【第21話】戦闘スタイルの見直しと確認

私たちは戒族の遺産の在処を聞けた。

この大峰魔山を越えた先にある。

これから山を越え、隠された入り口を探し、ファーネが入り口を開ける。

かなり大変な旅になりそうだ。

魔物も沢山出ると聞く。

足手まといにならないようにしなくては。


グロガルの工房を後にし、宿屋へと戻る。

外は夜空輝く、満点の星空が広がる。

今日はいい一日だったと思う。

久しぶりに穏やかな日を迎えれた。


「ナディや…」


「はい、なんでしょう」


道中呼び止められたので、振り返る。

タルトーとクベアも同じく足を止める。


「話しがある…いいか」


「…わかりました」


戦えない私を危惧しての事だろうか。

神妙な面持ちでこちらを見つめる。

了承した私は、コハクと共に移動する。

タルトーとクベアには、先に戻るよう指示。


しばらく後ろをついて歩くと川が見える。

篝火が周囲を照らしているので、薄暗くはあるが周りを見渡せる。


足を止めたコハクが答える。


「お主に聞きたい事がある…」


「はい、なんなりと」


話しの内容は、ラザール王と戦った時の事。

意識が途絶え、気づいた時には両腕を失う。

しばらく慌ただしくしていたので、状況の説明ができていなかったとの事だ。

私の記録には何も残っていないから。


意図的に消されたような、そんな痕跡がある。


「と、言う事じゃ、何か覚えとらんか」


「すみません、何も記録に残らず何が何だか」


「……そうか」


コハクは刀を抜き、私に剣先を向ける。

少し驚いたが、話を聞くと納得する。


「お主のあの状態、妾には暴走してるように見えた」


「……」


「こちらの呼びかけにも答えず、今までやらなかった動き、それに…纏のようなものまで」


「はい」


「妾たちはこれから、大峰魔山を登り、戒族の遺産を見つけだす」


「存じています」


「この旅には仲間の命、預かったファーネの命まで妾が守ってゆかねばならぬ」


「私が不安材料…という事ですね」


「そうじゃ。あの時のお主が、妾たちに牙を向かない保証はどこにもない」


これから過酷な山越の旅となる。

不安材料は、一つでも潰しておきたいのだ。

魔物に囲まれた時に、私が暴走したら…と。


確かに、私の中にはもう一つのシステムが存在する。

何度も何度も探したが見つからない。

そのシステムは深くに身を潜めている。

時折り聞こえてくるノイズは、そのせいだ。


ただ、私にも証明しようがない。

何もできないのだ。


「信用してくれとは言いません、疑ってください」


「それは…」


「私の存在が脅威となるのは分かります、戒族の遺産を解読できるのが私だけなのでは?と考えるのも」


「その通りじゃ、お主をここに留め置くことも選択肢としてはある」


「ただ、時間がない今、それは出来ないと」


「お主の言う通り…リスクを背負ってでも…」


「だから、私を疑ってください。コハクのいう何かが、あなたたちに牙を向くようなら、私は自壊します」


「お主……」


「それに、私は信じています。その刀は私を斬り伏せる事が出来る、何かあれば斬れると」


「はっ、妾に委ねると?」


「拾われた命、あなた達の為なら惜しくない」


コハクは、刀を鞘に納める。

真剣な顔つきは少し崩れ、笑顔を取り戻す。


「自分でなんとかせい、を斬りたくない」


「厳しいですね」


「それぐらい厳しくせんと、付いて来れんよ」


「それもそうですね、頑張ります」


「それにの、お主には妾の命を預けておる…」


「返しましょうか?」


「ふふっ、遠慮するよ、利子がまだまだ付いとらん」


「これは…お返しする時には大変ですね」


「しっかり返せよ、“妾たちの平穏”を付けて」


私たちは、宿へと戻る。

宿に入ると二人から質問を受けた。

同じ仲間として、包み隠さず話す。



二人は意外な反応を示した。



「がはははっ!任せておけ、お前ぐらい儂が抑え込んでやるわ、安心せい!」


「うん、僕も協力するよ。これ以上仲間を失いたくないからね」



コハクは笑っている。

こうなる事を予想していたのだろうか。

皆がとても頼もしい。

やはり、この人達に生きていて欲しいと思う。



一晩経ち、夜が明ける。


それぞれ、竜族でいただいた服装に身を包む。

山を登るのに動きやすい服装だ。

重たくなる鎧などは着ないとの事。

その代わり、特殊な糸で紡ぐコートを羽織る。

色々なものから身を守ってくれるそうだ。


各々の武器を携え、準備は万端だ。


杖が必要なくなり手軽になったと喜んでいた。

今までは、メインの武器と短い杖を何本か用意していたらしい、新しい技法によって生み出された武器のおかげとの事だ。


見送りには皆が揃っていた。


スイはコハクをからかっている。やり過ぎたのか、刀を向けられ、たじろいでいた。

タルトーはクロハと殴り合っている、いつものだ。


ファーネはグロガルに見送られている。


「あまり無茶はするなよ」


「分かってるって、大丈夫や」


「必ず生きて帰ってこいよ」


「しつけーな大丈夫だってハゲ…」


真剣な眼差しを向けられていた。


「爺さん、ちゃんと戻ってくるよ」


「行ってこい、そして見てたものを俺に教えてくれ」


「分かった、行ってきます」


二人は熱く抱擁を交わす。


それぞれが想いを託す。

私たちがたちが山越絵をしてる間は、セイに残りの魔王心を託す事にする。

残りの種族王を、集めるように動くらしい。



私たちの未来へと紡ぐ為にやるべきことを。



山への道は、里の奥から入れる。

名残惜しいが、先を急いで進んでいく。


しばらくは見慣れた森が続く。

私は、[探索/検索スキャン]が使えるようになっていたので、周囲の探索を買う。

魔王心の数が少なくなったので、こちらへの影響が少なくなっているようだ。


山に近づくに連れて、魔物の出現が増える。

本格的に山に入る前に、お互いの連携も兼ねて、襲ってくる魔物から狩っていく。


コハクは、刀を軸に素早く動いている。

時折、刀から放たれる術式もスムーズだ。

戦闘の幅が広がったと、嬉しそうにしていた。

鞘から抜かれる瞬間は閃光のように速い。


タルトーは大型のハンマーで魔物を潰す。

見た目の通り、細かい事は性に合わない。

このハンマーも製作過程で魔石を練り込み、取っ手の部分にトレントの柄を使用し、杖の代わりになる。

ウォーターに適性があるらしく、ウォーターでハンマーを覆い、攻撃範囲を広げたり、圧縮した物を放ち、切断する。


クベアは、そのでかい体からは想像できないほど、俊敏に動いている。

ウィンドに適性があり、ウィンドで動きを補助しながら、森の中を駆け回る。

風のように、自由に動き魔物を斬り伏せる。

小太刀の切れ味も凄まじく、特訓の成果もあってか、素早く斬り刻んでいく。


ファーネは小柄な体格でありながら、大剣を自由自在に振り回している。

動きの速い魔物には、エレクトを浴びせ、動きを封じた先に大剣で叩っ斬る。

2〜3体ぐらいなら、まとめて両断していた。


私は見ているだけだ。

皆の邪魔にならないように、動きを観察する。

いつか腕が戻った時ようにデータを集める。

自身の戦闘スタイルへとトレースする為に。


《 「イイゾ」 「アツメテイロ」 》


( あなたは何者ですか )


《 「オマエニ」 「カンケイナイ」 》


以前よりかなり鮮明に聞こえている。

こんな時にまた出てくるとは。

前に出てきたのが影響しているのか。


( あなたの名前はなんですか )


《 「ナナド」 「ナイ」 》


( では…あなたは【ノイズ】と呼びます )


《 「スキニ」 「シロ」 》


( 私にとってはただの雑音ノイズです )


《 「シルカ」「マタ」「カラダワタセ」 》


( あなたの目的はなんですか? )


《 「スベテヲ」 「コワス」 》


そこで会話が途切れる。

コハクに呼ばれたからだ。


「なんじゃ、動きもせずに、大丈夫かの?」


「はい、大丈夫です。先を急ぎましょう」


今はまだ何も言えない。

目的も何もはっきりしていないのだから。

今はノイズが出てくるまで何も出来ない。


やはり痕跡は綺麗に消されている。

私の中を探しに潜るが、見つからない。

会話ができるようになったのは進展か。

少しずつ情報を引き出していく。


いつの日か、決着をつける。

この体は自由にさせない、自壊する訳にも。

それに、皆に牙を向くわけにも…。


山に登るのはこれからだ。

はじめは山に空いた洞窟から上を目指す。

途中から外の山道へと出て、頂上を目指す。

外側からの迂回は、崖や毒沼があったり危険なポイントが多すぎるとの事だ。


皆の準備運動と、連携の確認も終えたようだ。

この先は魔物を避けるように進んでいく。

大峰魔山の洞窟へと向けて。

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