貌させるほどの何もかをしたのだ。


誰も口を開かなかった。

最悪の光景を目の当たりにし、開けられないのだ。


「なんと、いうことじゃ…これは…」


「酷い、酷すぎるやんかこれ…」


ファーネはその目に涙を浮かべていた。

幼少期に過ごした地が、こんなことになっていたとは、知る由も無かったのだから。


〈 人族が したことは 我らも みていた 〉


「そんな、そんな、そんな…」


〈 すまない なにもできぬのだ 〉


「ううん、龍種の皆さんは悪くない」


〈 ありがとう 〉


「大丈夫や、余計に決意が固まったわ」


涙を拭い、力強い目を向けている。

人族への復讐を強く想いながら。


そうすると、砂漠の中心へと向かう。

どうやらコンパスが目的の場所へ指しているらしい。

サラカントも、そこへ向かうように降りていく。


地面に降り立つと、何も残っていなかった。

草木や生き物さえ、何も残っていない。

そこに誰かが住んでいた形跡は、何も無いのだ。


〈 我が できるのは ここまでだ 〉


「十分すぎるぐらいじゃ、ありがとう」


〈 かまわんよ 頑張れよ 〉


「おう、ゴルマイガ様?にも宜しくと、ありがとうと伝えてくれると、ありがたいのじゃが…」


〈 大丈夫だ それに 様は不要だ 我もな 〉


「かたじけない、サラカント…またの」


〈 あぁ また いつか 〉


そう言うと、再び翼を動かし飛び上がる。

上空へと舞い上がっていき、去っていく。


「ん?」


よく見ると、飛び立った跡に鱗が数枚と、爪が落ちていた。


「お、おぉーい!!これは!」


叫ぶが声は届かない。

届いていないふりをしているのだろうか。


ゴルマイガの手前、渡さなかったので、ここで落ちてしまった事にしたようだ…と、そう解釈する。


「これはこれは、貰いすぎだの…本当に」


「おぉ…儂に、儂に任せておけ……」


タルトーの目がヤバい事になっていた。

危険を感じたコハクは、クベアに渡す。


「お主が、ウィンドじゃろ?だから、これはお主が責任を持って預かるのじゃ」


「わっわわわ、こんなの持てないですよ!」


「また戻れば、タルトーとグロガルに加工をお願いせい、お主の物なんじゃからな」


「そうだぞ!クベア!儂に任せておけ!!」


「う、うぅぅう…分かりました、頑張ります」


あまりの貴重な素材に、気後れしているみたいだ。

タルトーは、相変わらず龍の素材をどうするか、だだそれだけしか考えていない様子だった。

職人としての何かが、そうさせるのだろう。



さて、戒族の遺産への入口探しだ。

コハクの持つコンパスを目印に、歩き始める。


何度か方向を変えながら、針の向く方へ歩く。

砂に足を取られ歩きにくいが仕方ない。

ただ、建物らしき物は何も見当たらない。

蜃気楼でも起きているのだろうか?

と思うが、センサーには何の反応もない。


暫く歩いていると、コハクが立ち止まる。


「お、おいお主ら見よ」


コンパスをこちらに向けてくる。

覗くと、針がどこを指すでもなく回転していた。


「こいつはいったい?」


「もしかして…」


「あぁ、ここが目的地じゃろ」


辺りを見渡すが何も無い。

見渡すばかり、砂漠が広がるだけだ。


「おかしいのぉ、おいファーネや何かわかるか?」


「すみません、何も…」


「そっか、全員!その辺を探してみようかの」


そうして私たちは四方に散り、地下への入り口を探してみる。

その辺を掘り起こしたり、踏んだりしながら。

だが、何も見つからなかった。


「ふむ、どうしようかの…」


「すみません、うちの爺さんが、もう少し詳細を伝えたら良かったのですが、いつもこうで」


「今更言っても仕方あるまい、何か見つけぬと…」


「あの、ここを中心に風で吹き飛ばしましょうか?」


クベアが提案する。

風の術式を用いて、砂をどかせば何か出てくるかもしれない、との考えだった。


「うむ……頼めるか?」


「はい!それでは皆さん、近くに寄って下さいね〜」


私たちは、クベアを中心に集まる。

嵐の中心は静かというが、その事だろう。


《 風ノ渦ウィンド・ヴォルテックス 》


そう唱えると、クベアを中心に風の渦が出来る。

だが、かなり大きくなっている様子。


それはたちまち大きなものとなり、竜巻と成る。


「は、へ?」


「おい!クベアよ!やりすぎじゃ!死ぬぞ!」


「ち、違いますー!」


規模としてはそこまで大きくは無いが、確かに竜巻が形成され、周囲を吹き飛ばしていた。

砂は巻き上げられ、周囲に散っていく。


地面が剥き出しになる程だった。


しかし、一番驚いているのはクベアだった。


「お主、やりすぎじゃ…」


「違うんですって、姐さん!ここまででは………。

確かに、周囲を吹き飛ばそうと目一杯まで力を込めましたが、今までこんな事には…」


「にしてもやり過ぎじゃ」


「もしかして、サラカントの素材では?」


タルトーが予想を話す。

サラカントの素材が術式を補助し、威力を底上げしており、先ほどのような竜巻を発生させたのではと。

それなら納得できるらしい。


「それぐらいはありえそうじゃな…」


「こ、怖いね……」


「なに!作るものと、使い手次第じゃ!任せておけ」


先ほどから任せておけしか言ってない気がする。

どれだけ、あの素材を使いたいのか。

本音がダダ漏れだ。


するとファーネが何かを発見する。

剥き出しになった地面の一部が、鉄でできていた。


四角いそれは、扉のようなものだった。


「これは………もしかして……なんで…」


「おい、何か知っておるのか?」


「あ、はい、この扉は開けれます」


そう話すと、四角い鉄の扉に手を当てる。


「開け 隠されたその入り口を示せ 望む者だけを」


そう話すと、振動と共に扉が動き始める。

横に動き続けた扉が完全に開く。

それと同時に、振動も止んだ。


そこに現れたのは、地下への階段だった。


「おぉ、すごいの!合言葉かの!?」


「う、うん…僕が最初に作った扉なんだ…」


「それってどういう…」


「分からない、何故ここにあるのか、誰が設置したのか…とりあえず降りてみよう」


ファーネが先に降りていく。

私たちも後をつけるように、付いていく。

中を通っていくと、明かりがついていた。


私は見覚えがある、電球のようなものだった。


どうしてこんなものがここに。


「すごいの、明かりまでついておる」


「うん、これは戒族の技術だよ、門外不出とされててね、ここだけのものだったんだ」


「仕組みはさっぱりじゃが、すごいの…」


そうして階段を降り進んでいく。


すると、降りた先にまた扉があった。


「お、またファーネの番じゃな」


ファーネは固まっていた。

その扉を見た途端、動かなかった。


「おい、ファーネや?どうしたのじゃ…」


「なんで、どうして…これがここに…」


突然、その場で泣き崩れた。

私たちには理由もわからない。

この扉が何を意味するのか。


この先に一体、何が眠っているのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る