【第23話】 - 【地龍】 ゴルマイガ -

突如として現れた、地龍ゴルマイガ、災いにして災厄、私たちにとって、運に見放された瞬間だった。


「全員、気を緩めるなよ…常に張り詰めておけ」


私たちには、戦うしか選択肢がなかった。

逃げる道は無く、残された道にはゴルマイガが、立ち塞がっているのだから。


恐怖で身が動かなくならないよう、全身に力を込め、手に持つ武器を強く握り締める。


先に動いたのはゴルマイガだった。

四足で立っていた、前足を大きく振りかぶる。

金雲母の鱗と、鋭い爪を見せつけるように。


振り下ろされた先が裂ける。

その勢いに乗せ、地面が爪の筋で裂き割れる。

辛うじて全員が身を避け、かわしていく。


「はっ、腕を振り下ろすだけでこれかの」


「どう攻めたらいいのかもわからんな!」


「鱗も硬いでしょ、あれ…」


「やばいやんこれ」


「妾とファーネは前に出て攻めに転じる!クベアは遊撃としてサポートしながら動き回れ、タルトーは後方から援護を頼む!万が一の時はファーネと変われ!」


コハクは即座に作戦を組み立て、指示を出す。

各々が言われた通りに散り、動き始める。


火力のある二人が攻め続ける、その周りを駆け回りながら隙を探していく。

魔道具と術式を用いて後方からの援護、火力もあるのでファーネの限界がきたら交代という事らしい。

作戦としてはいいが、相手が相手だ。

上手くいくといいが。


私はデータを集め、行動を分析していく。

何かのタイミングで力になれるように。

その時が来たら、すぐに伝えれるように。


「がはははっ!これでも食らわんか!」


タルトーが先に仕掛けた。

ハンマーを回転させながら、柄を地面に刺す。


《 水ノ魔弾ウォーター・バレット 》


空気中に水の塊が集められ、それを圧縮。

硬度を保ったまま放たれる。

木などを貫通する威力だが効かない。

地龍の鱗に当たると弾かれ、何も影響はない。


「かってぇのぉ…」


《 水ノ拘束ウォーター・バインド 》


続けて術式を唱える。

四肢を螺旋状に登る水が絡みついていく。

腕を突き出し、手を握りしめる。

その動きに合わせて、水も固まり留まる。


「せめて動きは封じさせてもらうからの」


それを見越してコハクとファーネが、走り始めていた。


「ファーネ!斬るぞ!」


二人が分かれ、側面へと回り込む。

地面を蹴り、横腹目掛け飛び込んでいく。

コハクとファーネは剣を両手で握り、力を込める。


「「うあぁぁぁぁぁああああっ!」」


振り放たれたは、硬い金属音にぶつかる音を上げ、傷をつける事なく阻まれてしまう。


「なんと、無傷かの」


「かってぇなこの鱗、なにで出来てんねん」


クベアも隙を見い出す、目を狙って刀を構える。


《 風ノ刃ウィンド・ブレイド 》


振り切った刀から放たれる、風の刃。

見事に目に直撃するが、ここも無傷。

瞬時に瞼を閉じ、防がれたのだ。


「駄目っすか…」


全員が一通りの攻撃を与えたが、分かったのは圧倒的な防御力と、先ほどの腕を振るっただけの威力。

勝てそうにない事を、再認識させられる。


タルトーの腕が震え始める。

拘束を抜けようとしているが、なんとか抑える。

が、長くは持たなかった。


ゴルマイガが大きく手足を振り解き、動く。

またしても咆哮を放ってくる。

まるで、『無駄だ』と言わんばかりに。


振り下ろされた足で、壁や地面は裂き割れていく。

ただただ足を振るだけなのに、誰もが絶する威力。


「どこかに活路があるはずじゃ!諦めるな!」


コハクはその猛攻を掻い潜り、体の至る所を斬り続ける、それに合わせるようにファーネとクベアも隙を見つけながら斬りつけていく。


どこかに弱点はあるはずだと。


生物である以上、どこかに。


タルトーが懐から丸いガラス玉を取り出す。

それをゴルマイガ目掛け投げつける。

当たって割れたガラスの中から、大量の水が溢れ出し全身を覆っていく。


「もう一丁!《 水ノ拘束ウォーター・バインド 》」


両腕を突き出し、拳を握り固める。

先程までとは違い、全身を固め抑えつける。


クベアのそばにコハクが駆け寄り、二人は集中する。


ファーネは、全身を覆っている水に手を当てる。

《 電ノ流撃エレクト・フロウィ 》

激しい音が鳴り、電流が全身を駆け巡る。

水は電気を通す、このまま焼き焦がさんとする。


少しは影響を与えたのか。

呻き声を上げながら、暴れ始める。

拘束は解け、ファーネが吹き飛ばされる。


上手く受け身を取り、離れされる。


コハクとクベアは術式を練り込んでいた。

拘束が解けたその瞬間を狙い放つ。


 火風ノ魔弾ファインド・バレット 


風で火力を上げ、風の速さで放たれる。

その火は勢いを増しながら、直撃する。

激しい爆発音と共に、ゴルマイガが怯む。


怯んだだけだ、体には傷らしい傷が見当たらない。


「これでもダメかの…」


「姐さん纏って総攻撃しかけますか」


「まだ待て、今はまだ焼石に水じゃ」


消耗も激しく、一度発動したら暫く使えなくなる。

削れきれなかった時を懸念しているのだ。


あの硬さと巨躰から放たれる斬撃、それだけでもかなりの脅威なのだが、何かが引っかかる。

まだ何かを隠しているような、そんな気が。


すると、不安の一端が顔を見せ始める。


頬を膨らませ、口を閉じこらえ始めたのだ。


コハクもそれを見て異変に気づく。


「警戒せよ!何か来るぞ!」


こらえた口を一気に解き放つ。

口の中からは、無数の岩石が飛び出してくる。

まるで崖崩れのように、勢いづけながら。


《 風ノ渦ウィンド・ヴォルテックス 》

《 水ノ渦ウォーター・ヴォルテックス 》

《 火ノ渦ファイア・ヴォルテックス 》


それぞれが渦状の盾を形成し、これを防ぎきる。

防いだとはいえ、かなり危なかった。


「はぁー、はぁー…危ないの…」


「土龍とは聞いておったがまさか…」


「そのまさかですよね」


そう、土の術式に似た何かを使い始めたのだ。

様子見を終えたのか、本気を出してくる。

これで皆が迂闊に近づけなくなった。


攻めあぐねていると、また動き出す。

巨躰を大きく持ち上げ、前足を地面に叩きつける。

ゴルマイガを中心に、地面が波のように唸る。

その衝撃で天井も剥がれ落ちてくる。


波に押されながら、上から落ちる岩盤を避けていく。

それそれが壁際まで追いやられた。

一気に距離を離せられる。


ファーネだけがさらに孤立していた。

合流しようとするが、地面に足を取られ、立つことさえ難しくなっていた。


「ファーネ!無事かの!」


「はい、なんとか!足をやられやしたが!」


「足を負傷したか…まずいの…」


「コハク!何か来るぞ!」


地面に足をつけた鱗が逆立ち、隙間から光が漏れる。


「一体これ以上、何を仕掛けるのじゃ…」


鱗が閉じると、金属が擦り合う嫌な音が耳に刺さる。

途端に、至る所の地面が隆起し始める。


「皆さん!下から来ます!」


その場所からは六角形の柱が無数に飛び出してくる。


上からの落盤、下からの柱、揺れる地面。

抗うことが出来なくなってくる。

辛うじて致命傷とはならないものの、それぞれが傷を負っていた。


飛び出した柱は天井にぶつかると止まった。

幸いな事に、そのおかげか落盤が落ち着く。

しばらくすると、揺れも収まり動けるようになる。


「これほどまでとはの…」


「まさに厄災じゃな」


「もう限界っすよ…」


「諦めて死ぬか、抗って死ぬかやな」


いつのまにか、ファーネも合流出来ていた。

足を引き摺るように歩いている。

全員揃って固まるが、何も案が浮かばない。


私にできることは、考えることだけ…


「みなさん、少しいいですか!手短に!」


「なんじゃ話せ!どうせ妾たちには何もない!」


そう言われると、私の作戦を伝える。

博打のような作戦だが、これしか思いつかない。

四人も同じ考えになる。


「やるしかないの…」


「はい、かなり分は悪いですが」


「がはははっ!任せとけ!なんとかなる!」


「それではお願いします、皆さん」


再び、ゴルマイガに立ち向かう。

一か八かの大博打、やらやきゃ殺られるだけだ。


ファーネ以外が纏を発動させる。

私を守るのと、まだ纏を発動できないからだ。


《 炎ノ纏ホノオノマトイ焔羅ホムラ 》

《 氷ノ纏コオリノマトイ凍潔トウケツ 》

《 嵐ノ纏アラシノマトイ天鱗テンリン 》


猛る炎、冷潔な氷、荒れる天をそれぞれ纏う。

これで駄目ならどの道終わりだ、ここで出し切る。


ゴルマイガが、再びこちらを睨みつける。

まだ油断しているようだ、あわよくばそのまま…。



「やるぞ、お主ら」


「おう、任せろ!」


「はい、僕もやれます!」



まずはタルトーが仕掛ける。


《 纏ノ式マトイノシキ 氷海潔壁ヒョウカイケッペキ 》

「儂の氷はの、純水純潔じゃ、何ものも通さず、全てを凍りつかせてしまうからの」


タルトーの足先から地面が凍っていく。

滑る事を少しだけ期待したが、体は微動だにしない。

そのまま、ゴルマイガの足先を凍らしていく。

勢いは止まることなく壁を凍らし、抑え込むように氷の壁が出現する。


「ふぅーーー……はぁー……」


白い息を吐きながら深呼吸をする。

かなりいい環境が出来上がった。

後は…


「はぁぁぁああああ!!」


「コハク、頼んだぞ」


「任せておけ!」


刀を後ろに振りかぶり、構えを取る。

その身には炎の羽織は纏っていない。

今回は力技でいくので、狐月流は必要ないらしい。


これで、この戦いに終止符としたい。



《 纏ノ式マトイノシキ 鳳炎覇凰ホウエンハオウ 》



纏っていた炎が剣先に集中する。

熱に耐える剣が欲しいと言っていたが、これが。

普通の剣なら溶けて無くなっているからだろう。

それだの熱量を抑えながら、腕を振り切る。


全てを溶かし尽くすかの業炎が放たれる。

それは、一直線にゴルマイガへと向かって。


タルトーの氷で冷え切った洞内、そこへとてつもない熱量をぶつけることで発生する“水蒸気爆発”。


このエネルギー量だ、想像を絶する威力となる。


この崩落から逃げれるか、爆発に巻き込まれないか。

その事が博打だったのだ。


生存の可能性を上げるのがクベアの存在。

嵐のような風を操り、全員を包み込んで守る。

爆発の衝撃を流し、飛んでくる岩石を弾く。

嵐の中心は、音が聞こえないぐらい静かだった。


そのまま風で全員を持ち上げ、出口へ駆け抜ける。

崩れる洞窟をものともせず、薄く射し込む光の方へ。


この粉塵と衝撃でセンサーは反応していないが、あの巨躰が壁に打ち付けられていたのは確認できた。

あの爆発と衝撃だ、良くて死、そうでなくても一泡吹かせる事ぐらいは出来ただろう。


そうしていると、光が次第に大きくなる。

洞窟を抜ける事ができたのだ。

全員が無事に出る事ができた。

飛び出したと同時に、その場を転げる。


鳴り響く爆発音と共に、粉塵が巻き起こる。

洞窟の内部が崩れ、出口が埋まってしまった。


「生きてるの…無事か?」


「がははははっ!生きてるな!」


「はぁー、はぁー…しんどっ……」


「凄いやん!お前ら!」


「なんとか生き残れましたね、ありがとう」


「なんの、ナディの作戦のおかげじゃ」


「皆様の力あってこそでしたよ」


なんとか生き残る事ができた。

死を覚悟したが、生きているのだ。

それだけで今はよしとしよう。

あんな奴、存在するだけで反則だから。



取り敢えず全員が、その場に座り込む。

緊張の糸が切れたのか、崩れ落ちるように。


「ようやったのクベア」


「ふぅーーーっ…ギリギリでしたよ……」


「儂の鍛え方が良かったのだな!」


「もう立てへんよ、しばらく休も」


皆が束の間の休息を取る。

無理もない、圧倒的な存在を前に勝ったのだから。

大きな怪我もなく、この先も進める。

ここで体力を回復してから、再開する方が効率的。

そう考えて、見守る事にする。



その時、地響きが激しくなり、全体が揺れる。

音と振動は洞窟から発している。


「まさかの…」


洞窟の出口だった場所から、金雲母色の鱗が生えた鋭い爪とその足が飛び出す。

見たくもない。

その目はこちらを捉えて離さない。


また、あの目だ……

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