【第22話】洞窟への侵入

大峰魔山、今からこの山を登りきる。

その先に眠る、戒族の遺産を目指して。


私たちは山の麓にある洞窟の前にいた。

ここで休憩をして、洞窟へと入る予定だ。


武器の手入れをしたり、食事をするらしい。

手入れに関してはファーネが同行しているので、それを一手に引き受けている。


「すまぬな、全員分任せてしまって」


「大丈夫や僕に任しといて」


「ありがとう」


そう言うとコハクは、食事の用意をする。

タルトーとクベアが獲ってきた素材を元に、全員分の食事を作っていくとの事だ。

十分な設備もないので、焚き火で焼くだけだ。

飲み物や、乾物など日持ちするのが数日分。

この旅が何日かかるか分からないので、節約しながら慎重に進んでいく、


私は周囲の警戒を続ける。

道中はファーネに、充電をお願いしている。

私も無駄遣いは出来ないので、節電しながらになる。

今はセンサー関係にだけ、エネルギーを回している。


食事の用意が出来たのか、コハクが皆を呼ぶ。


「あの、確認なんやけど…」


「ん、どうした?」


「今から洞窟に入って、抜けた先の山道を歩いていき山頂を目指す、そこからは下るだけ?」


「そうじゃ、お主は里から出た事がないらしいの」


「そうなんだよ、山の周りをぐるっと回る方法はしなかったのか?そっちの方が早そうだが」


「セイ曰くの、切り立った崖が多かったり、毒沼や、迷いの木々の群生地だったりでな」


「それは…どっちも危険やねんな」


「そう、遠回りじゃがこのルートが安全」


これからの旅程を再度確認し終える。

食事を済ませ、装備も整える。

これから、洞窟の中へと侵入していく。

ここからは魔物がさらに険しくなる。

私たち以外に引っかかるもの、全てが魔物だ。

より一層の警戒を引き続き行う。


洞窟に入ると、あかりは必要なかった。

陽の光は届いていないが、床や壁、天井などに発光する鉱石がそこらかしこに埋まっていた。


「綺麗じゃの…」


「【明光石めいこうせき】やな、入り口付近の陽の光を吸収して発光、それが連鎖的に広がり洞窟全体を照らしてる」


「これなら灯りも必要ないね」


「聞いてはおったが、思ったより明るいの」


「ただ油断大敵や、向こうからも見えとる」


「そうじゃの、ナディ警戒頼んだぞ」


「お任せ下さい」


明かりに油断しないように、それぞれも警戒。

私も周囲を[探索/検索スキャン]しながら進む。

洞窟の中は意外にも広く、戦闘も無理なく行う。


奥から数体の反応がでた。

私はコハクに知らせる。

それぞれが武器を構え迎え討つ。


「全員、油断するんじゃないぞ!」


出てきたのは、1mぐらいのモグラ姿の魔物。

コハクとクベアがニ体ほど即座に斬る。

それを見た、魔物は地面を掘り隠れる。

全員が背中合わせになり、前方を警戒。

出てきたところを、タルトーが叩き潰した。

モグラ叩きの様だと思った。

問題なく、返り討ちにしていく。


「こそこそ隠れおって…まぁ、儂の敵ではないな!」


「クベアも中々動きが良くなってきたの」


「ありがとうございます!」


「皆さん、武器に異変を感じたらすぐに教えてな」


この先も、問題なく進んでいける。

同じモグラの魔物に遭遇する事が多い。

一度倒した魔物だ、難なく狩り進めていく。


途中から、道に傾斜ができてくる。

上に上に登る様に道ができていた。

山を登り進めている事なのだろう。


巨大なダンゴムシの様な魔物には全員驚いた。

登っていた道の先から、転げ落ちてきたのだ。

硬い甲羅を丸めながら勢いをつけて。

避けて放置するが、何体も転がってくる。


「じゃくさいの……ふんっ!!」


タルトーが野球をするかのように、転がってきた魔物に向かってハンマーを振りきる。

見事命中された魔物は、勢いよく飛んでいく。

それを何度か繰り返して、目の前を一掃する。


「がはははははっ!他愛もない!」


「ばかっ、声がでかいわ!響く!」


「お、おぉ…すまんな」


「ふふふふふ」


「姐さんに怒られましたね」


「やかましいわ!」


「声……」


「すまん…」


警戒は続けながら、緊張がほぐれている。

ここまで、大きな傷などもなく進んでいる。

四人の連携も問題なく出来ている。

この調子であれば問題ないだろうと思う。

それは皆も思っていただろう。


そう、何もなければ……



しばらく進んだ先で、広い空間に出る。

洞窟の中に、なぜか風の流れを感じている。

出口が近いのだろうかと話している。

この広い空間に魔物の反応は無い。

奥に通路らしいものがみえる。


そちらに向かって歩いていると、地鳴りが。


「おぉ、なんじゃ?」


かなり大きい揺れだ。

剥がれ落ちてくる岩などに、当たらない様に避けていく。

揺れは収まらず、益々酷くなる。


すると、私の足元が隆起する。


「ナディ!飛ぶのじゃ!」


私は地面を蹴り、隆起した場所から離れる。

突然爆発したかの様な衝撃が訪れる。

土煙が上がり、石や岩などが周囲に飛び散る。

間一髪で巻き込まれずに済んだ。


「無事かナディ」


「はい、なんとか」


「何が起こっておる」


「なっ…」


「おい、ナディ!何があるのじゃ」



土煙の中から、嫌な反応を感知する。

私が説明せずとも姿を表す。


軽々く踏み潰されそうな巨体。

全身を覆う暗い金雲母きんうんものような鱗。

全てを噛み砕きそうな口と牙。

周囲を容易く切り裂きそうな鋭く尖った爪。

その目は、見るものを恐怖に落とすだろう。


誰も動けずにいた、生物としての格が違うと。


後から聞いた話だが、この世界には【龍種】と呼ばれるものが存在している。

それは、この世界に五体のみ存在しており【火龍、風龍、土龍、電龍、水龍】と原素を現している。

災いであり厄災、見つかれば運がないと諦め。

鱗の一枚でも拾えば幸運がもたらされると。


その存在が目の前にいたのだ。

話を聞かなくても分かる、圧倒的な存在に。

こちらを睨みつけ、ただ一つ。


激しい咆哮を放つ。


閉鎖された空間で、それは強烈なものだった。

全員が耳を手で覆い、堪えている。

その衝撃は空間を揺らす。


先程の地鳴りで弱っていたのか、後方出口の通路が天井から崩落で、通れなくなる。

出口が塞がったのだ。

道は残されたが、目の前の龍が立ち塞がる。


「まさかの…笑えない冗談じゃな…」


「これはまた…ははっ……」


「姐さん、こいつって…」


「あわわわわわわわわわわ」




現れたのは、- 地龍【ゴルマイガ】-


私たちに幸運ではなく、災いと厄災をもたらす。

逃げ道も塞がれ、進む道も閉ざされた。

各々が何をするでもなく、ただ立ちすくむ。

その全容は、狂怖でしかなった。


「全員!武器を構えよ!!ナディは下がれ!!!」


コハクの振り絞る様な叫びで、体が動く。

戦うしか道はないのだ。

ただただ、無残に殺されるのであれば、少しでも抗い活路を見い出そうとする。

その事に気づき、全員を動かしたのだ。


私には、下がって邪魔にならない様にするしかない。

岩の陰に隠れ身を潜める。

最悪に備えてだ、そうならない事を願う。


唸り声を上げながら、笑っている気がする。

龍としての余裕があるのだろう。

こちらは出方を伺うしかない。

守りに徹して身を構える。


やるべきは命の優先。

生き残る事を前提に考え動く。

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