【26話】戒族の遺産は本の中に

ファーネはその場で泣いていた。

その涙が何を意味するのか、この扉はなんなのか。


私たちは声をかけずに見守る。

なにを話せば良いのか分からないからだ。


暫く待つことにしていた。



「すません、もう大丈夫…」


「聞かせてくれぬか?この扉は一体…」


昔の話を始める。

かつて、グロガルと一緒にこの地に流れ着いたと。

両親を殺され、親代わりをし、守りながらこの地に。


二人で生きて行くのは大変だったが、ずっと助けてくれていた人がいたこと。

その人から、色々な事を教わった。

戒族の技術や、物の作り方など。


毎日が楽しく、幸せな日々だったと。


「入口の扉は、僕が一番初めに作ったんよ」


「それで開けれたのか」


「うん、そしてこれは、最後に作ろうとした扉」


「作ろうとした?」


「うん、理由は分からないけど、止められたんだ」


「それが、ここに…」


「なんでだろうね、この扉を見ると、不思議と涙が溢れてたんだよ」


そう話していると、扉に手を当てる。


扉の上から、レーザーのような光が照射され、ファーネの胸元に当たる。

私たちは慌てて止めようとするが、大丈夫なようだ。


手をこちらに向け、止まるように言われる。


しばらくして、光が消えて行く。


「だ、大丈夫かの?」


すると、扉が音を立てながら開いて行く。

両開きに開かれる扉は、次第に奥の部屋を現す。


そこには、何の変哲もない六畳ほどの部屋がある。

埃は被っていし、綺麗だった…でも、何もない。

あるのは机と椅子、そして机に置かれた数冊の本。


「これが、戒族の遺産ですか」


「うむ、何もないの……と、あの本か?」


中は狭いので、タルトーとクベアには外に出てもらい、念の為に周囲の警戒をお願いする。


「ファーネや、何かわかるかの?」


「うん、わかるよ……」


部屋の中へと入っていき、本を手に取る。

ページをめくり中身を読んでいた。

私たちは、それ以外に何かないか、部屋の中を物色していく。


壁などを触りながら探してみるが、何もない。

あるのは、ファーネの手に持つ本のみだった。


「なんもないの…遺産とはこの本かの?」


「かもしれませんね」


「うん…せやね、これや」


「お、何かわかるのかの?」


ファーネは本を閉じこちらを向く。

その頬には涙が伝っていた。


「戒族の技術の基本全てが、この本に詰まってる」


「まことかの!?」


「うん、間違いないね」


コハクが声をあげて喜ぶ。

目的の物が見つかったのだ、それはそうだろう。


「こんな本にのー…内容は分かるのか?」


「ううん、僕にはまだ理解できないや」


「となると、ナディの番じゃな」


そう言うと二人が私の方に顔を向ける。

コハクは喜んでいるが、ファーネは少し暗い。

残されたものを見つけたのに、嬉しくないのか。


私は、本を見せてもらい内容を確認する。


内容は、すぐに理解できた。

理解できたと言うより、知っていたと言う方が正しいのではないだろうか。


「どうじゃ?どうしゃ?、どうなんじゃ?な?」


「分かるやろか…この内容」


続けてページをめくってもらう。

やはり、どのページも知っているものだ。

何故なら、私の世界の本だから。


表紙をいくつか見せてもらうと、


“アンドロイド教本”

“科学について”

“ロボット工学”

“伝達と信号の仕組み”


などなど、知っている単語が並んでいる。

ありえない、この世界でこの本は。


一体どこから、誰がここに。

それに内容は古い物ではない。

比較的新しいものばかりだ。


私のデータの中身と照らし合わせるが、間違いない。

これは、この目の前の物は、私の世界の本だ。

それも比較的に最新の物ばかり。


「おいおい、ナディや、壊れておるのか?」


「もしかして、ナディでも分からんとか?」


それよりも、今までの話しを逆算していくと、戒族の国が滅ぼされたのですら数年、数十年前の話だろう。

勿論それよりもっと前に、この技術は確立されていたはずだ。


時間軸がおかしい。


最近に召喚された私と、この本が近いしい事が。



そして、その中の一冊に他と違う物がある。

明らかに手書きで書かれている物だった。


「あ、それは……」


「どうしたのじゃ?」


「僕を助けてくれた人が、ずっと大事にしていた本」


その本の中身は、自身で考え、実験を繰り返された事が何ページにも渡って記されていた。


文字も絵も理解できなかったのだろう。

何度も何度も実験し、描かれている。


この世界での素材を使って、この本に書かれている内容を再現しようとしたのだ。

意味の分からない内容を、長い時間をかけて。



「この内容ですが、全て理解できます」


「おお!?まことか!」


「えっ、うそ……」


「一部、試行錯誤を繰り返さないといけない事も残ってはありますが、大丈夫です」


「そっか、そっか!宜しく頼んだぞ!」


「はい…」


大きな謎が残る。

どうやってこの世界に渡ってきたのか。

何故、これがここに残されていたのか。

私がこの世界に召喚された意味って……。


「ではでは、行こうかの!」


「はい」


「うん」


ファーネがずっと暗いのも気になる。

コハクも気づいてはいるが、触れないでいる。

待つしかないと、話してくれるまで。


私たちは階段を上がっていき、上へと戻る。

思えば、この明かりも私の世界の技術なのだろう。

通ってきた、自動扉の様なものでさえ。


ここにある全てが。


しばらく上がるが、外からの光は見えなかった。

もう夜になっていたのか。

時間的には、まだのはずだが。


すると、扉の外から何かが衝突する音がする。

激しい爆発音と共に。


「おい、急ぐぞ!」


急いで、入った来た入り口を飛び出す。

周囲は土煙が上がっており、周りが見えない。

この土煙のせいで、光が入らなかったのだ。


探索/検索スキャンをすると、近くに二人がいることを確認できた。


コハクにそれを伝え、二人の元へ駆け寄る。


「おい、お主ら!これは一体!?」


「姐さん!来ちゃだめだ!!」


すると、目の前が爆発する。

その衝撃と共に、後ろに吹き飛ばされた。


爆風により土煙も散ったのか。

徐々に視界が開けてくる。


「ごほっ、ごほごほ……なんじゃ一体…」


「姐さん!無事ですか!」


「おぉ、お前らも無事か、大丈夫か!?」


「うん、大丈夫や」


「おい、クベア、何が起こっておる」



『おいおいおい!また増えたんじゃねぇかよぉ!熱くなってきたなこの展開!!』



視界が開けた向こうに、人影が見える。

その人影が。こちらに向かって火の玉を放ってくる。


それらを辛うじて躱していく。


「すみません姐さん!僕にも何が何だか…」


「おい!お主、何者じゃ!!」


『何者だって!?関係ないだろ!こんなだけ熱くなったんだよ!殺り合うだけだろうがよ!』


「話の通じぬやつじゃな」


「ずっとあの調子で」


『燃えるんだろ!熱くなれよもっと!』


話しをする事が出来ないらしい。

こちらに敵意を向けているのは間違いないが。


腕を上げると、火の玉が噴き上がる。

それを投げるように、こちらに飛ばしてくる。


飛ばされた火の玉が、地面に着弾すると爆ぜる。

先程までの音や、爆発はこれが原因だ。


『おいおい、元気だな!当たっとけよ!』


「訳のわからんやつめ…おい、あんな奴にここで殺されるわけにはいかぬぞ!」


鞘から刀を抜き、構える。

それに合わせて全員が戦闘体制に入る。


『良いねぇ!さっきみたいに逃げ回るなよ!受け止めるんだよ!熱い気持ちをぶつけてんだからさぁ!』


「なにをまた、訳のわからぬ事を…」


『さぁさぁ!熱く昂ぶろうぜ!焦熱の殺し合いだ!』

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